……羽月先輩が、第二の事件のときから、僕を狙っていた……だって?
「……っていってもキミたちにはなにがなんだか、かもしれないから、羽月サンが暗躍してるところの映像はあるから、せっかくだから上映しておくね」
困惑する僕らを尻目に、モノクマが液晶にかけられたモニターのスイッチを入れると、今は亡き羽月先輩の姿が映し出された。
――初日
「やっほーモノクマちゃん。ついに始まったねー。殺し合いがさあ」
「そうだね。ワックワックドッキドッキのコロシアイ学園生活だね」
フレンドリーに物騒な会話を交わす羽月先輩とモノクマ。……こう映像で見せられて、ああ、やっぱり羽月先輩が内通者だったんだな、と再認識する。
「誰が死んだら一番絶望的かな? 頼れそうな堀津君かな? 賢そうな岸和田さんかなあ? この二人がこれから精神的支柱になってきそうだね」
「うーん、その二人はこっちがつかんでる秘密でだいぶ揺さぶりをかけられそうだから羽月サンのターゲットにはしないで欲しいかなあ」
「あらら、そうなの? じゃあ逆に一番歳下の琴間君あたり狙ってみるかなー。みんな責任感強そうだからこういう子が死んじゃったら他の子たちは罪悪感抱えてくれそうだよね。特に自覚なくクロになっちゃって、自分が生き残るためには琴間君に投票しなきゃならない、なーんてことになったらサイコーじゃない?」
……サイコー? 僕が死ぬのが、サイコーだって? 見えないところでモノクマとこのような会話を交わしていたのか。
「やる気にあふれてるのは良いけど、最初の事件が起きるかこっちが指示するまではあまり動かないでよ? 記念すべき第一回目の事件はこっちの息がかかってない子に自主的にしてもらいたいんだからね」
「はーい。まあ今のうちにうまいことやれそうな計画でも練っておきまーす」
「りょーかい。役に立ちそうなデータ送っとくから参考にしてね」
――『第一回学級裁判後』と表示された後、画面が切り替わる。
「福添さん、なかなか淡々とした態度を崩さなかったけど、やっぱり最後の最後でゼツボーに染まった表情を見せてくれたよね! 両腕にかかる負荷がどんどん増していくときの苦痛に満ちたあの表情! まさにエクストリームだったよね! オシオキを取り入れたのは正解だったよね!」
モノクマが僕らを煽るときのような口調だったので、発言者もモノクマかと思ったら、違った。これは羽月先輩の発言だった。
「いやまさかいきなりことを起こすのがあの大人しそうな福添さんだったなんて意外だったねー。良い感じにゼツボーが広まりつつあるんじゃない?」
「うんうん、意外といえば琴間君の探偵顔負けのみごとな推理もそうだよねえ」
「そうそう。なーんかますます琴間君を殺してみたくなっちゃったなー。ねえそうだモノクマ。第一回の学級裁判も済んだし、私はもう自由に動いていいんだよね?」
「うんいーよ。特に指示も出さないし羽月さんのお好きなようににやってみちゃってくださいな」
「わーい! じゃあ私が死なないようにして琴間君を殺してみせるからね! くくく、みんなゼツボーしてくれるかな?」
――画面が切り替わり、今度は『第二回学級裁判後』と表示される。
「うーん、まあ狙いは外れたけど霧生君の錯乱具合もまあそこそこゼツボー的だったよね。さすが芸人、アドリブでも笑わせてくれたよね」
「……でも、他人をクロに仕立て上げることと、それが意図的だと気づかれないことはよかったんだけど、詰めの所で『あっちゃー』、って感じだよね。琴間君狙ったのにまさか霧生君がクロになっちゃうなんてさ。琴間君って先輩を立てそうなタイプだから先輩のジュース酌んだりしそうだな、って思ったから今回の犯行を思い付いたんでしょ。霧生君をカディナさんの隣に置いた羽月サンのミスもあったけど」
「そこだけじゃないんだよねー。乾杯のジュースを霧生君がくんだとしてもカディナさんの体重があんなに落ちてなかったらその後に注いだ琴間君がクロになってたはずなのにさ。推理力と言い、幸運と言い、あの子ってなんかそういう才能があるんじゃないの?」
「いや全く。いたって平凡な中学生だよ。資格とかも学校で取らされた英検と漢検の三級ぐらいしかない、ね」
「ほんとにー? とにかく、うまく他人をクロにする犯行思いついたのにまた考え直しだよー。ちょっと時間かかるかもだし、琴間君を殺せるならクロにしたてあげることにはこだわらないかも」
「それもいいけど羽月サンも気を付けてよ。殺されたりしないようにね。それに校則も増えたりするかもだから良ーく読んでよ。質問には答えることはできるけど、聞かれないことには答えられないからね」
「はーい、気をつけまーす。私は小っちゃくてよわっちそうだから狙われやすいかもしれないしね。一応使えそうな毒とか確保しておくよ」
――事件の朝。
「今回、校則違反が追加されたでしょ? それでいいことを思いついちゃった」
何やらうきうきとした表情で、自室の風呂場と思しき場所で桶と新聞紙を広げている羽月。恐らく、モノクマポイズンを固める工作でもしているのであろう。
「念のため確保しておいてよかったよ。これ、捨てたら校則違反になるんでしょ?」
「うん、そうだね」
羽月先輩からの質問に簡単に答えるモノクマ。……その言葉にある裏は、ついぞ羽月先輩は気づかなかったのだ。
――パーティー終盤。羽月先輩と勝先輩が厨房で話している。
「勝くん、料理とか準備とか、手伝ってくれてありがとうね」
「いえいえ、どういたしまして。ボクとしても料理の腕を振るえる機会が作ってくれてありがたいよ」
「片付けは私がやっておくから、勝くんはもう休んでもらっていいよ」
「え、いいのかい?」
「うん。もうほとんど済んじゃったからね」
「じゃあお願いするよ。悪いね」
そう言って勝先輩が去っていったことを確認した羽月先輩は、急にほくそ笑むような表情に変わり、そこらにあった食材やらゴミやらを散らばし始めた。
そして、厨房から去っていったかと思うと、やや遠くから
「ねえ、琴間くん、ちょっと頼みたいことがあるんだけど……」
と聞こえてきた。
――そして事件直前。
「……あれれ、なんで琴間君にゴミ渡したのに瀬戸君が出してるんだろ。うーん、下手に止めても怪しまれるだろうし、今回は校則違反で死ぬのが瀬戸君でもいっか。竹枡さんあたりすっごいゼツボーするだろうしこれはこれで面白そうなことになりそう。お、グングニルが刺さった。すごい血がバシュって出るんだね。急すぎて何が起こってるのかわからないって感じの表情なのがちょっと残念だけど」
そんな感想を述べている羽月先輩にも、同じようにグングニルの槍が襲い掛かっていき、身体中から血しぶきをあげはじめた。
「あれ……なんで私にも? ああ、そっか……そういうことか……くくく、最高に、絶望的、私、今、どんな顔してるのかな……」
言葉とは裏腹に、どこか満足げな羽月先輩の表情がアップになったかと思うと、一旦プツっと映像が切れ……
「とまあ、こんな感じ」
あっけらかんとした口調のモノクマ。
「せーらん……なんで、なんでこないなことを」
羽月先輩の本性を目の当たりにした芳賀先輩が、搾りだすような声でつぶやく。
「彼女はね、絶望に魅了されてたんだよ。それこそ、才能の開花と一緒にね」
「才能の開花と一緒に、ってどうゆうこっちゃねん……」
「それに関しても映像があるし、せっかくだから流してみようか」
モノクマがそういうと、再びモニターに映像が映し出された。今度は、椅子に腰かけて、面接でも受けているかのような状況の羽月先輩だ。表情や熱意のこもった口調から、まるで第一志望の進路に自己アピールをしているような風でもある。が、喋っている内容はそれからあまりにも逸脱したものだった。
――
私が絶望のすばらしさに気付いたのは、三歳のときですね。
浦島太郎が、故郷に自分の居場所がないと知ったときの顔。
『蜘蛛の糸』の上ってきた蜘蛛の糸を切られたカンダタが、地獄にまた落とされる時の顔。
舌切り雀のお婆さんが、お宝が入っていると期待を込めて開けた箱から化け物が出て来たときの顔。
シンデレラの姉が、ガラスの靴に合わせるために足の指を自ら切断したにもかかわらず、王子様に持ち主ではないと気づかれたときの顔。
かちかち山のタヌキが、沈みゆく泥船の中でどうしようもできなくなっているときの顔。
そういう絶望を表現したくて、私も絵本を描き始めるようになりました。そうしたら、両親も、先生も、友達も褒めてくれて、とんとん拍子で出版の話も出てきたんです。
そのまま成長して、希望ヶ峰学園の本科生としては選ばれはしませんでしたが、是非才能を伸ばして欲しい、という両親の勧めもあって、予備学科に入学することになったんです。予備学科、当初は評判悪かったですけど、奨学金が出来たり、予備学科の中から『準・超高校級』を選出する制度が出来たりと待遇が改善されていきましたからね。
そこで私は絵本作家としての活動を続けながら学校生活を送ってきたのですが……次第に物足りなくなってきたのです。
……絵本の中の絶望だけじゃなくて、本物の人間の、ナマの絶望。そういったものを求めるようになって来たのです。
そんな退屈な日々、あなたが声をかけてきてくださったこと、本当に感謝しています。
絶望に染まると、人って、なんでもできるのですね。殺人も、自殺も、厭わないようになるのですね。そのような方たちに帯同させていただき、リアルの絶望をそばで感じさせていただいたことは、この上ない喜びでした。
さらに、私にとって幸福なことは続きます。あなた方が、『最大最悪絶望的事件』とでも形容すべきことを企てていると知り、私の心は跳ねるように高まりました。
この計画の一環たる、『コロシアイ学園生活』において、内通者として適任たる人物は、私をおいて他にいません。『準・超高校級の絵本作家』として、最高に絶望的な画を描いてみせます。あなたのために。
――
「ということだったんだよ」
画面を消して僕らに向き直るモノクマ。
……そうは言われても、淡々としゃべる羽月先輩といい、『最大最悪絶望的事件』といい、理解できないことばかりで余計に羽月先輩の得体が知れなくなるばかりだった。
「それにしても、予想外だったよ。琴間クン」
困惑してる僕に名指しで、そう告げるモノクマ。
「……僕の何が予想外だったっていうんだよ?」
「キミにこうまで他人を死に関わる才能があっただなんてね。……君は、最初のクロである福添サンをほとんど一人で追い詰め、カディナサンを殺してクロになって死ぬ運命をすんでのところで霧生クンに押し付け、岸和田サンが決心する場面に居合わせて手岡サンが死ぬことになり、岸和田サンの企みも堀津クンに勘付かれて逆手に取られて岸和田サンも死に、その堀津クンの暗躍すら暴いてクロに仕立て上げ、そして今回、羽月サンの殺意をひらりと交わして瀬戸クンに流したんだから。ま、死んだのが琴間クンだろうが瀬戸クンだろうが、どのみち羽月サンは死んでたんだけどね」
亡くなった人たちの名前を上げ、僕に罪悪感を植え付けようとしてくるモノクマ。
「なんなのかなあ、このキミの才能、超高校級のなんなのかなあ? 幸運はなんか似つかわしくないよねえ? 悪運? 死神? 疫病神? なにがいいかなあ?」
……だが、そのような謗りは、今の僕にとってはどうでもいいことだった。
今はただ……ただ、『自分の命をつけ狙っていた人物』、すなわち羽月聖来が、無駄死にをしたことに……安堵していた。人の死に、それも共同生活の間は親しく関わっていた人の死に、当たってこのような気持ちに陥ってしまうなんて、自分はどうかしてしまったのではないか。
「悪運でも死神でも疫病神でも何でもいいよ。お前の好きに呼んだらいい」
そんな気持ちも相まって、モノクマの問いかけに対しては、ほとんど捨て鉢な気持ちで言い返す。
「あーらら、ごきげんななめだね琴間クン。そろそろおねむの時間かな? まあ健全な中学生はもう寝るべき時間をとおに過ぎてるね。もうみんなも疲れてるだろうし、そろそろ解散にしようか」
「……ああ、やっと終われるんだね」
「もうやだ……とにかく今ははやく、はやく、眠りたい」
「せーらん……ウチは、せーらんのこと全く理解してなかったんやなあ……」
「……ボクもだよ。結構一緒に料理したり掃除したりしたんだけどなあ」
「……竹枡さん。ようやくおわりのようです。大丈夫ですか。立てますか? 歩けますか?」
「……うん、なんとか。……お水とか、ありがとう。留守居さんは優しいんだね」
その宣言に、僕だけでなく今まで困惑の深みにいた先輩方たちもみな僅かなりとも安心したのようだったのだが……モノクマは、こう被せてきた。
「その前に、これだけは済ませちゃおう! 亡くなった二人を弔うために大切なことだよね!」
するとモニターがまたしても点灯し……
全身に槍が刺さったままの瀬戸先輩の遺体と、羽月先輩の遺体が、並んで映し出された。
それを喪服姿のモノクマがわらわらと何匹もあらわれて、まとめて巨大なビニール袋に詰めていく。なかなかうまく入らなかったのか、べきべき、ばきぼき、と力を込めて無理やり押し込むように詰めていき、手足が曲がるべきではない方向に曲がっていく。
ようやく二人の全身が収まったようで、ビニール袋の口をきゅっと結び、大勢でまるで神輿のようにワッショイワッショイとにぎやかに軽やかに担いで持ち運んでいく。
ついた先は……焼却炉のような設備だ。
その扉を開くと、モノクマたちは二人の遺体が入った袋を雑にぽいっと投げ込む。そして、モノクマたちが両手を合わすと、代表者と思しき一体がなにかのスイッチをONにした。
すると、ごうごうとなにかが燃えているような音が鳴り響く。その中でモノクマたちはまるでコインランドリーで待っているかのように気軽な風でくつろぎだした、
しばらく経ち、モノクマが炉全体をあけると……そこには黒焦げになった槍が刺さった、白い白い骨が転がっていた。
それをモノクマたちはせっせと拾い集めて……小さく砕きながら、骨壺に収めていくのだった。
「……って、しまった、これじゃあどれが瀬戸クンの遺骨で、どれが羽月サンの遺骨かまったくもってわからなくなっちゃったね! いやーボクってうっかりさん!」
それを見て、この場にいるモノクマは、コツンと自分の頭を叩いて、そう言ってのけたのだった。
――第四章・完
モノクマ劇場
……やっぱあんな形じゃあみんなイマイチ満足できないよねえ?
ということでお待ちかね! 瀬戸クンと羽月サンに予定してたオシオキだよ!
散髪チェアにケープをかけた状態で拘束されている瀬戸。その後ろにはエプロンを付けた、巨大なモノクマ。
……そして、取り出したのは。明らかに危険物が詰まってそうな、ドクロマークが付いた瓶。その中身を、瀬戸の頭にぶちまけた。
途端、彼の顔に苦悶の色が浮かぶ。そして頭からも煙ともくりもくりとたちあがり、かすかにじゅっ、じゅっ、と、焼け付くような、溶けていくような音があがる。
そして、瀬戸の頭を両手でごしごし、ごしごしとこすり始める。そのたびに、髪の毛や血液や、頭皮が散らばり、飛び散っていく。
それがどれくらい続いただろうか。
モノクマが一旦手を止めると、瀬戸の頭がモニターにアップになる。
もはやわずかに頭に貼り付いているだけの髪、
血液の赤、
頭皮の地肌、
わずかにあらわになった頭蓋骨の白、
ところどころ小さな穴の開いた頭蓋骨の隙間から見える脳みそと思しきピンク、
それらが、不気味な色合いのコンビネーションをなしていた。
そんな瀬戸をほっぽって、散髪チェア前面に設置された洗髪台にその液体を溜めていくモノクマ。しゅわしゅわと気泡を上げるその液体は、一目で安全なものではないと理解できる。
モノクマは、瀬戸の後頭部をつかみ、乱暴に頭全体を沈ませる。
しばらく両足をじたばたさせてもがいていた瀬戸だが、次第にそれがなくなっていく。
そして、モノクマが瀬戸の頭を引き上げると……残っていたのはドクロマークのような、穴ぼこの開いた頭蓋骨のみだった。
それを見たモノクマは、満足そうな表情を浮かべ、瀬戸のつけていた散髪ケープと拘束を解くと、彼の遺体は散髪チェアから前のめりにガシャンと大きな音を立てて崩れて倒れていったのだった。
うん、実際にグングニルの槍で亡くなった羽月サンだけど、オシオキもグングニルの槍で済まそうと思ってたんだ。
彼女本人が考えた、竹形のロケットで月まで飛ばす『なよ竹のせいら姫』とか、高熱毒ガス入り玉手箱でどんどん老人みたいに身体中の水分が抜けて干からびていく『浦島せいら』とかの候補があったんだけど、やっぱり、彼女にとって絶望的なオシオキってなにかな、って考えたら、これが一番かな、って思ったからさ。……手抜きじゃないよ。それに、羽月サンだけが自分にどんなオシオキが下されるか知ってるのってアンフェアだと思ったから、ちょっとしたサプライズだね。