ダンガンロンパ・コンパチブル   作:こんぱち

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第一章 (非)日常編2

 解散してまず僕が足を運んだのは食堂だった。軟禁されている状態で一番の心配事になるのは、やはり食料だろう。

 食堂は、大人数で集まって会食できそうなスペースがあり、その奥に厨房がある一般的な作りになっていた。つまり食堂を経由しないと厨房には入れない。

「やっぱ希望ヶ峰の寮、最高の設備がそろってるね」

「食べるものもたくさんあるーひとあんしんー」

「ようかんもあるし缶のおしるこもある、よかったー」

「やはりシェルターとしてあつらえられた施設ですから、長期間の籠城にも耐えられるようになっているんですね」

 奥から会話が聞こえてきた。すでに勝先輩、手岡先輩、黒須先輩、カディナ先輩が三人で設備の調査に当たっているようだ。料理人とアスリート系の才能の女子3人の組み合わせか。まず食べるものを確認しに来たのも何となく納得する。中は、コンロも鍋も大型冷蔵庫も複数ある、大型飯店の厨房と言った趣だ。それにしても籠城、なんて言葉が自然に出てくるなんてカディナ先輩ってよほど日本通なんだろうな。

「もぐもぐ……よーかん美味しい」

 冷蔵庫の前ですでに黒須先輩がコンビニで売ってるような手のひらサイズの羊羹をかじっていた。僕と目が合うと、つまみ食いを見咎められた子供のように一気にそれを口に詰め込んだ。

「ああ、琴間くんいらっしゃい」

 僕の姿を認めると、勝先輩が声をかけてくれた。ほんとなんだか、大将、って感じの人だよな。

「せっかくいい厨房があるから夕食はボクが作るよ。下ごしらえのいらない簡単なものだけどね。なんか食べられないものってあるかな?」

「特にないです。なんでも食べられます」

「うんうん、好き嫌いなく何でも食べられるのは良いことだ」

「あたしも食べられないものはないよ」

 声がして黒須先輩のほうを向くと、羊羹はすでに飲み込み終えたようで、今度は缶おしるこを手にしていた。意外とよく食べる人なんだな。初対面の緊張と殺し合いを強いられたことによる険が和らぐと、他の先輩も色んな側面が見えてくるかな。

「黒須先輩、あんこ好きなんですか?」

「うん。カロリーも糖分も高いし甘くておいしいし大好き。補給食にピッタリ」

「え、『カロリーと糖分が高い』から好きなんですか?」

 ダイエットの番組やCMが毎日テレビをにぎわす昨今、ほとんどの人、特に女性はカロリーや糖分を極力抑えたいものだと思っていた僕はそう尋ねた。

「そだよ? 意識して取らないとハンガーノック怖いし」

「ハンガーノック?」

「体内のエネルギーが足りなくなって倒れちゃうこと。長時間自転車に乗ってると補給も忘れちゃうこともあるからしっかり採らなきゃね。今日も自転車で来たし」

「あれ、黒須先輩、ここから家近いんですか?」

「20キロだから自転車で通える距離だよ」

「20キロって、それ電車使う距離ですって……」

「だって家から駅行って、駅で電車待って、電車で過ごして、駅から学校に行くのとかかる時間そう変わらないからなあ」

 自転車の才能で希望ヶ峰学園に入学した黒須先輩とは言え、突っ込まずにはいられなかったが思いもよらぬ反論が返ってきた。

「話し戻して悪いけど、あたしはフグの肝臓と卵巣が食べられなーい」

「いやみんなそれは食べられないって」

 今度は手岡先輩と勝先輩が漫才を始めた。

「テトロドトキシンで身体が動かなくなっちゃう」

「それは動かなくなるね。生物界最強レベルの毒だからね」

「もし食べちゃったら顔だけ出して後は土に埋めて治してね」

「それは迷信だね」

「あ、でも2年間塩漬けにして糠漬けにすれば食べられるようになる」

「石川県の名産珍味の作り方だね」

「私は『バロンゾ』がたくさんは食べられません」

 そんな二人に割って入るカディナ先輩。

「バロンゾってなにー!?」

「ノヴォセリック王国民が特別な日に食べる主食で、マカンゴがレメッツォした場合、それを祝うヘヘンドの席で振舞われるものです」

 矢継ぎ早に聞きなれない単語を並べ立てるカディナ先輩。

「あとカエンタケも食べられないね。ハゲる」

 相変わらず毒のある食べ物を上げる手岡先輩。

「もぐもぐ……きんつば、おいしい……」

 相変わらず食べ続けている黒須先輩。サングラスかけたままむしゃむしゃしてるのはなにかシュールだ。勝先輩のツッコミが追い付いていない。

 ボケの応酬に収拾がつかなくなってきたのでここらへんでお暇させてもらうとしよう。

 

 

 次にやってきたのは、狭い部屋に本棚が高く積まれ、対面する形で椅子の置かれた机のある、進路指導室みたいな部屋だった。いや、資料室、と言ったほうが的確だろうか。席には岸和田先輩と堀津先輩にかけている。近づいてみると、話し込みながらペンを動かし熱心にガリガリと動かし、なにか書き物をしていた。

 

『希望ヶ峰学園重要人物の関係

 

 学園長・霧切仁、78期生超高校級の探偵・霧切響子 

親子。

 

 78期超高校級の幸運・苗木誠、2期特待活動生幸運・苗木こまる

兄妹。

 

 77期超高校級の幸運・狛枝凪斗、78期超高校級の幸運・苗木誠

 他人。名前がアナグラムになっているのも、『声優同じなんじゃね?』ってぐらい似てる声も偶然。

 

 77期超高校級の御曹司・十神白夜、78期超高校級の御曹司・十神白夜

 親戚?

 同一世帯での同姓同名は認められていないため兄弟ではない。

 十神家は親族で後継者争いをし、敗者は追放されるらしい。しかし、敗者が新たに一からビジネスを興し再起するケースもあるようなのでどちらかがその敗者筋か? 体系はともかく容姿自体は瓜二つと言っていいほど似ているのでかなり近い血筋かもしれない。どちらも「十神の名に懸けて!」とよく口にするため十神家を誇りに思っているようだが……』

 

「うわっ……」 

 びっしりと書き込んでおり驚愕して声を漏らしてしまう。堀津先輩もそれで僕に気付いたようで顔をあげた。

「おお、琴間か。何か用か?」

「それ……すごい熱心にされてますね」

「ああ。俺たちが監禁されてる件の犯人は希望ヶ峰学園の重要人物だって推測しただろう? 俺と岸和田でもっと確信に近づくために思いつく限りの関係性を洗って、首謀者に近づこうと思ってるんだよ」

「さすがですね。……ですが」

 僕は天井を見まわして監視カメラを探した。一目先輩に言われた『余計なことに気付いたら警戒されるだけかもね』という言葉がいまだにひっかかっているのだ。案の定、そこここに吊り下げられていた。

「あの時は全員いて不用意なことを言ったら巻き込んでしまう危険性もあったからそれ以上の言及は避けておいたが、俺自身はそんなことでは止まりはしない。岸和田もそうらしい。……ふふふ、犯人どもめ。追跡者、堀津圭司の標的に選ばれた以上、逃げきることは能わないと理解させてやる。『堀津の名に懸けて!』……なんてな」

「ひゃーかっちょいー!」

 監視カメラに向かって指をさしてそう宣言し、野心的な笑みを浮かべる堀津先輩と、指をカメラの形にしてカシャカシャするジェスチャーをとっておどける岸和田先輩。

 その片鱗は初対面からすでに見えていたが、堀津先輩はなかなかの自信家のようだ。

「え、堀津先輩もなんかさっき書いてた十神家みたいに才能のある血筋なんですか?」

「いや。いたって平凡な家庭の生まれだ。父も警察官だが交番勤務の『みんなのまちのおまわりさん』、って感じの険のない人間だぞ。ちょっと公私混同するところがあって、逃げたペットの捜索に家族の俺たちを動員することがよくあったが、そのおかげで俺は希望ヶ峰学園のお眼鏡にかなうほどの才能が身に着いたんだから問題ないだろう」

 しれっと言ってのける堀津先輩。

「そうだよね。誰だって自分の名を懸けてもいいよね。それじゃあ私も、『岸和田の名に懸けて!』……なんてね」

 堀津先輩に倣ってびしっとポーズを決める岸和田先輩だったが、指をさした方向には監視カメラは存在しなかった。

「で、琴間くんは名を懸けないの? 見てみたいな」

「え、恥ずかしいですよ」

「えー先輩の私たちがやったのに、琴間くんはやらないのー?」

 ねちねちとした口調で岸和田先輩に詰め寄られ、僕は意を決する。

「わ、わかりましたよ……『こ、ことまのなにかけて……』」

「きゃーかわいー!!」

 堀津先輩にしたのよりも激しく、シャッターを切るジェスチャーを繰り返す岸和田先輩。

「さて、あまり俺たちのそばにいると余計なことを知ってしまうかもしれんぞ」

「そうですね、作業中失礼しました」

 それもあるし、更に岸和田先輩にいじられるかもしれないし、ここは危険が大きいので先輩たちとは別れた。

 

 遊興室、と表札のある部屋の入ってみると

「なんじゃこりゃ?」

 とつい声に出してしまった。入って左端にチェスや囲碁のようなボードゲーム盤が置いてあるのはまだしも理解できる。だが部屋の真ん中には麻雀卓とマット付き麻雀牌セットが鎮座し、正面端にはゲームセンターにあるようなパチンコ台とパチスロ台が一台ずつ置いてあるのはなんなんだ? しかも筐体にはモノクマがデカデカと載せられてるし。なぜ高校の寮にこんなものが置いてあるのだろうか? 超高校級のギャンブラーもいたけどその関係か?

「おや、ここは……」

 と僕の後に入ってきたのは福添先輩だった。優等生優等生した感じの彼女はこういった雰囲気は苦手だろうな、と内心予想していたら……

「なつかしい感じですね」

「な、なつかしい?」

 予想だにしていなかった感想がこぼれて、あっけにとられておうむ返ししてしまう僕。

「ええ。ボランティアで通っていたデイサービスにもこのような部屋がありましたから」

 そう言えば聞いたことがある。レクリエーションでこのような遊びを取り入れている施設もあると。

「雀卓もあるのですね。琴間さんは麻雀はできますか?」

「アプリとかパソコンとかではやったことがありますけど、実際にやったことはないですね」

 無料で遊べるアプリは多くあって興味はあるが、実際にやると現物もメンバーも必要になるし、なかなか始められない。と二の足を踏んでいる中学生は多いだろう。

「それでは近いうちに、一緒にやってみませんか?」

「え、ええ。ぜひお願いします」

 意外な申し出に、つい承諾してしまった。

「それにしても意外ですね。なんというか……福添先輩はこういった不健全な遊びは苦手そう、って印象ありましたから」

「不健全なことではありませんよ。頭と手先を同時に使うことは、機能回復と認知症予防に最適で多くの現場で実践されています。それに中途失明者の場合、麻雀をしていた人のほうが点字識字の上達が早いという仮説があります。これは指で彫られた柄を認識する、いわゆる『盲牌』という動作で指で読むという習慣付けがなされていたことが要因だということでして……」

 とうとうと語りだす福添先輩に僕は口をぽかんとあけてただ聞いてるだけしかできなかった。福添先輩のほうも僕が呆れてると察したようで。

「……とまあ色々理屈を付けましたが。要は私が単に麻雀が好きなんですよ。悪いですか?」

 とわざとらしくツーンと上を向いて開き直ってしまった。優等生っぽい外見とは裏腹に、あざとい所もあるみたいだ。

「いや悪くないですよ。でも麻雀は四人必要ですよね」

「他の人にも声をかけておきます。面子が集まったときはよろしくお願いしますね」

「はい、こちらこそお願いします」

 それだけ確認して、僕たちは遊興室を後にした。

 

 ホールの開けた談話スペースで、一目先輩が新聞を読んでいたので話しかけることにした。

「一目先輩、新聞とかよく読むんですか?」

「まあね。社会情勢を知ることはトレードの基本だからね」

 と新聞に目を落としたままだが返事を返してくれた。

「でも今日の朝刊の情報ももうほとんど役に立たないよなあ」

「役に立たない?」

「だってそうでしょ。重要施設である希望ヶ峰学園で監禁テロ事件が起きてるんだからあらゆる相場大荒れするでしょ」

 今自分が置かれた状況ですら、相場の一要因として一歩離れたところから眺めている様子の一目先輩。トレーダーとして名を成すにはこのぐらいの客観的視点が必要なのだろうか。

「安全保障が機能してないってことになるから日本、ひいては日本企業に対する信頼は暴落、日本円の価値も下がって……大損こいた人もいるんだろうなあ。それどころか僕たちが監禁されてる件はあくまで氷山の一角に過ぎなくて、ありとあらゆる通貨が意味をなさないような状況になってたりして。まあ僕はこういった有事のときに逆に価値が上がる現物の純金とかプラチナにも投資もしてあるけどね。それでも手荷物だけの状態で監禁されてりゃ世話ねーか」

 専門用語を並べ立て余裕そうな口調でそう言ってのける一目先輩。

「……先輩は今のこの状況が怖くないんですか?」

「まあたしかに怖いっちゃ怖いけど、テロとか戦争とか世界中で起きてることだからね。自分の身にも起こりうることだという前提でずっと生きてきたからみんなよりはだいぶ落ち着いてると思うよ」

 こともなげな一目先輩の底知れなさは拭えないが、その視点がこの状況を打破してくれるきっかけにつながると信じて不安をあおるような話し方に苦言を呈すことはしまい。

「まあ、こんな性格で煙たがられてるのはよくあることだから嫌われても気にしないけど、一応できる限りみんなで生きて出るにはどうすればいいかは考えてるよ。単なるクラスメイトでも、優秀な人材とのつながりは財産になるしね。特にこんな僕に話しかけてきてくれた君のことも悪しからず思ってるよ。単なるまぎれこんだ中学生だとしてもね」

 そう告げられ、一応誉め言葉と受け取っておく。少しでも一目先輩の内心をつかめたことは成果だと思って、その場を辞した。

 

 

 ガーガー、と、風を送っているような音が聞こえてくる小部屋に入ってみると手前に洗濯機と乾燥機が二台ずつ置いてある、小型のコインランドリーのような施設と、さらに奥には……美容室? 鏡の前にセットチェアが一席置いてあって、その後ろに反対の壁向きのリクライニングチェアと洗髪台がある。エプロンつけてセットチェアに座った人物にドライヤーをかけているのは瀬戸先輩だが、散髪ケープ身にまとって目の上に蒸しタオルをのっけて仰向けになってるのは誰だろう? 髪に赤いメッシュが入ってるから竹枡先輩か。腕を振るっちゃうよ、って言ってたけどまず竹枡先輩が瀬戸先輩のスタイリングを受けてるのか。

「今日はシャンプーだけさせていただきましたがいかがでしたか?」

「うん、ばっーちり」

 お店の美容師のようにうやうやしく尋ねると、竹枡先輩はそう答えた。目にタオルを乗っけているが、上がった口角から笑顔になっていることは想像できた。

「でも、なんで一番最初にあたしにー?」

「他の人に頭を触られるとセロトニンっていう幸福伝達物質が分泌されて不安やストレスが軽減されて落ち着くらしいんで、一番まいってそうだった竹枡チャンにしてあげなきゃな、って思ったんすよ。準・超高校級の美容師の頭皮マッサージはダテじゃないっすよ」

「……ありがとう」

 いきなり殺し文句のような瀬戸先輩の言葉。竹枡先輩の頬が赤くなったように見えるのは、さっきまで泣いていたからだろうか? シャンプーやタオルで顔が火照ったからだろうか?

「これから忙しくなるっすねー。福添チャンもきつそうだったし、芳賀チャンもしてほしそうだったし、琴間チャンも気丈に振舞ってるように見えたけど一番若いっすからちゃんとケアしてあげなきゃだし、岸和田チャンとか堀津チャンもああいうタイプも何かの意外とぽきっと行くかもしれないし」

 他の人の名前を出されてちょっとむすっとした様子の竹枡先輩。目が隠れてるのにここまで表情まるわかりな人も珍しい。

「ロングの羽月チャンとかカディナチャンとかオールバックの黒須チャンとかベリーショートの手岡チャンとかも自分で維持するの大変そうだし、瑞倉チャンとか一目チャンも白髪染めたりバッサリ切ったりしてバシッとすれば結構輝くと思うんすよ。勝チャンと霧生チャンの二人は洗った後ドライヤーがいらなそうすね」

「それって全員じゃーん! でもそれだと瀬戸くんはどうするのー? 『他の人』に頭皮マッサージしてもらわないとセロトニン? が出ないんでしょー?」

「町に一件しかない床屋の頭はぼさぼさ、っていう話にみたいになってきたっすね。確か『床屋のパラドックス』とかいうんでしたっけ」

「……良かったらさ、あたしに任せてくれない? ビューティーアドバイザーのあたしとしてもそういうのできるようになっておけばキャリアの幅が広がると思うからさ」

「いいんすか? じゃあお願いするっす。それと信じてくれてありがとっす」

「信じてくれて?」

「いや、美容師ってタオルで顔を覆ったり刃物を持って後ろに立つじゃないすか。普段はともかく殺し合いを強制された状況だったら、断られても仕方ないかなとは思ってたんすけどね」

 ……おそらく出会って半日も経ってないであろうに、早くもカップル成立か、それともここぞという時に他の女の名前を挙げる鈍感男のせいでなかなか進展しないか、という雰囲気に当てられた僕は、すごすごとその場を後にした。

 

「いくぞーゆーだーい! 千本ノックやー!!」

「うおおおお、僕は絶対にくじけない! 心を燃やせ! ガッツだー! 君と僕との正義のファイトー!」

 広い倉庫の中で、芳賀先輩と霧生先輩がおもちゃ屋とか100均に置いてそうなプラスチックバットとゴムボールで遊んでいた。芳賀先輩がノッカー、霧生先輩が受け手のようだ。スキンヘッドの霧生先輩は高校球児みたいでなんか様になってるが、図書委員然とした芳賀先輩がバットを振り回すのはシュールだ。そしてノックというにはあまりに早すぎるペースで打ち込まれるため、そらしたり体にぶつかったりしてる。

「……先輩方、何してるんすか」

「お、えなきくんナイスキャッチ」

 僕のほうに飛んできた球を捕球しつつ、そんな小学生みたいな騒がしい二人にツッコミを入れる僕。

「いや、ウチらは遊んでたわけやないで。倉庫にあるものをチェックしてたんや」

「そうそう。どう見ても遊んでただろ、っていうのは禁句な!」

 出かかった言葉を先んじて言われたのでそれを飲み込む。まあ二人もやっと緊張が解けて来たんだろうから深く追求することはしまい。

「日常生活に必要そうなもんは大体揃っとるな。まあ不便はしなさそうや。メイク用具なんかもあったからべにちゃんも退屈しないとは思うで」

「うんうん。物ボケを考えるには申し分ない量だ」

「よーしゆーだい、続きや―! 残り……えーと何本やっけ? ままええわ、飽きるまでやるでー!」

 などと千本ノックを再開してしまう二人。まあ本人らが楽しそうならいいか、と倉庫を出ていく、

 

 ここは保健室か、保健の先生が座ってそうな机といすが一セット、ベッドが一台と薬品棚がある作りだが、薬品棚の数がやたら多く、それに天井に着きそうなほど高い。そして机で瑞倉先輩が作業をしていたので声をかける。

「瑞倉先輩、何をされてるんですか?」

「僕のしていることに興味を抱いてくれたのかい? これはね、消耗品や薬品の効用や在庫を確認しているんだよ」

「先輩薬品の知識とかあるんですか?」

「いや、全くないよ。でも説明はちゃんと容器に書いてあるし、数を確認するだけだからこんな僕にだってできることなんだ」

 ここで生活していくに当たり、ケガや体調不良などがないとは言い切れない。むしろ僕らは監禁されているという緊張状態にあるのだから平時よりその危険は大きいだろう。それを見越した動きができる瑞倉先輩は気が回っている。

「それにしたってすさまじいことだよ。ご家庭に常備してあるようなお馴染みの薬だけじゃなく、無味無臭透明の睡眠薬とか即効性の下剤なんてのはまだかわいらしいほうで、青酸カリとか推理ものお約束の致死性毒とか、聞いたことないような毒もずらりとあるよ」

「……それってまずいんじゃないですか」

「そのとおり、とってもまずいよ。だから今リストを作ってたんだ。ところで琴間君朱肉持ってない?」

「ああ、それでしたら……」

 今日はもともと学校見学会に来たということで、特別に筆箱の中に入れておいてあったのでポケットから取り出して手渡した。

「ありがとう。ちょうど持ってて貸してくれるなんて用意がいい上に優しいんだね」

 そう言って受け取ると、朱肉に指を押し付け、机の上に置いてある手書きの書類に押していった後、スマホを取り出して写真を撮っていった。

「何してるんです?」

「薬品リスト作ったから、リスト自体をすり替えられないように拇印を押していってるの。筆跡と指紋の二重体勢。さすがに両方僕の物に偽装できるような人はいないでしょ。みんなを信頼してないわけじゃないけど念のためね」

 瑞倉先輩の行動の速さと、念には念を押す慎重さに舌を巻く思いだった。……霧生先輩と芳賀先輩とは大違いだ、なんて失礼なことを思ってしまった。

「ところで今から時間ある? 僕のつくったリストに間違いがないか確認してほしいんだけど」

 そんな瑞倉先輩の頼みを無下にしたくはないと承諾する。何がどういう薬品か、というのは量が多すぎて覚えられなかったけど、数は全て正確だった。そうしているうちに切りのいい時間になったので、連れ立って食堂に向かった。

 

 夕食の時刻になったので僕たちは食堂に集まり、寮内探索の情報交換をした。

今行ける場所は『体育ホール』『食堂・厨房』『資料室』『遊興室』『談話スペース』『ランドリー・美容室』『倉庫』『保健室』、そして一人一人に部屋が割り当てられた『寄宿舎』があるということ。

 加えて立ち入り禁止となっている小部屋があること。『ランドリー・美容室』の隣に『ダストルーム』があるということ。

 瀬戸先輩が希望者には理美容サービスを行うということ。

 岸和田先輩と堀津先輩が犯人の正体を追っているが、危険なので関わりたくないものは関わらなくてもいいということ。一目先輩も社会情勢の考察をしていること。

『保健室』には薬品があり瑞倉先輩がリスト化していたので、持ち出すときは個数と名前を記入してほしいということ。……遊んでた倉庫組の霧生先輩と芳賀先輩は、瑞倉先輩(と僕)の献身に己の身を顧みたのか、他の施設も同じように物品をリスト化する作業に取り掛かると表明し、福添先輩と竹枡先輩もそれに加わる、ということは決定した。

 そして全員で勝先輩が作ってくれた夕食をとることにした。下ごしらえする時間がない、と言っていたようにシンプルな一汁一菜だが、出汁から取ってあるのか味わい深い。

「この味わい……サバ節とカツオ節のブレンドかな」

「正解。さすが手岡さんだね」

「……すまん、誰かニンジンは食べてくれるか」

「あれ、堀津くんでも苦手なものはあるんだね。堀津の名に懸けて食べてほしいもんだけどね」

「せっかく勝チャンが星形に切ってオシャレにしてくれたのにダメなんすか?」

「俺にだってダメなものはある……」

「ヤスミさん、『堀津の名に懸けて』ってなんですか? なんだかかっこいいです!」

「堀津くんと琴間くんの決め台詞。みんなもやる?」

「それでは、レオンハートの名に懸けて! ……どうでしたか?」

「うわレオンハートとかかっこよすぎじゃーん」

「じゃあ私がもらうーわーいお星さまのニンジンだー」

「せいらちゃんは好き嫌いしなくて偉いねーウチのもあげる」

「もぐもぐ……お米おいしい……」

「うふふ、なんだか皆さんにぎやかになってまいりましたね」

「本当だね、面白い、面白いよ!」

「……ごちそうさま」

「一目君食べるの早いね」

「……みんながしゃべってて食べるの遅いだけ」

 先輩方も元気を取り戻してきたようだ。瑞倉先輩がいうようにこの状況になっても面白いという気持ちも何となくわかってきた。頼りになる先輩も、ちょっと頼りない先輩もいるけど、全員が自分にできることを探し、状況を打破しようとしている。

「あれれ? ボクの分はないの?」

「本当だ、勝君モノクマちゃんの分は?」

「用意するわけないでしょ! 羽月さんも乗らないで!」

 食事も終わりつつあるそんな和気あいあいとした雰囲気の中に招かれざる客の乱入。

「出たかモノクマ……」

 堀津先輩はにらみつけるようにそんなモノクマを見つめる。歴戦の刑事のような鋭い眼光だ。

「まあちょうどよかった。お前に聞きたいことは山ほどあるんだ」

「山ほど!? それはどの山かな? 世界最高峰を誇る標高8848メートルのエベレストぐらい? それとも日本一低い山である標高4.53メートルの天保山ぐらい? 間をとって日本で二番目に高い北岳ぐらい? 僕も暇じゃないんだから質問は一個で勘弁してよね」

 そんな眼光もどこ吹く風と飄々と答えるモノクマ。

「それでは今回は一つで勘弁してやろう……校則7と8に関してだ。どうやってバレなかったか判断するんだ? 全員で話し合いでもして決めるのか?」

「おお、さすが堀津クン、察しがいいね。そのとーり! 死体が発見されたら、そのことをアナウンスした後、一定の捜査時間を設け、学級裁判を通じて誰が犯人かを当ててもらいまーす! 今後被害者は『シロ』加害者は『クロ』と定義するからね。……だからさ」

 そう一拍おいて、

「人を殺そうとするやつは……勝算をもって挑戦しろよ。学級裁判も開かれずに黒的中、なんて興ざめな展開だけは見せてくれるなよな」

 やけにドスの利いた声でそう伝えた。

「これでいいかな? じゃあねー」

 と言って去っていったモノクマの背を皆一様に黙って見つめる。

「……ますます奴らの目的がわからなくなったな。殺し合いをさせたいのにこんな釘を刺したら尻込みするだけだろう」

「ま、私たちのするべきことは変わらない! 助けが来るまでパニックにならずに待つ、たったそれだけ!」

 不穏になった空気を振り払うかのごとく岸和田先輩がそう宣言し、大きく両手を叩いて一本締めとした。

 

 食器を片付けたのち、僕は寄宿舎へと向かった。個室ごとにアイコンのような似顔絵をのせてあり、誰がどこの部屋かはすぐにわかった。

 一息ついて、設備を確認する。ベッド、ウォークインクローゼット、シャワートイレに湯舟もあるユニットバス、小型冷蔵庫、テレビ……ホテルの一室のようなラインナップがそろっていて高校生の宿舎にしては豪華だ。衣類もジャージだけでなく、ホテルみたいなガウンがあった。モノクマ柄のパジャマもあったがこれは着たくない。ガウンでも着て歯を磨いて寝よう。

 ベッドで横になる。とにかく、今日は色々なことがあって疲れた。憧れの学校への見学会、からの拉致監禁、個性的な『準・超高校級』の才能を持つ先輩方との交流、寮の確認と薬品在庫管理。

(そういえば……)

 寮内を確認してる時に、羽月先輩にだけ会わなかったな……と思いつつ、まあ自室にでもいたんだろうと大した問題じゃないとして、そのまま眠りについた。

 

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