>留守居楽花に、黒須鈴の介抱を任せますか?<
>はい<
……竹桝先輩を落ち着かせてくれた留守居さんの振る舞い手管を見て、やはり留守居さんにも、なにか、そういった才能があるのだろうと信じるに至った僕は、彼女の申し出に従い、黒須先輩の介抱を任せようと思った。
やはり、このような姿をさらし続けることは黒須先輩にとっても本位ではないだろうし、僕としても心苦しい。それに、そんな黒須先輩に対し効果的なすべを、僕は、持ち合わせていないのだから。
「……わかりました。よろしくお願いします。留守居さん」
「ええ、任せてください。黒須さんが落ち着いたら私もすぐに戻ります」
僕は留守居さんに一礼をし、
「……っく、かはっ……」
もはや錯乱状態といって過言ではない黒須先輩から目を切るように背を向け、ここ学級裁判場に来るときに乗ってきたエレベーターへ足を運んだ。
……ズキン、となにか、胸が痛く、苦しくなるような感覚がした。
この痛みはなにからくるものだろうか、ああ、心当たりが多すぎる。
刃物で一突きされ亡くなった、瑞倉冠先輩。
……彼はこの事件の前にも、家族を亡くし、唆される形でカムクライズルプロジェクト参加し、人格に変調をきたすという悲劇に見舞われている。
コロシアイ学園生活に巻き込まれたそのものによる心労から、瑞倉先輩を殺害し、その犯行が僕たちに看破され、凄惨なオシオキという形で命を奪われた福添志穂先輩。
僕たちの目の前で、窒息により命を落とした。カディナ・レオンハート先輩。
全く犯行の意思がないにもかかわらず、コロシアイ学園生活のルールによりクロとみなされた霧生雄大先輩。
コロシアイ学園生活の前から、殺人鬼と因縁があった岸和田安美先輩。
殺人鬼の協力者、手岡漁子先輩。
殺人鬼当人、堀津圭司先輩。
ちょっとした親切心で、校則に違反する形となってしまった瀬戸政直先輩。
……そして、僕の命をつけ狙っていた内通者、羽月聖来。
裁判場に飾られた、物言わぬ遺影となった先輩方。その一人一人の死が、殺人に手を染めたという事実が、オシオキという名で茶化された処刑が、僕の精神に、決して癒されることのない傷を深々と刻みこんだのだろう。
その生きている僕たちを恨めしく思うような遺影からの視線から逃れるように、僕はエレベーターへと乗り込もうとした。
「あーあー、ちょっとまって! もう、相変わらずせっかちさんたちだなあ」
と背後からモノクマの制止する声が聞こえてきた。
「学級裁判のあとの、あれ、今回は正式な学級裁判じゃなかったっけ? まあいいや。いつものやつだよ、い・つ・も・の・や・つ!」
と、どさっと放り出すようににかばんを投げつけてきた。
「今回の事件で亡くなった子の遺品だよ! 瀬戸クンのやつね!」
こうして投げ渡された瀬戸先輩の遺品。僕らはしばしの間、お互いに顔を見合わせた後、
「……っ」
竹枡先輩が大きな呼吸の後、意を決したように前に出て、腰をかがめて両手で抱えるように拾い上げた。……立ち上がる時に、顔を上げてモノクマを一瞥したようだが、後ろからは彼女の表情をうかがい知ることができなかった。
「あれ、美容師君のやつだけ? 絵本作家さんの遺品は?」
「あれあれ、一目クン、羽月サンの遺品欲しかったの? うーん、それに関しては申し訳ないけど、羽月サンの遺品には卒業試験の答えがほぼまるまるあるから、羽月サンのはこっちで預かっておくからね! どうしても羽月サンにまつわるものが欲しかったら、図書室に彼女が描いた絵本は何冊か置いてあるから、好きに持って行ってチョーダイな! でも備品だから汚さないでね! 今回の事件みたいに備品の損壊で校則違反になりたくなかったらね! ぶひゃひゃひゃひゃ!」
一目先輩の問いに、モノクマはそう答えた。
そうして、僕らは、エレベーターに乗り込んでいく。
「皆さん、乗り込みましたか」
僕はそう言って、先輩方の顔を見やる。
僕と同じように、いやそれ以上に瀬戸先輩の死に錯乱していた竹枡先輩、羽月聖来の正体に困惑していた芳賀先輩の憔悴っぷりは筆舌に尽くしがたい。勝先輩も、羽月聖来と一緒に料理したり、なにかと良く関わっていたこともあってか、困惑が隠しきれていない様子だ。
……だが、一目先輩は、顔を覆い隠すほどの長い前髪のせいもあってか、なかなか感情が読み取れない。だけど、一目先輩も僕らと変わらず、その心中穏やかであるはずがない。
その他にも、考えなくてはならないことはある、卒業試験を受ける権利?
『僕ら全員の才能を当てる』?
この事件の首謀者は、希望ヶ峰学園の超高校級の才能に選ばれた、第79期生?
今まで明らかになっている情報でたどり着けるようになっている?
そのために、簡単な誘導だけで思い出せるとはいえ、記憶を操作した?
とにもかくにも、考えなくてはならないことばかりだ。
僕たちは無言で、駆動音だけがやたらと耳につく長い長いエレベーターの中でしばらく過ごした。ようやく到着のアナウンスが響くと、まるで幽霊のようなおぼつかない足取りで、一人、また一人と出て行った。
僕もそうしよう、とにかく、今は休息が必要だ。眠りに落ちることができるかはともかく、横になりたい。そうできたところで、また悪夢を見るかもしれないが……そう思って、重い足を運ぶ。……エレベーターの中に、一目先輩を残していたことに、その時は意識がおよばなかった。