『モノクマファイル1』
『生徒名簿&モノクマ劇場』
『開いていた鍵』
『瑞倉先輩の髪』
『瑞倉先輩の着衣』
『瑞倉先輩の電子手帳』
『堀津先輩の証言』
『粘着テープクリーナーの髪』
『5mmほどの緑色の何か』
『なくなっていたアイスティー』
『薬品棚の持ち出し状況』
『瀬戸の証言』
『美容ケア履歴』
『消えた散髪ケープと美容師用エプロン』
『手岡の証言』
『ゴミ掃除の割り当て表』
『誰でも持ち出すことはできた牛刀』
『夜時間に閉まる施設』
『昨日夜9時にランドリー周辺をうろつく竹枡』
エレベーターから降りると、そこは円形に証言台のようなものが15並べられた裁判場のような作りの大部屋だった。……なんだか、初日を思い出す作りだ。本当に手違いで『準・超高校級の才能』の顔合わせ会に招かれてしまっただけだったら、どれだけよかっただろう。
「それでは、皆さまに割り当てられた席についてください!」
と正面に鎮座するモノクマの指示。やつが円の中央でなく、文字通りの高みの見物とでも言わんばかりに外側で僕ら全員を睥睨するような高い席に立っている以外は、これも初日の席順と同じだ……右隣が、瑞倉先輩本人ではなく、遺影であることを除いて。しかも赤いバッテンを付けやがって、そのバッテンの線も、生前瑞倉先輩が『面白い』といっていた、パチンコの釘のような意匠だ。
「まずは、学級裁判の簡単な説明から始めましょう! 学級裁判の結果はお前らの投票により決定されます! 正しいクロを指摘できればクロだけがオシオキ! だけど、もし間違った人物をクロとした場合は、クロ以外の全員がオシオキされ、クロは晴れて卒業となりまーす! それでは議論を開始してください!」
モノクマが、そう宣言し、学級裁判が開始された。
竹枡「そう言われたって……何から話していいのー?」
瀬戸「とりあえず、基本的なことから押さえていこうっす。……殺されたのは『準・超高校級の幸運』である瑞倉冠チャン」
岸和田「……発見されたのは、瑞倉冠君の部屋のベッドの上」
竹枡「それってつまり……寝込みを襲われた、ってことなのかなー?」
琴間「それは違います!」『開いていた鍵』『瑞倉先輩の着衣』→「寝込みを襲われた」
琴間「……部屋の鍵は開いており、瑞倉先輩は希望ヶ峰学園の制服を着た状態で発見されました。つまり誰かを招き入れ、眠るつもりがなかったのに眠った上で……あのようなことになってしまったのです」
竹枡「……そうだったんだねー。私、どうしても遺体を直視できなかったから……」
竹枡「でも……それだったらどうして眠っちゃったんだろー?」
堀津「……モノクマファイルに、薬物の痕跡アリ、って書いてあったな」
黒須「……瑞倉君がリストを作っていてくれてたよね。誰かが持ってったとか書いてある?」
芳賀「……せーらん。羽月さんと、えなきん。琴間君だよ」
黒須「それだと……招かれたその二人のどちらかが瑞倉君に使った、ってことになっちゃうのかな?」
琴間「それは違います!」『薬品棚の持ち出し状況』→『どちらかが瑞倉君に使った』
琴間「芳賀先輩がこれから言ってたかもしれませんが……残っていた未開封に見える箱の中に、慎重に開封され一回分抜き取られたものが残っていたのです。そうですよね芳賀先輩」
芳賀「ああ、……多分この二人は犯人と違うと思うで」
黒須「早とちりしちゃった。ごめんね。琴間君。羽月さん」
琴間「……いえ、仕方のないことです。気になさらないでください」
手岡「……それじゃあさ、次は凶器について話そうか」
堀津「断言する。瑞倉の胸部に刺さっていた牛刀。あれが凶器だ」
手岡「それは見ればわかるでしょ……圭司ともあろうものがそんな不要なことを」
琴間「それは違います!」「不要なこと」→『堀津の証言』
琴間「いや、遺体を見ただけじゃわからないこともあったんです……あれ以外の傷はなく、犯人は一撃のもとに瑞倉先輩を貫いたんです。だからあれはカモフラージュで、本当の凶器は別にある、という可能性を潰しておくために、この説明は必要だったんです」
手岡「そうだったんだ……でもそうなると結構力か体格のある人に絞られるんじゃない? 冠の身体、枕ごと刺されてたよね……私は大物を釣り上げる力があるから、容疑者から外れないだろうなあ」
堀津「それだけじゃない……持ち手の傾き方から、犯行は左手で行われた、ということがわかっている」
手岡「左手で行われた……この中に誰か左利きの人っていたっけ?」
「今まで黙ってたけど……俺はうすうす気づいてしまっていたんだ。だがもう確信してしまった。左手で一撃で殺した犯人を。そうだろう。……カディナ・レオンハート」
突然割り込んだ霧生先輩に指名され、13人の視線を一気に集めたカディナ先輩。もともと事件に心を痛めていただけに、更に容疑まで向けられたその顔は蒼白だ。
「サウスポーサービススナイパー、お前の二つ名だろう、カディナ。左手でこんな長い牛刀を使いこなせるのはお前しか考えられない」
「わ、わたしは……違います……ユーダイさん……」
「……でも、揺るぎない証拠があるんだ。これだ」
といって、使用済み粘着テープクリーナーを取り出した。それには黒い髪のほかに、金色の毛が10本ほど貼り付いていた。
「これについた金髪……お前のだろうカディナ。瑞倉に拝むちょっとの時間でこれだけ一気に抜け落ちた……なんて言い訳はしないよな」
「え……どうして……」
その霧生先輩の糾弾に、場は騒然となる。まさかカディナさんが本当に……といったその推理を信じるような声もそこここから聞こえてくる。
……なのだが。
僕には霧生先輩の推理に違和感を覚えていた。……まるで、別にいる真犯人の手のひらの上で踊らされているような感覚。黒ずくめの真犯人が内心ほくそ笑んでいるような、不気味な感じ。思えばカディナ先輩は金髪で左利きで世界レベルの運動神経……なんていう特徴で、容疑を擦り付けるのにおあつらえむきすぎる。
……霧生先輩の推理を覆す証拠はないだろうか?
「霧生先輩……その粘着テープには、カディナ先輩の金髪と、黒い髪がついていたんですよね」
「ああ、そうだ」
「それでは……よく調べてほしいんですけど、瑞倉先輩の、『染める前の白髪』はついてませんか?」
そう尋ねられた霧生先輩は、一拍おいたのち、得心したようで、白い粘着テープに白い髪が付いていないかを、を念入りに調べていく。
「……貼り付いてない」
「つまり、こういうことです。……クロは、瑞倉先輩を殺害した後、自分の髪の毛を残さないように同じように粘着テープでもかけた後、用意しておいたカディナ先輩の髪を残していったんです」
僕の推理に場は静まり返る。自分で言ったことだが、信じたくはない……これが本当なら、クロは瑞倉先輩を殺害しただけでなく、あらかじめカディナ先輩の髪を確保しておくほど周到で、他人に罪を擦り付けようとするほど悪辣で、さらに何食わぬ顔をしてこの場にいられるような冷静な人間なのだから。……しかし、そんな人間は間違いなく、この中にいる。
「……なんてやつなんだよ、犯人は」
真犯人の思惑にまんまと乗ってしまった霧生先輩は、戦慄するように声を漏らす。
「だが、やっとほころびが見えた。さらに周到な人間だったのなら、こうなることを見越して犯行後にかけた粘着テープから白髪をより分けて残していく、ぐらいのことはしただろうな」
「しかし、あらかじめカディナさんの髪を用意できるような方なんていらっしゃいましたでしょうか?」
「そりゃあ、怪しいのは美容師君じゃない?」
福添先輩が口にした疑問を、一目先輩が拾って次の俎上に上がる人物を指定する。
「ぼ、僕っすか!?」
「だってそうでしょう? 美容師君はみんな、つっても希望者だけだけど、頭を洗ったりしてたじゃない? ちょっと長いところがある、とか言ってついでに切って確保しておくぐらいのことはできたでしょ?」
「た、確かにそれはそうっすけど……」
「マサナオさん……そうだとしたらまさか動機映像が流れる前から……」
先ほど容疑を向けられていたカディナ先輩も、涙を流しながら今度は追及する側に回る。
「才能を生かして最初から企んでたんじゃないの? 美容師君」
「そういえば……左手も器用に使ってましたよね……体格もあるし、左手でも一撃で刺すことができたんじゃ……」
場がどんどん瀬戸先輩真犯人説へと流れていく。……これをひっくり返す証拠がなかったかと思案を巡らすが、思い当たるものがない。僕自身も瀬戸先輩が左手を使って髪を切っていたのも見たこともあって、瀬戸先輩真犯人説に流れそうになってしまう。
「これはもう決まったかな? それでは、お手元のボタンで……」
「ちょっと待ってー!!」
モノクマのアナウンスを遮るように、竹枡先輩が声を張り上げた。
「なに? ビューティーアドバイザーさん……言いにくいなこれ、まあそれはそうとして、何か反証になるものでもあるの?」
「あたしと瀬戸君は、一晩中一緒にいたのー!!」
「うっわー超特大スクープじゃん!」
その爆弾発言に、一瞬だけ緊張した雰囲気が吹き飛び、岸和田先輩が囃し立てた。
「えっ、ええーっ、いや、いつも瀬戸君はあたしたちにシャンプーしてくれて、でも人にしてもらわないとーセロトニン? がでなくて、だからしてあげようかとも思ったけど、美容室ではできなくて、だから散髪ケープとエプロンだけ借りていって……」
要領を得ない竹枡先輩だが、今まで得た情報をまとめて代弁を試みることにしよう。
「つまり、竹枡先輩は、日ごろのねぎらいを込めて瀬戸先輩にシャンプーをしてあげようと思った。でも美容室には併設のランドリーでちょうど岸和田先輩が洗濯をしていた。人前でするのは恥ずかしいから、去るのを待ってうろうろしていた。そうしているうちに、夜時間が近づいて、ここでシャンプーするには時間が心もとなくなった。そして、なら個室のお風呂でしてあげればいい、と思いついて散髪ケープと美容師エプロンを持っていって、瀬戸先輩の個室に押し掛けて……といったところですかね」
「そうそう、それそれ! そんなかんじ!」
「あの時はびっくりしたっすよ。さすがに事前にしてくれるつもりがある、って知らなかったら断ってたっすね」
僕の憶測に二人息ぴったりに声を揃えて肯定する。
「竹枡チャン、なかなか筋が良かったんで、その後リラックスしてすぐ寝ちゃったっすよ」
「あたしも、成し遂げた気分になってそのままぱったり……」
「校則に就寝は個室で、って書いてあったけど、他人の個室でも良かったんだね……」
すでにバカップルの片りんが見えかけている二人に対し、岸和田先輩が呆れたようにつぶやいた。
「でもさあ、二人が共犯で口裏を合わせてる、ってことも考えられない?」
しかし、まだ追及の手を止めるつもりはないのか、一目先輩がそう声を上げる、
「どうなの? モノクマ?」
「それねえ……本来、関わった人間が二人以上いても、クロとなる権利があるのは直接手を下した実行犯だけなんだけど……事前に説明しなかったしなぁ……今回だけは特別に、共犯がいた場合にも卒業の権利をあげようかなあ……うん、そうすることにしよう!」
「なんだそれは! フェアじゃないぞ!」
後付けで追加された情報に、堀津先輩が声を荒げる。
「うるさいうるさい! 説明しなかったこっちにも落ち度はあるけど、聞かなかったそっちにも落ち度があるんだからね! 共犯がどういう扱いになるか、なんて聞いておかなきゃダメでしょ!」
両手をあげて逆切れして見せるモノクマ。
「じゃあ共犯の線でも話し合うべきじゃないかな」
すぐに受け入れる一目先輩。
「……そうですね。他に怪しい方もいないようですし……」
「とにかく徹底的に話し合ってみるべきです!」
「確かに一理あるよね……」
と共犯説を推す声と、
「いや、共犯者も卒業だというのは今出たものだ、検討する価値はない!」
「たしかに、それよりも他の容疑者を洗っていくべきだよね」
「俺たちは犯人じゃないっすよ!」
と共犯説否定の声で……
「議論がほとんど真っ二つだ……」
とついつぶやいてしまう僕。
「ちょっと待ったー! 真っ二つ? 今真っ二つって言ったよね!」
そんな僕のつぶやきを拾って、モノクマが割り込んでくる。
「確かに聞きました! そういうことならお任せあれ! われらが希望ヶ峰学園の誇る変形裁判場の出番だね!」
変形裁判場? ……と尋ねる前に、証言台が動き出し、円形から二つのチームが正面から向き合い対峙する、ラグビーのスクラムのような体勢へと変化した。
共犯だ!
一目・カディナ・福添・手岡・黒須・霧生
共犯じゃない!
堀津・岸和田・琴間・羽月・芳賀・勝・瀬戸・竹枡
黒須「髪の毛を手に入れる機会が一番多かった以上、瀬戸君は怪しいと思う……」
芳賀「手に入れる機会が少なかった人でもその少ない機会で手に入れたかもしれないやん」
一目「散髪ケープと美容師エプロンなんて返り血を防ぐのにぴったりでしょ?」
勝「血液って洗濯してもなかなか落ちないからそれで返り血を防いだらかえって証拠を残すことになるよ。それに防ぐには一緒に刺した枕で十分でしょ」
手岡「政直は体格も良いし、力もありそうだし、刺すこともできたと思う……」
羽月「体格や力がありそうなのは瀬戸君に限ったことじゃないでしょ?」
カディナ「私とマサナオさんの他に左手を利き手として使う人を見たことありません!」
岸和田「基本的に、日本にある施設は右利きを想定して設計されてるから、使える人でもわざわざ左手を使う機会ってそうないからね」
福添「瀬戸さんと竹枡さんは仲が良いそうですし……」
琴間「さすがに一緒に殺人を計画するほどの仲ではないと思いますが……」
霧生「……俺、一度騙されちまったからとことん話し合わなきゃって思うんだ」
堀津「話し合うべきは、共犯説より他の犯人の可能性だ」
議論の結果、瀬戸先輩・竹枡先輩共犯説はなしとなり、改めて一から容疑者をピックアップすることになったが……
「だったら……誰がクロなんだ?」
そう考えなおして……瀬戸先輩が議論スクラム前に言っていた言葉、
『さすがに事前にしてくれるつもりがあるって知らなかったら断っていた』
という言葉が引っかかった。
……そうだ。昨日は殺し合いを推進させるための動機映像が流れたんだ。その後からやおらやってきて、部屋に入れてください、なんて言うことを……瑞倉先輩の性格を鑑みても……受け入れるのだろうか?
とりあえず『受け入れない』と仮定して……せめて、『事前に約束していたこと』をする、っていうのならまだ受け入れていた可能性はある。そう、事前の約束。
事前の約束……これは、全員に聞いてみる価値があるかもしれない。
「……あの、先輩方。お尋ねしたいことがあります。この中に、福添先輩に麻雀に誘われて、『興味はあるけど、基本から教えてほしい』……というような返事をされた方っていらっしゃいますか?」
僕のその質問に、肯定を返す人物は……いなかった。つまり……
「そう返事をしたのは……瑞倉先輩。福添先輩は瑞倉先輩と麻雀の基本を教える約束をしていた」
「……おや。私ですか。琴間さん」
福添先輩は名指しをした僕を、表情を変えずに見返し、淡々と答えた。……頼むから、僕の追及を軽くいなして無罪を証明してほしい。と矛先を向けたのは僕なのに、矛盾するような思いを抱いていた。
福添「確かに私は瑞倉さんと約束をしていました。まあ、瑞倉さんは瀬戸さんとも髪染めの約束をしていたようですし……それは私に限った話じゃない、他にも約束をされていた方はいてもおかしくないとは思いますがね」
福添「しかし……今まで上げられた犯人像とは私は重ならないじゃありませんか。第一、私にはカディナさんの髪を手に入れる機会なんてなかったんですよ」
琴間「それは違います!」『美容ケア履歴』『ゴミ掃除割り当て表』→『カディナさんの髪を手に入れる機会なんてなかった』
福添先輩の発言の矛盾を打ち砕くために、僕は2枚のメモを取り出した。その内容はこうだ。
『美容ケア履歴』
一日目夕食前……竹枡
二日目朝食前……霧生
二日目昼食後……琴間
二日目昼食後……芳賀
二日目夕食後……福添
三日目朝食後……カディナ
三日目昼食後……手岡
三日目昼食後……黒須
三日目夕食前……瑞倉
『ゴミ掃除割り当て表』
談話スペース……琴間・一目
倉庫……芳賀・霧生
資料室……堀津・岸和田
体育ホール……黒須・手岡
食堂……勝・福添(朝食前)
厨房……勝・羽月
美容室・ランドリー……瀬戸・カディナ
遊興室……瑞倉
ゴミ回収……福添・竹枡
「これは、瀬戸先輩が行った美容ケアの時間のメモと、3日目午前中に行った掃除の割り当て表です……いろいろ書いてありますが、重要なのは『朝食後、瀬戸先輩はカディナ先輩の美容ケアをし、それが終わった後に、二人が美容室・ランドリーを掃除した』ということと、『福添先輩がゴミの回収をしていた』ということです」
そのメモを回し、時間や割り当てを確認してもらったが、間違いはなかった。美容ケアにおいて、瀬戸先輩がカディナ先輩の髪を調整したこと、その時に切った髪を大きなゴミ袋を抱えた福添先輩に渡したことも認めてくれた。
……なので、そのゴミの中から、カディナ先輩の金髪だけを抜き取って取っておくことが可能だった、ということが判明した。しかし、これが真実だとすると、福添先輩は動機映像発表前から、卒業に向けた下準備を着々と進めていたことになる。
だが、当の福添先輩は……まだ「あらあら」といった風を崩さない。
福添「……確かに、私にはごくわずかな間ですが、その機会があったようですね」
福添「しかし……だから何だというのでしょう」
福添「瑞倉さんを刺したあのような刃物、……私が左手で上手に扱えると思いますか?」
琴間「はい。そう思います!」『生徒名簿&モノクマ劇場』→「左手で上手に扱える」
左手で上手に扱える証拠がある、と僕は全員に電子生徒手帳を開くようにお願いする。そこには福添先輩に関してこう書かれていた。
福添 志穂 (ふくぞえ しほ)
『準・超高校級の福祉委員』
身長161㎝ 体重58㎏
誕生日 12月19日
・資格
ギフテッド行政特例により介護福祉士、作業療法士所持。
・外見
いかにも優等生といった感じに髪も服装も整え、姿勢も常に正している。
・備考
年下の琴間にも『さん』づけをするなど礼儀正しい。麻雀が趣味。
生徒名簿欄というのが追加されたことに気付いていなかった先輩もいるようで、「うわ、体重ものってるじゃん」っていう女子の誰かの声が聞こえてきた。
「確かに体重も重要です……瑞倉先輩、身長高く見えるのにこんなに体重は低かったんですね……福添先輩は意外とがっしりされているようですね」
「……それにはあまり触れないでいただきたいのですが」
と苦言を呈されて本題に戻る。
「大切なのは、資格、福添先輩が『作業療法士』を持っていることです。そして作業療法士が行うリハビリテーションの一つに『利き手交換訓練』というものがあります……つまり他人に利き手を交換させることができる程に、ご自身も逆手での行動に精通されているわけです。それも『準・超高校級』と呼べるレベルで」
そうすらすらと述べる僕に、福添先輩のみならず他の先輩方からも感嘆の声が上がる。
「……お詳しいのですね」
「ええ。伊達に希望ヶ峰学園の予備学科目指してないので」
「ですが……実は臨床の現場で利き手交換訓練を行うことにはややブランクが開いておりまして、私自身、勘を取り戻せてないのですよ」
「……できないことをできないと証明するのは難しいですよね。悪魔の証明、ってところですか」
「なかなか難しい言葉をお使いになるのですね。琴間さん。本当に中学2年生なのですか?」
「中学2年生だからこそ、こういう言葉を使いたくなるのですよ」
福添先輩は、ふふ、と笑って、再び口を開いた。
福添「……琴間さん。あなた本当、末恐ろしい方ですね」
福添「私は瑞倉さんと約束をしていた。いいでしょう」
福添「私にはカディナさんの髪を手に入れる機会があった。いいでしょう」
福添「私は女子のなかでは体格の良い方である。いいでしょう」
福添「私はブランクがあっても、少なくとも他の人よりうまく逆手を使える。いいでしょう」
福添「できないことをできないと証明することは難しい。いいでしょう」
福添「ですが……あのような刃物、どうやって瑞倉さんの部屋に持ち込んだというのです?あのようなもの、いくら瑞倉さんでも警戒するでしょう?」
『5㎜ほどの緑色の何か』→『麻雀マット』
琴間「これです!」
「霧生先輩……もう一度粘着テープを見せてもらえませんか?」
どうやら僕らの応酬を呆気にとられて見ていただけだったらしい霧生先輩は、いきなり話を振られてしばらく無反応だったが、もう一度同じようにお願いしたら「ああ」とだけ答え、粘着テープを見せてくれた。そこには確かに、『5㎜ほどの緑色の何か』が貼り付いていた。
「この緑色の何か……おそらく麻雀マットのふちだと思われます。巻いた状態でケースに入れても、真ん中に空間が残ります……その空間にあの長い牛刀包丁を入れて運んだのでしょう……しかし抜き取るさいに刃で傷つけてしまい、この5㎜だけ削り取って落としてしまったのです……僕らにとって幸運だったのは、犯人が犯行の後にかけたコロコロでは回収されず、霧生先輩がかけたコロコロに貼り付いていた、ということです」
「ははあ、なるほど……」
この後に及んでも、まだ焦った様子のない福添先輩。……どこまでも底の知れない人だ。もっとも、向こうも僕のことをそう思っているだろうが。
「遊興室は夜時間でも閉まらない施設ですから……それを戻しに行っているでしょう。ですが、その麻雀マットにこの5㎜のふちにピッタリ合う傷が見つかれば、僕の推理は正しかったことになるはずです!」
「よし、モノクマ、遊興室から麻雀マットを持ってこい!」
なぜか霧生先輩がそう命令を出すが、
「もう持ってきてあるよー」
と巻いた状態の麻雀マットを両手で掲げているモノクマが円の中心に現れて、それを「ぱーんぱーかぱーんぱーん」と表彰式のような音楽を口ずさみながら大仰に広げると、
「……ある。ちょうどあう傷」
僕も真ん中に躍り出て、全員に見えやすいようにそれを照合して見せた。……さすがにこれで観念するだろう。
「それでは、今回の事件を最初から振り返ってみましょう……」
ACT1
まず昨日の午前中、寮内のゴミを回収していた犯人は、カットで出たカディナ先輩の髪をゴミとして回収したんです……その時点ではまだ動機が発表されてませんでしたが……それを見て偽装工作が思い浮かんでしまったのでしょうね。それをくすねたんです。
ACT2
その後、動機が発表され……犯人は犯行を決意してしまったんです。標的にしたのは、動機を見せられてなお、それ以前にした約束が有効だった瑞倉先輩。そのための準備として、遊興室から麻雀マット、保健室から睡眠薬、厨房から長包丁を回収して自室へもっていったんです。……どれか一つでも誰かに見咎められれば、引き返せたかもしれないのに。
ACT3
そして麻雀マットケースの中に長包丁を入れて、麻雀セットをもって犯人は瑞倉先輩の部屋に向かった……さすがに夜時間に麻雀の練習をする約束はしてなかったでしょうけど、動機のせいで眠れないのでこの時間にお勉強して、早く実際に打てるようになっておきましょう、とでも口実を付けて、部屋に入っていった。これは事前に約束していたからこそ、受け入れられたことです。
ACT4
実際に麻雀を打って午前1時ほどまで時間を潰し……犯人は飲み物に睡眠薬を盛って……そして眠りに落ちた瑞倉先輩をベッドの上まで運んで仰向けに寝かせた。……瑞倉先輩って、身長あるのにすごく痩せてたんですね。
その後、ケースにしまっておいた牛刀包丁を取り出したのですが、麻雀マットを取り出すときに傷つけてしまっていて、ふちのゴムを5㎜ほど落としてしまった……これが犯人の一つ目のチョンボだったんです。
ACT5
返り血を防ぐために胸に枕をのっけて……左手に持った長包丁でそれごと貫いたんです。そして自分がいた証拠を残さないため、部屋中に粘着テープクリーナー、いわゆるコロコロをかけ、その後、偽装のためカディナ先輩の金髪を落としていった。左手で犯行に及んだことも含め、有効な工作のように見えますが……それ以前に抜け落ちていた白髪も回収してしまっていたのです。……それに気づいて白髪もより分けて残していれば、事件は迷宮入りしたかもしれませんね。それに加えて削り取ってしまったマットのゴム片も見落としてしまった。これが犯人の二つ目のチョンボです。そして翌朝、何食わぬ顔をして僕たちに合流したのは……
Final
『準・超高校級の福祉委員』 福添志穂先輩……
これが……真実なんです。
「何か言い返すことがありますか、福添先輩!」
僕のことをきっ、と睨むように見つめる福添先輩。しばらく考えたように黙り込んだ後、……こう返した。
「あなたの方でも……瑞倉さんと麻雀の練習をするとおっしゃっていたじゃないですか」
「え……」
……そうだ。麻雀をする、っていうのは僕が福添先輩とした口約束であり、さらに瑞倉先輩が僕ら二人とどのように約束をしているかについて他に知ってる人はいない。約束の内容に関して他に証人がいない……だけど、
「僕は左手を利き腕のように使って瑞倉先輩を刺したというんですか!?」
「ええ、できないことをできないと証明することはできませんよ。悪魔の証明ってやつです」
先ほど僕が述べた単語を意趣返しのようにぶつけてくる福添先輩。
「それではカディナ先輩の髪の毛を手に入れる機会は福添先輩にしかなかったでしょう! まさか日常で抜け落ちる髪を僕が目ざとく見つけた上で拾い集めてた、とでもいうつもりですか!?」
「いえいえ、さすがにそうは言いません。ですが、黒須さんから聞いたところによると、あなた、黒須さんとカディナさんが卓球の千本ラリーをしているところに現れたとのことでしょう……」
そう言って、深呼吸して、言った。
「私の見立てではこうです」
ACT1 Change!
一昨日、『体育ホールで激しく卓球をしていた黒須さんとカディナさんを見て』……その時点ではまだ動機が発表されていませんでしたが……それを見て偽装工作が思い浮かんでしまったのでしょうね。『三人で卓球に興じつつ……後片づけと掃除の時に隙を見て落ちたカディナさんの髪をくすねたのです。』
髪は一日に百本ほども抜けるそうですね。午前中ずっとしていたわけですから、四時間として単純計算しても十六本以上……隠ぺい工作には困らないほどには髪の毛は集まったでしょうね。
ACT2~5 No Change!
Final Change!
『予備学科志望生』……琴間 恵那樹さん
よくぞここまでたばかったものです、こちらこそが……真実なんです。
しばらく福添先輩の推理を清聴していた全員だった……まだ粘るというのか。……ほかに証拠はないか……
コトダマ 『夜時間に閉まる施設』
「そうだ! 犯行後に使った粘着テープクリーナー! 『事件が起きたら焼却炉は使えない』から、犯人の部屋にはそれが残ってるはず! 瑞倉先輩の白髪が付いたそれが!」
「そうですね。どうぞ持ってきてくださいモノクマさん」
乾坤一擲のコトダマをぶつけても、余裕綽々、といった表情の福添先輩。
「ボクは使い走りじゃないんだけどなあ……まあしかたないか。……はい、こっちが福添さんの部屋のゴミね」
と持ってきた。確かに粘着テープクリーナーの残骸が入っている。
「よし、これに白髪があればいいんだな……」
これが揺るぎない証拠になる、と全員総出で白髪の捜索に当たったが……
「……ない」
「ええ。単に自室の掃除に使っただけのものですもの」
……だれ一人、瑞倉先輩のものと思しき白髪を見つけることはできなかった。……まさか、現場の監視が始まったあたりで、白髪を現場に残してない自分の失敗に気付いて、更にこうなることを見越して粘着テープから白髪を捨てて……その白髪は排水溝にでも捨てて……隠ぺいしたというのか?
「さて、公正を期すために、琴間クンの部屋からもゴミを持ってきたよ!」
そう言ってモノクマが持ってきたのは……動機映像を隠すために使ったガムテープ、だって? 確かに失敗して捨てたやつもあったが……そうだ、ガムテープでも床の髪は拾えてしまう。それをみんなでつぶさに調べることになったが……
「こっちにも……ない」
おやおやこれで少しは巻き返せましたかしら、とでも言いたげな視線を僕に送る福添先輩。何か有効な証拠は……
コトダマ『なくなっていたアイスティー』
福添「アイスティー? 私はコーヒー派です。竹枡さんが淹れたコーヒー、美味しいですよね」
No Damage!
コトダマ『手岡の証言』
福添「持ち込めた手荷物に個人差がある、ですって? 私は大したもの持ち込めてませんよ」
No Damage!
……どんな言葉をぶつけてもぼろを出さない。
ただただ時間は過ぎていく。
落ち着け。これまでの学級裁判でカディナ先輩や瀬戸先輩や竹枡先輩をかばったことで心証はこっちが圧倒的に有利だろう。
……だが、これは多数決だ。何かのもつれで、僕の方に票が集まってしまったら?
などど不安が搔き立てられる。
「もうそろそろいいかなー残り1分で投票タイムになるよー後悔のないように話し合っておけよー」
モノクマの通告、皆一様に困惑の色を顔に浮かべる
「……思えば、ここまで本当によく騙したものです。初日に迷い込んだだけの無害そうな態度から始まり、不安そうな顔を見せつつも気丈にふるまい、年上である私たちに好かれるよう立ち回り、瑞倉さんの薬品棚のリスト作成の手伝い、という貢献する姿勢を見せ、朝も早くから起きて真面目な面を見せつけ、油断させてから卓球などのレクリエーションに参加して着々と偽装プランを立て、掃除にも積極的に参加し、わざわざリストに睡眠薬を一箱持っていったことを隠れ蓑にして他の箱から一包抜き取り、麻雀マットで牛刀を隠すことを思い付き、平然と瑞倉さんの部屋に入って、まんまと殺害を成功させるどころか、カディナさんに罪を擦り付け、自分が犯したミスをあえて自分で暴くというマッチポンプをなし、さらに瀬戸さんと竹枡さんをかばって信用を集めてから、今度は私に罪を擦り付けようとするなんて……」
向こうも向こうで不安なのか急にべらべらとまくし立てる。
……そこに、みせたほころびを、僕は見逃さなかった。
「5!」
「なんで福添先輩は……睡眠薬の一回分が、一包だと知ってるんですか?」
「4!」
「え……?」
「3!」
「もし捜査中芳賀先輩に教えてもらってないのなら……福添先輩が知ってるのはおかしいんですよ。リストを作りを手伝った僕もどの薬の一回分の単位が何か、までは覚えてないですから。僕も裁判中、意識して『一包』じゃなくて『一回分』って言いましたから」
「2!」
「でも! 睡眠薬の一回分の単位なんて、『一包』か『一錠』のどちらかでしょう!」
「1!」
「……ここでその言い訳は、通りませんよ。そもそも心証的にはこちらはもともと有利なはずなんですから」
「0! 投票ターイム!」