ダンガンロンパ・コンパチブル   作:こんぱち

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第一章 (非)日常編4

『朝6時になりました! 夜時間に閉まっていた施設が開く時刻です! それではみなさん、本日も張り切っていきましょう!』

 三日目となる朝もモノクマのアナウンスで不機嫌に目を覚まし、身支度して食堂に向かう。するとすでに福添先輩と勝先輩が掃き掃除をしていた。

「おはようございます。琴間さん」

「おはよう琴間くん」

「おはようございます福添先輩、勝先輩」

 朝の挨拶を交わす僕ら。こんな状況なのにさわやかな気分だ。

「お二人ともこんな時間から掃除なんてすばらしいですね」

「いえ。私たちが使ってる宿舎ですから、私たちの手できれいにしないと」

「ボクもまず掃除からだ、っていうのは大将にみっちりしこまれたからねえ。昨日の朝は休ませてもらっちゃったけど」

 と殊勝な返事のお二人。先輩方にだけ掃除させて自分は何もしない、っていうのも気が引けるので手伝うことにした。それにしても、すでに大将の風格のある勝先輩にも大将と呼ぶような人がいるのか。……まあ勝先輩に限らずここにいる先輩たちも僕と一年か二年かぐらいしか離れてないから当然か。

「そうだ琴間さん。麻雀の件ですが、もう少し待っていてくださいね。実践の前に基本から教えてほしいとのことなので」

 と約束したことの状況の報告も忘れない福添先輩。年下の僕にも『さん』づけで話すことも相まって、育ちの良さを感じられる方だなあ。食堂と厨房が一通り終わったところで、一旦掃除用具を片付ける。

「ふわぁ……おはよー」

「おはよーっす」

「おはようございます」

 そのうちに他の先輩方もちらほらやってきて全員揃ったので、朝食をとることにした。おでんばかりなのも飽きるので、今日はパンや目玉焼きなどの洋食。竹枡先輩も希望者にはコーヒーを淹れてくれていった。

「竹枡チャンのコーヒー旨いっすね! 毎日でも飲みたいぐらいっす!」

 ナチュラルに口説きだす瀬戸先輩に頬を染めながら小さくガッツポーズするようにこぶしを握った竹枡先輩。

「黒須チャンの目玉焼きの焼き具合も絶妙っすね! 俺の好みに合うっす!」

「もぐもぐ……そのぐらいの焼きがおいしいよね……」

「やっぱ福添チャンと勝チャンと琴間チャンがきれいにしてくれた食堂で食べると朝食もいつも以上にさわやかっすね……いつもって言ってもここにきてからの朝食はまだ二回目っすけど。あ、いや、昨日の朝食が悪かったってわけじゃないっすよ。手岡チャン、羽月チャンおでんありがとっすね」

 しかし、誰も彼も褒めまくる(しかも女子比率多め)瀬戸先輩に、竹枡先輩は……あ、「それがあなたのいい所よねー」って思ってる顔だ。満更でもないらしい。

「来たときよりも美しく! の精神! 素晴らしいですね! 和の心、って感じです!」

「そうだ。ごれから寮内をみんなで掃除しないか? 部屋で延々と仮説ばかり立てているのも不健康だろうからな」

「部屋で延々仮説立ててるのは堀津くんだけっしょ……」

「そっすねー。僕は今日はこのあとカディナチャンとの先約があるっすけど、終わったらそのまま美容室掃除するっす」

「じゃあ私も切ってもらった後はそのまま隣のランドリーをお掃除します」

「まあウチらはそのまま倉庫でええかな、ゆーだい」

「僕は遊興室でも掃除するかな。面白そうだし」

「……談話ホール。楽そうだし」

 掃除の話でこんなに盛り上がれるなんて、監禁されてとりあえずそのことを少しでも意識したくない時ぐらいしかありえないだろうな。

 

 僕は談話スペースを掃除することになったのだが、一目先輩は片手にほうきでおざなりに床をはきながら、もう片手で雑誌を読みながら手抜き掃除をしている様子だった。

 あまり人とかかわろうとしない雰囲気だけど、一応は掃除に参加しているし、僕のことも悪しからず思ってるとのことだったのでこちらから話しかけてみることにしようかな……と近づいて行ったところ、雑誌の記事が目に入ってしまった。

「ひっ……」

 それを目の当たりにした僕は、そんな声をあげてしまう。若い男性が磔にされ、大量に出血し、背後の壁に「チミドロフィーバー」と書きなぐられた写真を目の当たりにしたからだ。

「びっくりさせないでよ予備学科志望君」

「それ……何読んでるんですか」

「これ? オカルトマガジンの世界の殺人鬼特集」

「そんなものどこにあったんですか……」

「持ち込んだ手荷物。好きな号だからよく読み返してる。予備学科志望君も読む?」

 と雑誌を近づけてくる一目先輩。びっくりしたのはこちらの方だ……僕のことは予備学科志望君で覚えているし。

「ジェノサイダー翔に、女性ばかりを狙う謎の殺人鬼に、外国にはキラキラちゃん、なんて言うのもいる。世界には人を殺すのが大好きな人はたくさんいるんだよねぇ。まあそんな記事を喜んで読んでる読者層も大概か。特にキラキラちゃんは日本にもファンがいるみたいで、決め台詞の和訳版を寄稿してくれたのが載ってるよ」

 そんなことをべらべらと心底楽しそうにまくしたてる一目先輩。

「でもさぁ……世の中にはもっと恐ろしい殺人鬼が潜んでいるとにらんでるんだよね」

 と、今度はテーブルの上にあった一昨日の新聞を広げて、片隅の記事を指さす一目先輩。

 

『比嘉 飯子さん(80)が数週間前から行方不明。何らかの事件に巻き込まれたものとして捜査を進めています。詐欺の被害届を提出していた件との関連は不明……』

 

 ……まあこういうのも不謹慎かもしれないがよくある記事だ。

「こういう失踪事件は何件も起きてるんだよ。そのうちの何件が、殺人鬼の仕業なんだろうねえ」

 完全に自分の世界に入っちゃってる一目先輩を尻目に、僕は掃除を再開する。まああまり広くないしすぐにあらかたはき終えてまとめたごみをちりとりでまとめると、出たごみはこちらへ、と大きな袋を携えた福添先輩がちょうどよく表れたので、ざざっと袋に流し込んで終いとしたのだった。

 

 昼食を終えて、なにか暇つぶしになるものはないかな、と遊興室に向かったところ、玉をはじくような音と、やたらサイコポップで軽快な音楽が部屋の外にまで漏れている。中に入って目に入ったのは、白髪頭の後ろ姿。

「……瑞倉先輩、パチンコなんてしてるんですか」

「うん、今までやったことなかったけど、面白そうだったからね」

 ハンドルをひねりながら瑞倉先輩はそう答える。こんな時に、とも思ったが、こんな時だからこそ、遊んだほうが良いんだろう。

 台の方を見ると、玉を置いておく場所……上皿っていうんだっけ、にはゲームセンターにあるやつのように蓋がしてあって玉が持ち出せない作りになっていた。

 

 

 

『ピンポンパンポーン! 死体が発見されました!』

 

 

 いきなりそんなモノクマの声が響き、ドキッとしてパチンコ台の方を見ると……液晶に希望ヶ峰学園の制服を着たアニメ絵柄の女子生徒が、血を流して倒れていた。

「なんだ……パチンコの演出か。驚かせて」

「そうだよねえ、驚いたよねぇ」

 眺めていると、僕らと同じように監禁され殺し合いを強制された希望ヶ峰学園の生徒たちが、証拠を探していき、クラスメートに潜んだ殺人犯、クロを見つけ出すというストーリーが展開された。

『正しくクロを指摘できれば大当たり! ボタンを押せ!』

 指示された通り瑞倉先輩がボタンを押すと、台が虹色に光輝き、クロとされた生徒が首枷をはめられて引きずられていくアニメーションが流れ、祝福するようにモノクマの群れが液晶に現れた。

『おめでとう! 大当たり!』

 ……いやこれのどこがおめでたいんだ。と内心毒づく僕。

「これで当たったんだ。面白いね」

「え、これが面白いんですか?」

「パチンコって当たったら面白いものなんでしょ。だったらきっとこれは面白いものなんだよ」

 ちょっと感性が異なるけど、まあどんな些細なことでも褒めるのが瑞倉先輩のいい所なんだろうな、とあえて深く尋ねることは避けておいた。

 それにしても音も光も激しくて目もチカチカするし耳もギンギンする。あまり長くいるとひどくなりそうだ。と、瑞倉先輩に一言告げて遊興室から出た。

 

 夕方、救助も進展もなく自室でぼんやりとしていると、

『ちょうどみんな自室にいるね!』

 と、突然テレビが付きモノクマの声が流れてきた。

『お前らさぁ……殺し合いをしろって言ってるのに何やってるの? 皆で仲良くお掃除したり、卓球やらパチンコやらで遊んでるやつもいるし、『犯人を突き止める』なんて探偵ごっこしてる奴らもいるし、なんだかいい感じになってる奴らもいるし、……まぁ、こっちもいきなり殺し合いをするとは思ってなかったけどさぁ』 

 べらべらと勝手なことを述べ立てるモノクマ。テレビの電源を消そうとしたが消えない。

『だからさぁ……動機を用意したよ! この後に流れる映像は個人個人に合わせたものだからね!』

 

 画面がパッと切り替わって、映し出されたのは、

「……僕の家?」

 

 一昨日、家族に「行ってきます」と告げて出てきた家の、無惨な姿だった。

 窓は割られ、

 家具は荒らされ、

 床には穴だらけ。

 それどころか、あちらこちらに鮮血が飛び散っていて、この家で惨事が起こったことを如実に物語っていた。

 

 お父さんはどうしたんだ? 才能を伸ばすカリキュラムを組んでいる都合上、どうしても学費が高くなる希望ヶ峰学園予備学科への入学志望を「お前のやりたいことをやれ。金は気にするな」と認めてくれたお父さんは?

 

 お母さんはどうしたんだ? パートタイムと家事と僕への家庭教師の三足のわらじで僕の学力を希望ヶ峰学園予備学科入学圏内にまで引き上げてくれたお母さんは? 希望ヶ峰学園の見学会に向かう僕を見送ってくれたお母さんは?

 

 画面にはただ風景が写っており、バラエティ番組の煽りワイプのように、

『琴間クンのご家族はどうなったのかな? 答えは卒業の後!』

 とだけ浮かんでいた。

 電源ボタンを強く強く押し込んでも、画面は消える気配はない。もしかして、ずっとこの映像が映し出されたままなのか? 憎しみを込めるように液晶を叩いても、ただ音が響くだけだ。

『ついでに! その映像は事件が起きない限り消えないよ!』

 憎たらしいモノクマの声が届いてくる。ただそこに映し出されるだけで不気味なそれを見ないようにしても、どうしても気づいたらそちらに目線を送ってしまう。次の瞬間に、見慣れた平和な家庭の映像に切り替わっていることを期待しても、そのたびにそんな希望的観測は打ち砕かれる。

 

 もう見たくない、と部屋から出ていくが……当てはない。まあ食堂にでも向かうか、と足を運んだら、先輩方も同じような映像を見たのか皆一様に青ざめた顔で集まっていた。この場にいないのは……堀津先輩だけか。

 だが……集まったからと言って何ができるのだろう? しばらくの間、誰も口を開こうとせず、ただ距離をとってお互いをけん制しあうようなまなざしを飛ばしあうだけだったが……、

「瀬戸くん! つらそうな顔をしているけど、美容室の予約はまだ有効?」

 と沈黙を破るように、瑞倉先輩が聞こえよがしにそう尋ねたのだった。

「え、ええ……やるっすよ。ドタキャンも悪いっすからね」

 気おされたようにそう返す瀬戸先輩。

「よかったあ! 予約が有効なのはうれしいなあ! 楽しみにしていたからなあ! もうそろそろ時間だから向かってるよ」

 言葉通り心底嬉しそうに食堂を出ていってしまう瑞倉先輩を、瀬戸先輩は追うようにかけていった。……これは瑞倉先輩なりの励ましなのか? あんなものを見せられた後でも、君は『卒業』のために殺しはしないと信じてるからね、ということなのか?

 しかし……今の瑞倉先輩の行動に対する反応はまちまちのようで、何かを宣言しようと周囲を伺う者も、食堂を出ていく者も、水を汲んできて立て続けに飲んでいる者もいた。夕食をとるものもいたが、手岡先輩の作り置きおでんではなく未開封の缶詰とかを開けて食べている……ここも居心地が悪い。そうだ、テレビにテープか何か貼ればちっとは気にならなくなるかも、と倉庫に向かうことにした。

 

 倉庫のリストを調べると、複数の種類のテープがあるようだった。このリストを作ったのは……霧生先輩、芳賀先輩、福添先輩、竹枡先輩だったか。『ガムテープ』の欄に『琴間 一つ』と記入しておき、それを取って自室に向かい液晶を覆うように目張りをするが……

「……やっぱり気になる」

 わずかに漏れ出る光に気を引かれてしまう。

 もしかして、次の瞬間には元の僕の家の状態に戻ってるんじゃないか、そうでなくても何らかの変化があるんじゃないか、といった考えが消えない。

これではよく眠れないだろう。……確か薬品棚に睡眠薬があったか、あれをもらってこようと、今度は保健室へと足を運ぶと、そこには先客がいた。

「……羽月先輩」

「……琴間君」

 羽月先輩も憔悴した表情で、薬品棚をあさっていた。

「そういえば、琴間君って瑞倉君と一緒にここのお薬のリスト、作ったんだよね。眠れそうな薬ってあるかな?」

 あまり薬品に詳しいわけじゃないけど、確か……と思ってリストをパラパラとめくる。無味無臭透明になる明らかに犯罪に使うようなのしかなかったが……

「『モノコロリン』っていうのが、一番下の棚にありますよ」

 と答えた。それにしても酷い名前だ。

「ありがとう。それ持ってくね」

「はい。リストに『羽月 一箱』って書いておいてくださいね」

 そう告げて、自分用にも『琴間 一箱』と記入しておく。それだけ持って出ていく羽月先輩を見送ってから、自分も同じ薬をもらっておき、自室へと戻る。

 どれくらいの効き目かわからないが、もし名前通りコロリと眠ってしまったときに備えて身支度を整えてから、箱から一包取り出して水と一緒に流し込む。

 そのまま布団に潜りこんですぐにまどろみを感じていき、眠りへ……

 

『朝6時になりました! 夜時間に閉まっていた施設が開く時刻です! それではみなさん、本日も張り切っていきましょう!』

 ややくぐもった声が、テレビから流れてきた。目を開くと、ガムテープを貼られたテレビが目に飛び込んでくるが……

「……映像が消えてる?」

 放送を終えたあと、僅かに漏れる光すらなくなって、モニターにはなにも移されていない状態になったようだ。

 ……その映像は事件が起きない限り消えないよ。

 昨日モノクマが言っていた言葉が思い出される。まさか……いやそんなことはない。きっと定時放送と一緒に終わりにする仕組みになっていたんだ……と自分を納得させて、身支度をして食堂に向かう……一刻も早く全員の無事を確かめたい。そんな気持ちだった。

「……おはよう琴間君」

「おはようございます羽月先輩」

 すでにいつものパジャマの羽月先輩が、不安げな表情をして、朝食を食べるでもなく支度するでもなく、ただ食堂を落ち着かなげに歩き回っていた。

「……映像、消えてたけど」

「……消えてましたね」

「きっと放送があると消える仕組みなんだよね」

「……きっとそうです」

 そう言葉を交わしただけで、俺たちは黙りこくってしまったが……慌てたように入ってきたのは岸和田先輩だった。

「二人とも、映像が消えてるのは見た!?」

「ええ、見ましたけど……きっと放送があると代わりに消える仕組みなんですよ」

 朝の挨拶もせずにそう尋ねてきた勝先輩に僕はそう返した。

「いや、夜の放送の後にも映像が続いてたでしょ!」

「夜の放送?」

「夜10時に流れるやつだよ!」

 それは聞いたことがないな……ってことはここに来てから僕は3日連続で10時前には眠ってしまっていたのか。

 そのうちに、一人、また一人と食堂に現れ……その無事を確認して安堵するとともに、まだ姿を見せない先輩に対する心配の念がどんどん押し寄せてくる。……まだ3人、来ていない。

「来ないね」

「ああ」

「……まだ寝てるのかな」

「起こしに行ってあげようか」

 誰からともなくそんな意見が上がり、僕たちは4人ごとの班になって、未だ姿を見せていない先輩の元へ向かうことになった。

 

 その人の部屋の前まで行き呼び鈴を鳴らした。

「……出ないね」

 同じ班になった岸和田先輩がそう言いながらドアノブを回すと、

「……鍵がかかってない、まさか!?」

 開いたドアを思いっきり広げ、押しいるように岸和田先輩入っていった先輩に、僕もそのまま後に続く。残り2人の先輩も僕の次に同じように部屋へ。

 

 そこには

 ベッドの上であおむけになり、

 胸の上にのせた枕を真っ赤に染め、

 その枕ごと刃物で貫かれている……

 

『準・超高校級の幸運』、瑞倉冠先輩の姿があった……。

 

『ピンポンパンポーン! 死体が発見されました!』 

 

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