ダンガンロンパ・コンパチブル   作:こんぱち

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第五章 ショウタイ
第五章 日常編 その1


 瀬戸先輩と羽月聖来に対する、弔意とか敬意とか……そういったものが一切ない、余りにも粗雑な火葬を、僕はただただ、茫然と眺めていることしかできなかった。

「……これは」

「ほんまに、ほんまになんなんやこれは……どうして、どうしてうちらがこんな目に遭わなあかんねん」

「……瀬戸クン、羽月サン」

「うっ……ぐすっ……」

 先輩方もそれは同様のようで、小さな言葉や嗚咽を漏らすに留まっている。……内通者であったとはいえ、今まで仲良く過ごしてきた羽月聖来に対する情は、皆少なからず持っているようであった。

「……瀬戸、くん」

 その中でも、瀬戸先輩に恋慕の情を抱いていた竹枡先輩は、その映像を眺めたまま揺るぎもせずしばらく立ち尽くしていた。

 ……のだが、そうして長い、しかし時間にすると恐らく数分程度のときが無為に過ぎ去っていったとき、

「……許さない」

 竹枡先輩はそう一言つぶやくと、急に先ほどまでとは人が変わったかのように、猛然とモノクマに駆け寄っていった。

「お前は! 絶対に許さないモノクマ! 絶対に! 許さない許さない許さないユルサナイユルサナイ!」

「おやおや、コロシアイに消極的でここまでのうのうと生き残ってきた竹枡さんが急に俄然、やる気が出て来たみたいだね! でも僕に対する暴力は校則違反だよ。特に竹枡さんはもう既に一回校則違反をしてるからねえ、もう警告で済ましてはあげないよ?」

 相変わらずモノクマはいけしゃあしゃあと柳に風、といった態度で竹枡先輩の殺気を煽るようなことを言ってのける。

「そんなことは! どうだっていい! お前は、お前らはっ!」

「あーらら、いいのかなあいいのかなあ。そんなことしちゃっていいのかなあ?」

 ……いけない!

 このままではモノクマにつかみかかってしまう、そして、校則違反の罰として瀬戸先輩と羽月聖来がそうされたように、グングニルの槍とやらで……グサリ

 止めなくては! 

 と心の中で思っても、先ほどまでのショックと竹枡先輩が今までに見せたことのなかった剣幕に気圧され、反応することができなかった。

 誰か、竹枡先輩を止めてくれ、と思いながら向かっていく竹枡先輩の背を見送ることしかできなかった僕の視線に割り込んだのは……

「竹枡さん!」

 裁判のときからずっと、彼女の身をおもんぱかっていた留守居さんだった。

「竹枡さん、落ち着いてください!」

「離して、留守居さん! どうしてもっ! あたしはっ! あたしはっ!」

 留守居さんに制止されてなお、竹枡先輩はモノクマに食って掛かる姿勢をやめようとはせず、留守居さんを振り払おうともがいている。

「今ここであなたがそんなことをして何になるというんですか! きっと瀬戸さんも竹枡さんが無意味な抵抗をして校則違反になることなんで望んでいませんん!」

「でもっ! それでもっ!」

 そんなやりとりがいくばくかの時間続いたかと思うと……

 

 バシャッ

 

 とやおら水をうったかのような音が響き、学級裁判場に急に静寂が戻ってきた。

「……落ち着いて、いただけましたか? 竹枡さん」

 どうやら、留守居さんが竹枡先輩に、持っていたペットボトルの水をぶちまけたようだった。

「すみません。手荒なことをしてしまいました。ですが、竹枡さんに無茶して欲しくなかったから……」

 自分の身に何が起きたのか、理解できていない様子で身体からぽたりぽたりと水をたれ落としている竹枡先輩だが、しばらくの間呆然とした後、理解したようで

「……ごめん。取り乱しちゃったね。止めてくれてありがとう留守居さん」

 とどうにか冷静を取り戻した様子だった。

「……なんとか、平静を取り戻してくれたようで良かったです。竹枡さん」

「おやおや、やっぱり準備がいいね留守居さん。そんなちょうどよくそんな量の水をペットボトルで持ち込んできてるなんてね」

 二人の様子を眺めていたモノクマが、そう茶々を入れる。しかし、二人はできる限りモノクマを見ないようにして、すごすごと自分の席に戻っていった。

「そうだそうだった! 今回はご褒美もあるって言ったよね! いきなりだけどあげちゃうよ! そーれ!」

「っ!!」

 モノクマがそういうと、急にポケットに入れていた電子生徒手帳から電気が流れたような痛みが走った。

「痛っ!」

「うわっ!」

 それは他の先輩方も同様だったようで、それぞれ驚きの声を上げる。

「ご褒美をあげる前に、ちょっと必要だから処置をさせてもらったよ! それじゃあご褒美の内容を教えてあげるね!」

 そうして、モノクマはわざとらしく一呼吸(まあロボットなので実際には呼吸はしてないのであろうが)ついた後で、

「ここまで生き残った君たちには、卒業試験を受ける権利を差し上げます」

「卒業試験?」

 とモノクマの弁をおうむ返しに聞き返す僕。

「それってこの馬鹿げたコロシアイ学園生活からの卒業、ってことでいいのかな」

「うん、一目クンの言う通りここからの卒業、ってことでいいんだよ」

「まあ、ここから出してくれるのはありがたいけどね。で、その卒業試験とやらの内容ってなにかな?」

「それはね、僕たちの正体を、全員分、言い当てることだよ!」

 一目先輩との問答を受けて、モノクマはそのように宣言した。

「正体? それってもうみんな勘付いてることだよね? 79期生の先輩方?」

 と、あいかわらず一目先輩は動揺した様子もなく、そう言ってのける。

「それが今流れた電流に関係のあることなんだ! 試しに、僕ら79期生の名前を、誰か一人でも言ってみてごらん? 元々有名だし、準・超高校級である君たちははもともと超高校級の才能の持ち主という存在に憧れて希望ヶ峰学園の予備学科に入学したような生徒たちだから、余程のことがない限り忘れてる、ってことはありえないよね」

 と挑発するように告げた。

「それじゃあ……あれ?」

 と、一目先輩が珍しく動揺したように口を開けたままの状態になる。

「そうなんだ! 今流れた電流は、君たちの記憶を失わせるものだったんだよね」

 と軽々というモノクマであったが……記憶を失わせる、だって? 

「そんな大それたことを、たったこれだけの電流を与えただけでやってのけるものなんか!?」

 信じられない、といった芳賀先輩が狼狽した風な声を上げる。

「うんできるよ? それができる人間の集まりなんだよ? でも、それはあくまで簡単な処置だから、ちょっと誘導すれば簡単に思い出せるものなんだ! 例えば……ボクを見てごらん?」

 とモノクマは両手で自分を誇示するように指さす。

「ボクは人気者だから、グッズも出回ってるよね?」

「……そうやな。せーらんが好きでグッズも集めとるってゆーとったからな、いまいましいこっちゃが」

 と、芳賀先輩が肯定する。

「ボクのプロデューサーって、誰だったかなあ? こういうボクみたいなカワイイのをプロデュースするようなタイプの才能の持ち主だよ」

「それは……えっと、確かよく雑誌に載るギャルやったような覚えがあるな」

「うん、……確か79期生の超高校級のギャル、だった気がする」

「そうそう! そこまで思い出せたんならもう一息! 湘南じゃなくて、鎌倉じゃなくて」

「……江ノ島?」

「そのとおり! 下の名前は? かなりたくさんいる名前だと思うよ! 最後に、子、が付く、割と地味な感じの名前!」

「……ジュンコ?」

「そのとーり! 79期生の超高校級のギャル、江ノ島盾子! それが僕らの正体のうちの一人! それも首謀者だね!」

 とあっけらかんと話すモノクマ。

「とまあこんな風に、僕ら全員を思い出して欲しいんだ! それも名前を言い当てろ、っていうんじゃなくて、才能だけでも思い出せたらOKだよ! 今まで明らかになっている情報で、全員にたどり着けるようになってるからね! モノクマ……おっと、僕を通じてお話したことがある人も結構いるからね!」

「ふーん……例えばさあ」

 と一目先輩。そして一呼吸ついてこう述べる。

「記者さんが初日『元々顔合わせ会として招聘された今回の招待状に押されていた印影が、今まで希望ヶ峰学園から来た書類に押されていたものと同じだった』って言ってたよね? だから『超高校級のはんこ屋さん』とかはいる……って感じで言い当ててけばいいのかな?」

「うーん、正式な名称じゃないけど、本当は『超高校級の印章士』だけど、まあ正解にしていいでしょ、そんな風に当ててってくれればいいからね」

 と一目先輩の解答を受けてそう返した。

「それじゃあこの場は解散! みんな個室に戻ってね! 今回は夜時間前に事件が起こってそのまま裁判だから、眠いでしょ? よく眠って、体力を回復してね!」

 まるでバラエティのクイズ番組の司会みたいに楽し気に宣言するモノクマに心の奥底からの怒りを覚えつつも、それ以上の術がない僕らは裁判場を後にしようと席を離れようとするが……

「あれあれ、黒須サンどうしたの? もう帰っていいんだよ?」

 と、モノクマ。それを受けて黒須先輩の席を見やると……

「はっ……かはっ……」

 と微動だにせずただうずくまったまま激しく呼吸を漏らす黒須先輩の姿があった。

「っ! 黒須先輩!」

 僕が黒須先輩のもとに駆け寄ると……

「あああああああああああ! もうやだぁぁぁぁぁぁ!!」

 と黒須先輩はまるで咆哮のような絶叫をあげだした。

「黒須先輩! 落ち着いてください」

「いやだああああああああああ!!! もういやだぁぁああああああああ! うああああああああああああん!」

 どんなになだめようとも、彼女は声を止めようとはしない。自分も叫びだしたくなるような心をなんとか定めながらも、ただただ彼女の様子を見守るしかなかった。

「……今は、そっとしておいてあげましょう。竹枡さんのように怒りが外に向いてる状態ならまだなんとか止めようがありますが、このようにまるで絶望に打ちひしがれているような状態は手のつけようがありません」

 と、僕に声をかけて来たのは留守居さんだった。

「……みなさん。ここは私に任せてください。私はここに来てから少し眠って休んでいますから、皆さんよりは体力に余裕がある……と思います」

 

 >留守居楽花に、黒須鈴の介抱を任せますか?<

 

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