『モノクマファイル5』
『モノクマファイル6』
『校則一覧』
『毒に関するルール』
『焼却炉の利用履歴』
『ゴミ回収する瀬戸先輩』
『時間を覚えていない自分』
『タッチパネル前に落ちていた電子生徒手帳』
『残されたゴミ袋』
『勝先輩の証言』
『留守居さんの証言』
『黒須先輩の証言』
『芳賀先輩の証言』
『凝固剤』
『一目先輩の証言』
黒須「……え? なんで?」
勝「……そんな、まさか羽月サンが」
留守居「……ちっ」
竹枡「……うっ、ひぐっ」
一目「ほほう」
芳賀「なんやの、それ……」
この見解に、皆一様に驚愕した表情で僕を見つめている……当たり前か。事実、言っている自分でさえにわかには信じがたい仮説なのだから。
琴間「芳賀先輩……?」
芳賀「……あかんな、感情的になっていきなりでかい声出してもーたな」
琴間「いえ……言い出した僕ですらこの上なくショックなことなんですから、こんなことを聞かされた先輩も驚かれてそのような反応されるのも仕方のないことだと思います」
芳賀「ほんま、エナキンは年下なのに大人やな……でもな、いくら今まで学級裁判をリードしてくれてきたエナキンが導き出してくれた推理やとしても、そないにいきなり『はいそうですわ、まったくもってそのとおりですわ』ってなふうに簡単に納得でけへんこともあるんや」
琴間「……納得できてないのは僕も同じなんです。もしなにかご指摘があれば、お互いの疑問を解消できるかもしれませんので、ぜひ忌憚なくおっしゃってください」
モノクマ「おやおやあ、なんだか面接みたいに淡々とした感じだねえ? 本当にショックな時って声を荒げるんじゃなくて抑えるものなのかなあ? それより、最初の大声からなんだか撮れ高が足りないなあって感じだよ。図書委員系動画配信者としてそれでいいのかな芳賀サン?」
芳賀「……モノクマの奴のことはさておき、今までの話し合いの中でせーらんが違反した可能性のある校則が10の『一人の犯人が殺せるのは最大二人までとします』しかない、っていうのは理解できとるんよ。でもな、そこに至るにわからへんところがある限り、ウチも心から納得することはできへんのや。どうしてもな。……ごめんな、エナキン」
琴間「……そうですよね」
芳賀「気になる点は……まずは第二の事件からや。なんでせーらんがカディナンのアレルギー体質を知っていたか、ってのがまず一つやな。それと、なんで『世界の歩き方』にジャバウォックオレンジの記載があるか知ってたか、っちゅーのも気になるな」
琴間「……はい」
芳賀「……そして、今回の事件。ゴミ袋の中に仕込んだ『捨ててはいけないもの』が実際、なんやったのかも。薬品棚関連は減ってるものはなかったんやろ? あとなんでわざわざ焼却炉の前まで自分で行ったのかも……最後に、これが一番腑に落ちへんことなんやけど、なんでせーらんがそんなことしようと思ったのか、その動機についてや」
芳賀先輩の指摘はもっともなことだ。まずは、今芳賀先輩があげたもののうち、『捨ててはいけないもの』については、これで説明できるかもしれない。羽月先輩の部屋で見つけた、これで。
「……これを見てください」
「ああそれな、ウチがセーランの部屋で見つけたやつやな?」
僕がその凝固剤を全員から見えやすいようにかざすと、見つけた当人である芳賀先輩もそう返す。
「ん? ってことは、エナキンはその『捨ててはいけないもの』が凝固剤やった、って言いたいんかな? でもそれは厨房の備品であって、追加された校則5‐2は『薬品棚の毒や薬を、排水溝や焼却炉に廃棄することを禁じます』って文面やったからそりゃ違うんやないか? 現にフジサンも何度か油を大量に使った揚げ物料理をしとったやろ?、それで出た廃油の後始末に凝固剤を使ったことがあるんやないか? それはどうなんや、フジサン?」
「うん。ボクも凝固剤で固めた廃油を焼却炉に捨てたことがあるから、琴間クンが言うように、その凝固剤が『捨ててはいけないもの』で、瀬戸クンがそれに違反してしまった、ってことはまずないはずだよ」
話を振られた勝先輩が、芳賀先輩に応じる。……しかし僕の真意はそこじゃないんだ。
「いえ、あくまで凝固剤は本当の『捨ててはいけないもの』を隠すために使われただけなんだと思います。重要なのは、これが羽月先輩の部屋で見つかった、ということなんです。みなさん、普段このようなものを、厨房や調理場といった油があるような場所以外で使うことのある方っていらっしゃいますか?」
「厨房ならあるけど、部屋で使うようなことはないね」
「せやね。そうそうもってくようなことはあらへんよね。みんなもそうやよな?」
「……うん」
勝先輩と芳賀先輩がそう返し、水を向けられた他の先輩方もそれにならう。
「そうですよね。わざわざこのようなものを自分の部屋に持っていって使う……ということは万一にも他の誰かに見られずに、凝固させたいものがあったのです。凝固させたい、ってことは、つまり元は液体です。液体のままだと新聞紙とかに包んでゴミ袋に入れておく、っていうことができないから凝固剤で固体にしたんでしょうね。それと個体にすることにはもう一つメリットがあります。それは気化しにくくなる、ということです。元々薬品棚の中にあったもののうち、凝固させる必要があるような気化しやすい液体であって、一つ行方が分からなくなっていたものと言えば……」
「……前回の裁判で堀津先輩が言っていたこと、覚えていますか?」
「……そりゃあんな豹変は衝撃的やったし、昨日の今日で忘れることはできへんよ。議論スクラムで議題にあがった、3回目の裁判のクロでもシロでもない人がモノクマポイズンAを持ち出したってこともやな」
「ええ。モノクマポイズンAです。堀津先輩が見たそれを持ち出した人物が羽月先輩だったとすると、凝固剤が彼女の部屋にあったことに説明付きます。それを自室で固めておいて、なにかに包んだ状態にして厨房のゴミ袋に仕込んでおいたんです」
「……せやな。せやんなろうな」
と一呼吸する芳賀先輩。
「その『捨ててはいけないもの』がなんなのかはわかった。やけんど、まだ明らかになってないことがあるやん。……カディナンの体質のこと、ジャバウォックオレンジのこと、……それに動機のことや」
芳賀先輩が今並べた、まだ明らかになったないそれらの謎については、全てを一括に説明できる解答が、僕の頭の中にはあった。……それは仮説を持ち出した時点で、うすうす勘付いていた、あの存在。
「内通者」
「……内通者?」
ポツリとその単語を声に出した僕に、芳賀先輩はおうむ返しする。
そうだ。内通者。黒幕の都合のいい方向に僕らの行動を誘導……すなわちコロシアイを促進する。そのために、僕らの中に紛れ込まされた刺客。
その存在の可能性はずっと頭の片隅にあったが、仲間内で疑心暗鬼に陥りたくないという思いと、あまりに矢継ぎ早に変化する状況のせいで、追及がおろそかになっていた、まさに毒のような存在。
「……羽月先輩が内通者だとしたら、今、芳賀先輩の挙げられた疑問に対して説明がつくんです。羽月先輩がカディナ先輩のアレルギー体質を知っていたことも、ジャバウォックオレンジの毒性を知っていたことも、図書室にジャバウォックオレンジに関する本があると知っていたことも、自分で焼却炉の前まで行ったのかも、これはゴミ袋を渡した相手である僕が目論見通りに校則違反になったのか確認するためですね……そして、なぜそんなことをしたのかという、動機も」
「……せやな」
僕の説明に、うつむきながらも小さく肯定の言葉を返す芳賀先輩。彼女もまた、否定したい否定したいと心の中では思っていてもどこかで羽月先輩がそうなのかもしれない、と気づいていたのかもな。
それともう一つ、僕には羽月先輩が内通者だと言える要素があった。
「勝先輩……一つ尋ねたいことがあります」
「ん? なんだい?」
「僕、パーティーの後に羽月先輩と厨房を掃除したんですが……どれくらいの時間していたか、何時に終わらせたのか、全然覚えてないんですよ」
「あれ? おかしいね。料理って時間管理が大切な要素だから、大きい時計も小さい時計もいくつかあるはずなのに。ちらっとでも目に入ってれば、大体にでも時間は把握してるもののはずだよ?」
「そうなんです。……なのにそうでないのは、羽月先輩が厨房から時計を全部どかしていたんじゃないでしょうか?」
「羽月サンが時計をどかした? それはなんのために?」
「……それは、羽月先輩の目論見が両建てだったからなんじゃないでしょうか」
「両建て……それはつまりどういうこと?」
「本来のターゲットである僕が、『22時以降に焼却炉を使った』という校則違反を犯すか、『薬品棚にある毒や薬を焼却炉に廃棄する』という違反を犯すか、の両建てです。彼女にとってはどっちでも良かったんでしょう」
「……」
勝先輩も芳賀先輩も、口をつぐんで事実を反芻するような表情を浮かべている。こうまで状況証拠がそろえば、もはや疑いようはないだろう。あらためて、この事件を振り返って、終わらせなくては。
Act1
まず前提として、『クロ』と『犯人』とは別ものである、ということを念頭に置いておいてください。……今回の事件は、実は第二の事件から始まっていたんです。『内通者であり事前に情報を手に入れることが可能な立場であった犯人は』、あらかじめカディナ先輩のアレルギー体質と、『世界の歩き方』に載っていたジャバウォックオレンジがアレルギー反応を誘発させることを知っていたんです。
Act2 No Change!
その上で、ジャバウォックオレンジを大量に絞り、ジュースとして提供することで全員が飲むようにパーティーを提案したんです。…そしてその目論見は的中し、そばアレルギーのあったカディナ先輩はアナフィラキシーショックを起こして亡くなってしまい、致死量となる分を注いだ霧生先輩はクロとみなされオシオキを受けてしまった。
Act3 No Change!
そして今朝、昨日の事件のクロが二人を手にかけていたことと、竹枡先輩が流しにモノクマポイズンAを捨てたことを受けて、校則が追加されました。……が、その校則では、未必の故意によってカディナ先輩と霧生先輩が亡くなるように仕向けていた犯人は、すでに『二人を殺している』という判定になっていたのです。
Act4
そのことに気付かず、僕に校則違反をするように仕向けるために、わざと厨房を汚し、掃除を手伝わせ、捨ててはいけないもの……『凝固剤で固めたモノクマポイズンA』の入ったゴミ袋を焼却炉に捨てるようにはからった。……のですが、ちょうど通りかかった瀬戸先輩に僕がそのゴミ袋を渡してしまい、瀬戸先輩は『薬品棚にあるものを焼却炉に廃棄してしまう』という校則違反を犯し、処刑されてしまったのです。しかし、それによって犯人は三人目を殺害してしまったことになり、彼女もまた校則違反として処刑されてしまったのです。……そんな今回の事件の犯人は……。
カディナ・レオンハート先輩、霧生雄大先輩、瀬戸政直先輩を殺害した
……準・超高校級の絵本作家にして、黒幕との内通者、羽月聖来先輩。
彼女こそが……校則10に違反した『犯人』なんです。
「……これで、これでいいのかよモノクマ。これで満足なのかよ」
やっと導き出した結論を述べ終えた僕は、モノクマにそう尋ねる。
「ああ、これで解答でいいのね。じゃあ今回はクロを指摘する学級裁判じゃないからこれを採点するね。……うーん、なるほど、これはこれは、なかなか、やりますねえ、オモシロいよ」
相槌を打ちながら、やたらともったいぶったように引き延ばすモノクマ。
「よーし、それじゃあ、発表するよ! いえーい! ダララララララララララララララララララ!」
口でドラムロールのような音を鳴らしながら、モノクマはこう続けた。
「ジャーン! なんとなんと、95点! ちょっとだけ部分的にたりないところもあったけど十分高得点だよ! いやはや、さすがみんなだよ! 準・高校級の才能の持ち主! 見事! 合格!」
そんなふうに評価されても全然うれしくないのだが……95点? 5点分はなんで引かれたんだろう?
「足りない5点分はさあ……2回目の事件の段階から羽月サンが狙ってたのが琴間クンだって気づけなかったことの分ね。実はあのとき、霧生クンをクロにしようと仕組んでたわけじゃあないんだよね。まったく、福添サンの偽装工作にまんまと乗せられてカディナサンに一回目の裁判で疑いをかけてしまったことを謝りたいって言ってた霧生クンを同じテーブルの斜向かいの席にするなんて、羽月サンの大ポカ、大チョンボだよね! あそこで目論見通り琴間クンをカディナさん殺しのクロとして仕立て上げることができていたら、こうして三人目を殺すようなはめにならなくて済んで、無事に生き残ってたかもね! あーあ、残念残念、ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃあ!」
モノクマは、まるで、僕の内心を見透かしたかのように、足りない5点分の説明を付け加えるのだった。
……え?