「さて、投票が終わったみたいだね! それでは、結果はっぴょーう! 今回は二つの事件のクロを指摘する必要があったけど、まとめてやっちゃうよ!」
……モニターに映る今回のスロットは、上下2ラインで回転している。そして、上のラインは岸和田先輩の似顔絵で止まったが、下のラインは回り続けたままだ。……それが次第にゆっくりになっていき、似顔絵の絵柄も岸和田先輩と堀津先輩の二種類しかないことが目視で確認できるような速さになった。
岸和田先輩、堀津先輩、岸和田先輩、堀津先輩……リールはいったん止まっては、サイド1コマだけ動くような演出を続ける。そして、ついに、下のリールは堀津先輩で停止すると、おめでとう、とばかりにスロットはキラキラと輝きだし、大量のメダルが吐き出されたのだった。
「今回も大せいかーい! 準・超高校級の釣り師、手岡漁子サンを殺したクロは岸和田安美サン、その岸和田安美サンを殺したクロは堀津圭司クンなのでしたー!」
その画面を見ながら、堀津先輩は、
「……ふむ、追いつかれたか。追跡者の俺が」
とこぼす。
堀津先輩。
――椅子の下にもぐれ! そうしたら座面を前に倒すんだ!
最初のモノクマの自爆に、的確な指示を出して危険から救ってくれた堀津先輩。
――首謀者に近づこうと思ってるんだよ
持っている情報を生かし、この事件を追及していこうとする堀津先輩。
――堀津の名にかけて!
自信家なところもあって、黒幕が見張っているのであろう監視カメラに向かってそう宣言する堀津先輩。
――カディナを仰向けに寝かせろ!
第二の事件の際、カディナ先輩の身に起きた急変にも何とか対応しようと緊急措置に当たってくれた堀津先輩。
――お前は、強い奴だな。
ラブアパートで磔台を見てオシオキをフラッシュバックさせてしまった僕に励ますような視線を送ってくれた堀津先輩。
……なぜ、堀津先輩がこんなことを? いや堀津先輩だけじゃない。岸和田先輩も、なぜ手岡先輩を……二人が受け取った動機はいったいなんだったんだ?
「……お前たちの方でも聞きたいことはあるのだろうが、こちらからも言いたいことがある」
そう切り出して、堀津先輩から発せられた言葉は。
「実はな……瑞倉が作った薬品棚のリストを破り捨てたのも、モノクマポイズンAをちょろまかしたのも……俺じゃあありませーん!」
謝罪でも、動機でもなく、予想だにしないものだった。……モノクマポイズンAなんて、僕が第一の事件の前日に睡眠導入剤代わりに使ったモノコロリンのように、薬にもなるようなものじゃないのに?
「そもそも俺がモノクマポイズンA2を使った殺人を思いついたのも、そいつがモノクマポイズンAを持ち出したのを見たからなんだよ。……こうすればうまいこと議論を誘導すればそいつに罪を擦り付けられると思ったんだがな……」
そう説明を続ける堀津先輩に対し、
「……それが本当やったとしたら、モノクマポイズンAの変色に関して明らかにしたベニヤンはほんとにファインプレーだったんやな」
「いや、クロだと指摘されてやぶれかぶれになって俺たちを混乱させようとしてるだけっす!」
「そうだよ! あんな暴言を吐いていた人のことを信じるの?」
「やっぱそうだったかー。なんだか不自然だと思ったんだよね。せっかく保健室に忍び込んでリストを破ってモノクマポイズンをちょろまかしたのに、なんでわざわざ別の似たような毒なんか使うんだろ、って思ってたんだよ。まあ議論が混乱するからあえて切り出さなかったけど」
……と意見が真っ二つになってしまった。それを見てすかさず、モノクマが宣言する。
「お、良い感じに議論が真っ二つになってるね! もう学級裁判の結論自体は出ちゃってるけど、今回議論スクラムがなかったからちょっと物足りないなあ、って思ってたところなんだ! よし! せっかくだしやっちゃおう! この演出は好評のようだからね!」
……そうして、証言台は対面するような形に代わっていく。
堀津圭司だ!
瀬戸・竹枡・勝・黒須・羽月
堀津圭司ではない!
一目・琴間・堀津・芳賀
竹枡「裁判中にあんなふうに暴言をはいた人の言うことなんて信じられないよ!」
琴間「暴言を言ったことと今嘘を吐いているかどうかは別問題です」
黒須「保健室に入ってリストを破ることは誰にでもできたんだから堀津くんにもできたよ!」
芳賀「ならそれはデカ以外の人でもできたってことやろな……」
瀬戸「それじゃあ……何の目的があって?」
一目「内通者なら僕らを混乱させるって目的があったんじゃない?」
勝「ってことはモノクマポイズンAは今誰かの部屋にあるってことだよね。第一の事件のときモノクマに持ってきてもらったように、今回もそうすることはできないかな?」
琴間「その誰かは恐らく内通者です……せっかく正体がばれないまま潜伏している内通者をばらすようなことは、モノクマはしないでしょう」
羽月「そもそもさ、なんでその人が持ってるのがモノクマポイズンAだということやその使い道がわかったの? ラベルや注意書きを読めるような距離まで近づいてじっくりと見て読んだ、ってわけじゃないでしょ?」
堀津「俺はスマホを含む瑞倉の遺品を最初に受け取ったんだぞ。中に保存されていた写真は、手荷物として持ち込んだデータ通信ケーブルで、俺のトリックに使わなかった方のスマホにも移してある。ラベルや注意書きもそれと見比べて照合したんだ……ちょうど『変色あり』ってところだけは隠れていたのが命取りだったがな」
「どうやら信頼されたようだな、あれほど暴言や嘘を吐いた後なのにそうしてもらって嬉しいよ。まあそれが誰だったかは教えてやらねーけどな。せいぜいおれが死んだ後で追ってみな」
と、堀津先輩は皮肉たっぷりな口調で言ってのける。
これが真実だとしたら……僕らの中に、まだ、モノクマの息のかかった内通者がいるってことになる。……しかし二つの事件が同時に起こった学級裁判の後で、さらにそれを追及するような気力は、もはや僕たちには残されていなかった。……みな言葉も上げられない様子だ。
「どうしたどうした? みんな押し黙って。俺に聞きたいことがあるんじゃないのか?」
「じゃあ僕がみんなに代わって聞いておくよ」
この中だと比較的余裕のありそうな一目先輩が口を開いた。
「淫売男か……しかたない。まあ質問の内容は予想できてるがな」
「じゃあ予想通りの質問をさせてもらおうかな。君の秘密はなんだったの?」
「……少し予想とずれたな。『どうして岸和田さんを殺したの?』あたりだと思ったが。まあいい、応えてやる」
と言って、ポケットから一枚の紙を取り出して、書かれていることが全員に見えるように広げた。
『堀津圭司は、一度被害届を出しておきながらそれを取り下げた人間を憎悪しており、殺害して遺体を処分して失踪扱いにさせることを繰り返している殺人鬼である』
……は?
なんだこれは。
堀津先輩が……殺人鬼?
「ははあ……さすがにこれは偽物じゃないんだろうね。ジェノサイダー翔やキラキラちゃんみたいな自己顕示欲が強いタイプとは違ってむしろ逆に遺体や痕跡を全くを残さないような殺人鬼が世の中には存在するとは思ってたんだけど、まさかこんなすぐ近くにいたとはね」
……そうだ、一目先輩は掃除しながら殺人鬼特集を読んでいた時そんなことを言っていたな。
「しっかしまた、なんでそんなことを?」
「なんでって、追跡して逮捕してほしいからこそ被害届を出したのに、それを撤回してもう追うな、なんてそれまで追跡にあたっていた人間に対する最大の侮辱だろ? だからその罰を与えただけなんだよ。幸い、一度でも被害届を取り下げた奴に対しては警察も冷淡だからな」
理解できない弁をしゃあしゃあと述べていく堀津先輩。……彼が異常者だということは理解した。殺しを繰り返している殺人鬼なら、今まで一緒に過ごしてきたクラスメートを殺すことにも対して罪悪感というものを抱かないだろう。
しかし、だとしたら……なぜ岸和田先輩は手岡先輩を? この疑問は、何度も何度も僕の頭の中に浮かんでくる。
「岸和田サンのほうは亡くなっちゃってるから、僕の方から実際に配られた動機メモを発表するよー! それでは、モニターの方をご覧ください! じゃじゃーん!」
モノクマの掛け声と同時に、モニターに浮かび上がった文字、それは。
『手岡漁子は、処分に困った遺体を回収している、殺人鬼の協力者である。岸和田安美の祖母、比嘉飯子を魚の餌にしたのも彼女である』
……すでに衝撃で打ちひしがれている僕らにさらに追い打ちをかけるものだった。堀津先輩だけでなく、手岡先輩まで、そのような異常者だっただなんて。
「まあそういうことだ。あいつの名誉のために言っておくが、手岡は直接殺しに加担してたわけじゃない。……のだが、それでも、家族の遺体を損壊されたことは岸和田にとって許せなかったんだろうな」
「……まあ、監禁されながらも今まで仲よく過ごした期間より、監禁しているモノクマが寄こした秘密の方を信じたってことは、記者さんの方でもそれなりに信じるに足る情報をつかんでいたんだろうね」
と、補足を付け加える堀津先輩と一目先輩。……比嘉飯子って、僕らが監禁された日の新聞に載っていた、失踪者だった覚えがある。まさかここにいる岸和田先輩、手岡先輩、堀津先輩の三人にも因縁のある人物だったなんて、……幸運の真逆、悲運、とでもいうものが付いているとしか思えない。
「でも、あんな毒ガスを使ったってことは、追跡者君は協力者の釣り師さんの方も殺すつもりだったんだね、記者さんが釣り師さんを殺さずにとどまっていたら、二人を殺したクロは君になってたはずなんだからね」
「ああ。あいつは馬鹿だったからな。いい感じに口車に乗ってくれたよ。岸和田の誘いを受けたことも教えてくれて、話にのってみてくれって指示したらその通り動いてくれた。だから俺はラブアパートに都合のいい時間に毒ガスが発生するようにモノクマポイズンA2を仕込めたんだ。首尾よく口封じできれば、少なくともこの中には俺の秘密を知る奴がいなくなる。クロになって卒業できれば、動機メモの内容を暴いた黒幕側の誰かにも接触できると思ったからな」
「いやはや、僕も自分ことをまともだとは言い切れないけど、そんな僕でも他人をまともじゃない、って思ったのは珍しいよ」
「ああそうだまともじゃない。俺も、手岡も、岸和田も」
……岸和田先輩のことも自分と同類と括るのか。
「岸和田の祖母、比嘉飯子も馬鹿なババアだったよ。騙されて金を奪われて詐欺の被害届を出したのに、詐欺師に謝られたら簡単に許して被害届を撤回しやがった。……わざわざそんなことしなければ、俺に殺されることもなかったのにな。そうしていたら、孫の岸和田安美も殺人なんて凶行に及ばなかったかもなあ。ついでにその詐欺師どもは、相変わらず元気においぼれどもを騙して金を撒きあげることをを繰り返しては、言いくるめて被害届を撤回させたりそもそも提出させなかったりするような手段でしこたま稼いでいるらしいな。そいつらには警察も何もできん。そもそも被害者がいないから犯罪じゃないんだからな。単なる売買契約とか贈与、ってことになる。警察権は民事不介入を大原則としている。まあ殺人鬼の俺がいうようなことじゃないかもしれないがな」
「もうやだ! 聞きたくない! ケイちゃんなんてはやくオシオキされちゃえ!」
突如、子供の癇癪のような声が裁判場に響き渡る。これは……黒須先輩だ。この口調、まさかまた幼児退行してしまっているのだろうか? 議論スクラムの時までは平常だったのに……だが無理もないか。学級裁判、岸和田先輩の殺人、堀津先輩の殺人、堀津先輩の言い分、手岡先輩の秘密、内通者の存在。こんなにまで色々なことが怒涛のように襲い掛かってきて、僕も頭がおかしくなりそうだ。
「……ま、そうだな。あんまりながながつらつらおめおめと喋るのは性に合わん。モノクマ、そろそろ始めてくれ」
「おやおや……自分からオシオキを始めてくれだなんて、堀津クンもせっかちさんだったんだなあ。まあいいや、『準・超高校級の追跡者』、堀津圭司クンのために、スペシャルなオシオキを用意しましたー!」
モノクマがそう宣言すると、どこからか飛んできたワイヤーアームが堀津先輩の首をつかんでいったのだった。
ワイヤーアームに引っ張られていった堀津先輩が降り立ったのは、裁判長席、裁判官席、司法委員席、検事席、弁護人席、傍聴席がある、現実の裁判場のようなところだった。しかし、そこにいるのは、人間ではなくモノクマの群れだ。そして裁判長席には、立派なスーツを身にまとい、ひげを蓄えたひときわ大きなモノクマが腰かけている。手には『静粛に!』っていう時に叩かれるような槌を携えている。
そして堀津先輩は、被告人に当たるところに、首にアームをはめられたまま立たされている。そんな彼に向けて、検事席にいるモノクマは『死刑』と書かれたトランプほどの大きさのカードを掲げたかと思うと、堀津先輩に向けて手裏剣のように投げつけた。……それは堀津先輩の左肩に突き刺さり、血を垂れ流させた。
続いて、右側の弁護人席にいるモノクマも同じように『死刑』と書かれたトランプを投げつけたかと思うと……追撃するように前方の裁判官席からも、後方の傍聴人席からも次々に矢継ぎ早に投げつけられる。それらは全て堀津先輩の身体に命中し、ありとあらゆる部位から垂れ流された血液が、堀津先輩の服を真っ赤に染めていく。
そして、裁判長席のひときわ大きなモノクマが、裁判長席から急に飛び出して堀津先輩の前に降り立ったかと思うと……手に持っていた槌を思いっきり振りかぶり、頭に一撃を加える。
額がぱっくりとかち割られ、頭蓋骨が露出されたが……まだ息があるようだ。すると大きなモノクマは再び飛び上がり、裁判長席に戻ると……『絞首刑』と書かれた半紙を広げた。他のモノクマはそれを見て、両手を上げて喜んでいる。
……そして、堀津先輩の足元の床が、ぱかっと開いて、ワイヤーアームで首を吊られている状態になった。しばらくばたばたともがいていた足が、次第に力が抜けていき。そして動かなくなったのだった。
「うーんエクストリーム。警察と協力する才能の殺人鬼が、裁判場を模した場所でオシオキという名の私刑を受けて絶命する。何重にも皮肉が聞いていて味わい深いものですなあ」
堀津先輩への、無惨なオシオキ。……殺人鬼と発覚したとはいえ、今まで僕らを引っ張ってくれて来ていた彼のそのような最期は、当然のように僕らに大きな衝撃を残した。
「……ねえ、もう終わった? 眼を開けて大丈夫?」
いつの間にか僕のそばに来て、うずくまっていた黒須先輩がそう尋ねてきた。
「……はい。終わりました」
「よかった……」
言葉に応じて、黒須先輩が頭をあげた。……その瞬間。
「いや、まだ終わってないよ? クロがもう一人いるのを忘れちゃったの?」
モノクマは無情にもそう言ってのけた。
「続いて、『準・超高校級の記者』、岸和田安美サンのためにご用意した、スペシャルなオシオキをご覧ください! どうぞ!」
……胸に穴の開いた、岸和田先輩の遺体が黒い地面の上に横たえられている。衣類は身につけず、下着姿だ。
そこに巨大なモノクマがあらわれ、彼女の胴をわしづかみにしたかと思うと、地面に押し込むようにこすりつけた。……地面には細かなでこぼこがあるようで、背面の皮膚が削られていってるようで、ダラダラと血が垂れていく。
……既に亡くなっている岸和田先輩は虚ろな目をしている、が、僕の身体にも痛みが伝わってくるような感覚が伝わってくる。
……そして、その血液は緩やかな斜面を下るように流れていって、下にあるくぼみに少しずつ少しずつ溜まっていっているようだ。
これは……岸和田先輩が今いるのが巨大なすずりの上で、彼女は墨のように削られていっている、という状態なのだろう。
僕らがそれを理解してなお、巨大モノクマは岸和田先輩を擦り続けるのを止めない。ざりっ、じゃりっ、ざりりっ。じゃりりっ、と嫌な音が耳に届いてくるたびに、血液はなお、かさを増していく。
……それはいったい、何往復繰り返されただろうか。ようやく手を止めてくれたかと思うと、モノクマは今度は筆ペンのようなものを手に持ち、すずりに溜まった血液にペン先を浸していく。
そして、そのペンで謄写版の上にのせられたガリ版紙に熱心な様子でなにかを書き上げていく。……そして完成した記事には
『殺人犯 岸和田安美 オシオキを受ける!』
そのように、銘打たれていた。
出来上がった記事を眺めて、モノクマは腕を組みながら何かを思案した後、今度は判のようなものを取り出してすずりの血液に浸して、
『採用!』
と押印したのだった。
「いえーい! 本日二度目のエクストリーッム! もう亡くなってる子にオシオキしてもいまいち盛り上がりに欠けるかなあ、とは思ったけど、こういうのも意外と悪くないね!」
……まさか、遺体にまでこのような冒涜を行うなんて。
「うわぁぁぁぁあああああああああああああん! 誰か助けてえええええええええええええええ!」
……黒須先輩は、僕の足元にしがみついて大きな泣き声を上げている。自分も錯乱しそうな心情になりながらも、今回は黒須先輩がこうなってしまっているからこそ逆に、ようやっとの気持ちで自分を支えているような状態だ。
「とゆーわけで、今回はオシマイ! 続きはまたコロシアイが起こってからのオタノシミ! それじゃあみんなエレベーターに乗って帰ってちょうだい!」
まるで紙芝居でも終わったかのように、そう僕らに告げるモノクマ。……奴に啖呵を切った堀津先輩は、もういない。僕らが今、クロとして糾弾したのだから。
……ここにいても仕方がない。早く帰らなければ。と黒須先輩に声をかける。……竹枡先輩も似たような状況の様子で、瀬戸先輩がなんとか支えてあげているようだった。ようやく乗り込んでも、誰も口を開く様子もない。ただ、稼働音がやけにうるさく、檻のような、だけど人数がまた減ったせいか広く感じるエレベーターの中に響き渡るのだった。
――――
『モノクマ劇場』
もう今回は二回もオシオキをしたからって油断してなかったかな? それともワクワクドキドキ期待して待ってたかな? キミはどっちだったのかなあ?
とゆーことでお待ちかねの! 今回のシロ、手岡サンへのオシオキだよ!
クロとして決定した手岡の身体を、どこからともなくあらわれた無数の槍が貫く。
……それは派手に血をまき散らしながらも、ことごとく急所を外しているようで、手岡の眼は見開かれ、口はパクパクと震えるように動き続けていた。……それはどこか、水から上げられた魚を思わせる。
そして、彼女は大扉に引きづりこまれていく。もちろん、身体中には無数の槍が刺さったまま。……その先は水の中だった。
いきなり水の中に落とされ、口から大きく気泡を吹き出しながら、当てもなくもがき続ける手岡。だが、それは甲斐もなく、むしろ出血の量を増やす役にしか立ってないようだ。
そしてその血の匂いに誘われたのか……ぎょろぎょろとした目玉と鋭い牙をたずさえたピラニアのような魚たちが、うようよと彼女に近づいていったかと思うと、ばりっ、っと勢いよく一噛みする。……それで大きく肉を食いちぎられてしまったようで、腕から骨が露出してしまっている。
……それが呼び水となったのか、他のピラニアたちも我先にと手岡の身体に群がっていく。そして、あっというまに、彼女の身体から肉をこそげとってしまったようで、ただ、骨だけが、そこに残された。
ピラニアたちは満足そうに、水の中を泳いで去っていったのだった。
そして、その骨が水から引き上げられた。どうやら巨大なモノクマが手岡をエサに釣りをしていたようだ。そのエサだけ取られたモノクマは地団駄を踏んで、釣り竿を水の中に投げ捨てたのだった。