ダンガンロンパ・コンパチブル   作:こんぱち

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第四章 (非)日常編2

 ブブー! ブブー! ブブー!

 竹枡紅さんが厨房で校則違反となる行為をしました!

 ブブー! ブブー! ブブー!

 竹枡紅さんが厨房で校則違反となる行為をしました!

 ブブー! ブブー! ブブー!

 竹枡紅さんが厨房で……

 

 けたたましく鳴り響く警告音とアナウンス。監視カメラに映らないよう布団をかぶったままの状態で77期生の狛枝先輩と連絡をとっていた僕は、アナウンスの内容だけ告げて即座に通話を切り、寝間着のジャージのまま部屋を飛び出して厨房へと向かった。

 今までこのような自体はなかったが、校則に違反するとどのような罰則があるのだろうか。監禁してコロシアイを強制するような奴らだから、最悪、死……それもオシオキのような残酷な……いや、悪い想像はやめておこう。とにかく今は竹枡先輩の無事を信じるしかない。しかし竹枡先輩はいったい何をしてしまったのだろうか。

 考えながら、厨房の前、食堂にたどり着く。が、もしかしたら、もしかしたら……と、なかなか厨房に入る勇気がわかずに二の足を踏んでしまい、まごついてしまう。……ケガをさせられて一刻を争う状態になっている可能性だってあるというのに。

「……琴間チャン」

 そうこうしているうちに、瀬戸先輩も同じくやってきて僕に声をかけた。竹枡先輩に恋愛感情を抱かれいることが公然となっており、本人としてもやぶさかではない思いをしている瀬戸先輩。やはり彼もその竹枡先輩に身の危険が降りかかったと知って、狼狽しているような表情をしていた。とにかく彼はすぐにでも竹枡先輩の無事を確かめたいようで、立ち尽くしている僕を尻目に厨房の中に押し入るように入っていく。それにともなって、僕も彼の後ろについていく。

「竹枡チャン、……まさか!」

 厨房に入ってすぐの流しの前に、竹枡先輩はあおむけに倒れていた。その傍らの床には陸上の投擲競技で使うような槍が突き刺さっている。

「あれ……瀬戸くん」

 駆け寄った瀬戸先輩に抱き起された竹枡先輩。

「よかった……一瞬、その槍が刺さってるんじゃないかってドキッとしたっす」

 僕も一瞬、竹枡先輩の身体に刺さっているのかと思ったが、脇をかすめただけのようだった。しかし、こんな至近距離を槍が通過したら生きた心地がしないだろう。そのせいで気絶してしまっていたのだろうが、瀬戸先輩に抱えられ、呆然とした表情からどこか幸福そうなそれへと変わっていった。こののろけたような顔、生き生きとした顔、本当に、見れて良かったと心から思う。

「竹枡さん! だいじょうぶ?」

「無事やったみたいでよかった……それにしてもなんや嬉しそうやん」

 安堵の気持ちをなでおろしている間に、他の先輩方もアナウンスを聞いて集まってきたようで、厨房の中にぞろぞろと連れ立って入ってきた。

「それにしても校則違反なんて、いったい何を……」

「竹枡サンはね、モノクマポイズンAを排水溝に流して捨てたんだよ」

 どうやらモノクマも先輩方に混ざって厨房に入ってきたようで、僕らにそう告げた。……あれ? 二体いる? まあ初日自爆した後にすぐ別のやつがあらわれたってことは、スペアはたくさんいるんだろうが、一度に複数のモノクマが姿を現すなんて、これもまた今までになかった事態だ。

「校則の5番に『消耗品の無駄遣いは禁止します』って書いてあるのにこんなことするんだもんね。まあ具体的に『薬品棚の毒や薬品を廃棄することは禁止します』って書いておかなかったこっちにも落ち度はあるから百歩譲って今回はグングニルの槍を飛ばして警告するにとどめておいたけど、次からは確実に刺さるようにするからね!」

 一歩間違って身体に刺さっていたらほぼ死んでいたような、そうでなくても大怪我はまぬがれない槍を人に向けて飛ばしておきながら、いけしゃあしゃあと『百歩譲って』などと言い放つモノクマ。

「それに合わせて生徒手帳の方の校則にも追加してあるから目を通してね」

 そう促されて、僕は電子生徒手帳を取り出す。

 

『追加校則

 5‐2

 薬品棚の毒や薬を、排水溝や焼却炉に廃棄することを禁じます。

 10

 一人の犯人が殺せるのは最大二人までとします』

 

 見ると、毒物の廃棄だけでなく、殺害人数の上限に関する校則も追加されていた。

「……この追加された10番の校則は?」

「前回、二人分死体が出たから一応ちゃんと明記しておかなきゃいけないからね。それに複数人を巻き込めるアイテムもそこそこあるから、こうしてきちんと書いておかないとクロが他の全員を殺して裁判も不戦勝、みたいなことになりかねない、って気づいたから明文化しておいたの」

「……ごめん、慌てて出てきて生徒手帳持ってこなかったから見せてもらっていいかな?」

 そう僕に話しかけてきたのは勝先輩だった。僕は布団にもぐった状態で77期生と連絡を取っていたため必要があったときにすぐに参照できるように電子生徒手帳も一緒にポケットに入れておいてあるが、あのアナウンスで慌てて出てきたのだったら持ってこなくても仕方ないだろう。僕は承諾して、画面を勝先輩に向けて掲げる。

「読み終えたよ。ありがとう」

「さて、全員に新しい校則が伝わったところで、ビューティーアドバイザーさんには聞かなきゃいけないことがあるよね」

 そう口を挟んだのは一目先輩だった。

「なんでわざわざ、早朝も早朝に、一人でモノクマポイズンAを排水溝に廃棄する必要があったのかなあ?」

「そ、それは……前回の事件でモノクマポイズンAの変色を調べるために一本持ちだして変色がどんな感じで起きるかの実験をしたけど、中身のほとんどが余っちゃったし、一度開封したのを戻すのも良くないと思って捨てようと……」

「それにしたって朝早すぎない? 今6時10分かそこらだよ? 毎朝のモノクマの『朝6時になりました! 夜時間に閉まっていた施設が開く時間です!』っていういつものアナウンスがなってすぐ厨房に駆けつけて捨てるぐらいにすごく急いでいた理由を知りたいな」

「だって気化して毒ガスになるけど加水分解したら無害になる毒だから、換気扇も水道もある厨房で、誰も起きていないうちに一人だけでやったほうが安全だと思って……」

「うんうん……そういうことね」

 竹枡先輩の弁明に、細かく相槌を打ちながら聞き入る一目先輩。

「まあ、そういうことなら納得かな。追跡者君が『モノクマポイズンAを持ち出したのは俺じゃない』って言ってたから、もしかしたらビューティーアドバイザーさんがその持ち出した人物、ひいては内通者なのかもしれないって思ったけど、そうだったら追跡者君が裁判のときにそのことを持ち出して反論してるはずだよね」

 こんな状況でも一目先輩はいつも通りの、どこか含みのある言い回しだが、抱いていた疑いは晴れたようで安心した……が、そうだとしたらこの中にモノクマポイズンAを持ち出して前回の学級裁判をかく乱し、今なおそれを所持している人物がいる、という問題がまた持ち上がってしまう。……だが、そのことを話題にあげるべきだろうか? 

 

 

モノクマポイズンAを持ち出した人物を探すべきだと主張しますか?
 

>いいえ<
 

 

 ……いや、そんなことをしても疑心暗鬼に陥るだけだ。おそらくすでに、別の容器に移されていたりして隠蔽工作も行われているだろう。

 それに人を殺せるような道具は何もモノクマポイズンAに限ったことではない。それにばかり拘泥してもらちが明かないだろう。……加えて、今生存している先輩方、疑おうと思えば疑えてしまう。

 ……どこか客観的で言いにくいことも切り込んでいく一目先輩。

 厨房を使う機会が多く洗剤などの消耗品の中にも隠せそうな勝先輩。それだったら瀬戸先輩も美容室の器材の中に紛れ込ませられるかもしれない。

 うがった見方をすれば、竹枡先輩もたった今モノクマポイズンを捨て、槍による罰則を受けて見せることによって容疑の外に行こうとしている可能性だってある。……羽月先輩ももしかしたら、芳賀先輩も、黒須先輩だって……。

 いや、いま疑わない方向に決めたばかりじゃないか。と首を少し横に振る。今優先すべきことは、とにかく、出来る限り早くモノクマの機能を止める策を講じることであり、過去の事件をむしかえすことではない。

(……疑えてしまうとか、過去の事件とか)

 そう考えて、自分もまあずいぶんとドライに考えるようになったものだ、と痛感してしまう。まだ二週間もたってないのに、7人も友誼を交わした人たちが亡くなった、年齢も自分と大差ない、というのに。……それも、シロとなった先輩もクロとなった先輩も、無惨なことこの上なく。

「さてさて、ちょうどみんなそろったし、お約束の学級裁判を乗り越えたごほうびを伝えなくちゃあね」

 考えを巡らせている僕の耳に、再びモノクマの声が届いた。

「ボクは考えたのです。この状況において、キミたちが望んでいることは、新たに行けるフロアを増やして可能性を広げることより、今ある危険性を狭めることのほうだと」

 と言って、厨房の入り口に集まっている僕らの中心当たりの床に、小さなカギを投げ落としてきた。

「これは薬品棚の鍵だよ! みんなどの事件でも薬品棚の物の存在に振り回されてきたし、確認にも複数人で当たらなきゃならない場所があったら、人数が減ってきた今捜査に滞りも出るかもしれないからね! 鍵をかけるもかけないのも自由! かけた後に誰が管理するかもみんなで自主的に決めて、捜査に役立ててね!」

 また学級裁判がおこる前提で話を進めるモノクマ。

「それとね、最初に集まった人数から半分近くにまで減っちゃって、みんな寂しい思いをしているんじゃないかな?」

 その減った原因は自身が強いているコロシアイによるものだということを棚に上げてモノクマはそう言ってのけた。

「だ・か・ら、新しいお友達を用意したよ!」

 そう宣言して、モノクマはもう一体のモノクマの頭を持ち上げる。そのもう一体のモノクマは着ぐるみだったようだ。

「ひいいっ!」

 ……そのモノクマ着ぐるみの中から出てきたのは、長髪、というより清潔感なく無造作にのばされた髪を持ち、やややつれたように痩せた顔を持った女子だった。彼女は僕らを見ると、なにかに怯えたように声を上げた。

「紹介します。キミたちの新しい友達になる、ルズイラクカさんです! 仲良くしてあげてくださいね」

「え……今度は私、誰にどんな目に遭わされるんですか?」

 モノクマの言葉に、ルズイラクカと呼ばれた女子は恐慌したような声を上げている。……『今度は』ということは、これ以前にも僕らと別口でテロリストに拉致され、酷い目に遭ってきたのだろうか。この様子から見るに、コロシアイを強いられているとはいえ寮内である程度の自由が認められている自分たち以上の惨状だったのかもしれない。

「今度はねえ、ここにいる人たちとコロシアイをしてもらうよ。ワックワクのドッキドキだね!」

「コ……コロシアイ!?」

 その言葉を聞いて、胴体はまだモノクマの着ぐるみをつけたままのルズイさんはうつぶせに転倒してしまった。……何とか抜け出そうともがくその姿はどこかコミカルで、平和な状況だったのならクスリと笑いだしてしまっただろう。

「いやだ! いやだ! 死にたくない! なんでもする! なんでもするから助けて!」

 しかし、ルズイさんの鬼気迫る様子にそのような滑稽さを感じる余裕は生まれなかった。

「……だいじょうぶだよ」

 ……そんな彼女にまず近寄ったのは羽月先輩だった。あいかわらずモノクマのパジャマを身に着けており、ルズイさんがモノクマの着ぐるみを付けた状態なのもあって、どこか可愛らしい……と普段ならば思っただろう。

 彼女は背部にある着ぐるみのファスナーを開けて……

「ごめん! 男子はいったん出てって!」

 と叫んだ。

「えっと……黒須さん! ちょっとひとっ走り服と下着持ってきてくれる!?」

「う、うん。わかったよ」

 そう指示を出された黒須先輩は、まるでヨーイドンの合図を鳴らされたように駆け出していった。

「……あと芳賀さんは水汲んできて!」

「あ、ああ。ちょっと待っててな」

「竹枡さん……はまだ槍に刺されそうになったショックが収まってないよね?」

「う、うん……さすがにね」

「じゃあ竹桝チャンも僕らと一緒に一旦でてっていいっすかね?」

「うん! そうしてくれるかな?」

 ルズイさんの状態を察した僕ら男子陣と竹枡先輩は、厨房から辞して食堂の方へと向かう。

「ただここでじっと待ってるのも手持ち無沙汰だし、ルズイラクカさんとやらが落ち着いたとしても余計なことを聞き出してまた混乱させちゃうかもしれないから、僕は部屋に戻ってるよ」

 一目先輩は、食席にかけた僕、勝先輩、瀬戸先輩、竹枡先輩に向かってそう告げてから食堂からも出ていくのだった。

「……そういえば」

 と口を開いたのは勝先輩。

「薬品棚の鍵のことも決めなくちゃならないよね」

 

――

 

 希望ヶ峰学園 79期生 超高校級の才能の生徒

『超高校級のギャル』江ノ島盾子

『超高校級の軍人』戦刃むくろ

『超高校級の印章士』印旛祥壱

『超高校級のストーカー』須藤かりん

『超高校級の…………

 

「なるほどねえ」

 堀津圭司の遺品を受け取った一目は、堀津が残した資料に目を通しながらそうつぶやいた。やはり準・超高校級の追跡者、首謀者である79期生の生徒たちの名前だけでなく、性格などもこと細かにまとめてある。

 喫緊の課題であるモノクマの機能を停止させることだが、物理的に破壊したり機械的に停止させることは困難な上、スペアも用意されているであろうと考えると、首謀者と取引して止めさせるアプローチをはかったほうが成功する可能性が高いだろう。

「ねえねえモノクマ! 見てるんでしょ!」

 一目は他に誰もいない自室でそう呼びかける。すると、モニターにモノクマの姿が映し出された。

「あれれ、まさか内通者じゃない子のほうからボクに声をかけてくれるなんて意外だったけど、何か御用があるのかな?」

「ああ、やっぱ内通者は『いる』んだね。なんでわざわざ教えてくれるような返事をしたの?」

「キミたちのほうも内通者がいることは確信してるみたいだからね。あえて隠すこともないかなって。まあ、そっちから話しかけてきてくれて嬉しいから、サービスみたいな物だと思ってよ」

「そう。じゃあこっちもサービスしてあげるよ。『印章士』くん」

「……『超高校級の印章士』が首謀者の中にいることがバレてるのは気づいてたけど、今キミと話してるモノクマを操作してるのが印章士だとは限らないんじゃない? ボクを操作してるのはモノクマのプロデューサーのエノジュンだと考えるのが順当じゃない?」

「いやエノジュンはそっちのトップなんでしょ? だったら君たちの計画のメインの方に出払っているんじゃないかな? 僕たちと同じタイミングで入学する『超高校級の生徒』80期生を別の場所に監禁してるほうにね」

「へえ、そこまで気づいてたんだ。あくまで君たちが巻き込まれているこの事件はサブでしかないってことに」

「まああくまで『準』のつく『超高校級』でしかない僕らにあんまり価値がないことは理解してるからね。多分、僕らを救出してくれそうな組織のほうでも、『準・超高校級の生徒』の安全確保に時間をかけるより迅速に希望ヶ峰学園を奪還するべきだ、って声も上がってるんじゃないかな?」

 一目は今朝、琴間と狛枝が交わした情報を知る由もないのだが、その現状分析は的確であった。

「価値がないなんてそんな自分を卑下しないでよ。ボクはキミたちの才能を中々に買ってるんだからさ。……ところで、おしゃべりに夢中になっちゃってたけど、結局本題は何かな?」

 モニター上のモノクマを見据えて、一呼吸ついてから、一目はこう提案した。

「トレード、しない?」


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