「投票が終わったみたいだね! 最初の学級裁判からこんなに紛糾してくれてうれしいよ! それでは、結果はっぴょーう!」
モノクマがそう宣言すると、奴の背後にある巨大なモニターに巨大なスロットマシンが映し出された。……絵柄は僕たちの似顔絵のようだ。リールがゆっくりと回り……左、中、右……それぞれに福添先輩の顔が止まり、そして……
「だーいせーいかーい!『準・超高校級の幸運』瑞倉冠クンを殺したのは、『準・超高校級の福祉委員』、福添志穂サンでしたー! すごい粘りを見せてくれたけど、結局満場一致でしたね!」
モニターを見上げていた福添先輩は……ただ、残念そうな顔をして
「……そうですよね」
とつぶやくのみにとどまった。
「うんうん。君はよくやったよ。身代わりを用意したり、共犯説に乗っかったり、追い詰められても逆に追いつめてきた人の推理をそっくりそのまま返したりね。その諦めない姿勢、いいと思うなあ。往生際が悪い、ともいうけどね!」
福添先輩。
――おはようございます。琴間さん
年下の僕にもさん付けして、敬語で話す、礼儀正しい福添先輩。
――大丈夫です……大丈夫ですから
泣いていた竹枡先輩を「大丈夫です」と励ましていた福添先輩。
――不健全なことではありませんよ。麻雀はですね……
好きなことになるとおしゃべりが止まらなくなる福添先輩。
――理屈を付けましたが、単に私が好きなんですよ。悪いですか?
わざとらしく拗ねて見せたり、案外あざといところもある福添先輩。
――私たちが住むところですから、私たちの手できれいにしないと。
朝早くから掃除に取り組む福添先輩。
――麻雀はもう少し待ってていただけますか。実践の前に基本から教えてほしいとのことなので。
約束の進捗を報告してくれる律儀な福添先輩。……これが疑いの目を向けるきっかけとなってしまったのだが。
……そんな福添先輩が、瑞倉先輩を殺した?
しかも、カディナ先輩にも、瀬戸先輩にも、竹枡先輩にも、……挙句の果てに僕にも、その罪を擦り付けようとした?
信じたくない。信じたくないけど……これが真実なんだ。
「志穂……なんで……」
「福添チャン……」
「そんな……あの福添サンが……」
票を投じた後でも、福添先輩が瑞倉先輩を殺害したクロだと信じたくないのは先輩方も同じのようで、騙された怒り、罪を擦り付けられそうになった憤り、自分たちを踏み台に卒業しようとされた憎しみ……そういった負の感情を表に出すより、ただただ、発すべき言葉がわからない、といったところだった。
「どうして……瑞倉君を……」
「瑞倉さんを選んだのは……瀬戸さんに予約の確認をしたことを見たからです。動機映像を見た後でも、彼にとって事前にした約束が有効、だったからっていうだけです」
「福添さんの動機映像には何が……」
「おそらく、みなさんと同じようなものです……荒らされた家の映像が、ただ延々と映されていました……」
「でも福祉委員さんは動機の映像が流れる前からテニスプレーヤーさんの髪を集めたりしてたよね?」
「瀬戸さんからカディナさんの髪を受け取ったとき……それがはっきりと、モノクマのいう『勝算』に見えてしまって……手に入れておいたのです」
一問一答のように、ぶつけられた質問に淡々と答えていく福添先輩。
「いわば、動機は『この状況』そのもの、といったところでしょうね。この、監禁されて、殺し合いを強いられていること、そのもの……だってそうでしょう、今一緒に笑っているクラスメートの皆さんがいつ豹変して襲い掛かってくるかもわからないですし、いつ監禁している犯人のプランが変わって直接危害を加えてくるかもわからないのですから……。でも結局、豹変したのは私のようですね」
質問が途絶え、ようやく自分から心情を吐露する気になったのか、そうつらつらと並べ立てる福添先輩。
「福添さん……」
そんな福添先輩に、竹枡先輩が……
「……ごめんね」
「え……?」
と謝罪の言葉を漏らした。福添先輩はそれを全く予想してなかったようで、ポカンとした表情を浮かべている。
「……最初の日ね。泣いてる私を、福添さんに慰めてもらって、すごく落ち着いたんだ、もしあたしに、お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかな、って思った。でも……あたしと同じ歳なんだよね、あたしと同じくらい辛かった、いや人を殺してでも……って思っちゃうぐらい、辛かったんだよね。こっちから少しでも何かしてあげることができれば、こうはならなかったかもしれないよね。……もう遅いかもしれないけど、本当に、ほんとうに、……ごめんね」
そう謝罪を述べる竹枡先輩。
「……ベニさん。どうしてそんな人に謝るんです」
と口を挟んだものがいた……カディナ先輩だ。福添先輩の思惑通りにことが進んだとしたら、人殺しのぬれぎぬを着せられていたであろう、カディナ先輩だ。
「そんな人ってどういうこと!?」
「だって! この人は! ……カムルさんを殺して、私たちをも騙して間接的に殺そうとした……極悪人ですよ。謝る必要なんてない、いや謝るべきではない、謝ってはいけないのです」
「そんなの勝手じゃん! あたしが謝りたいから謝る! それの何が悪いの!?」
「あらあら、ケンカしちゃって。生き残ったやつらは仲よくしろよー。だって、コロシアイ生活はまだまだ続くんだからな!」
険悪な雰囲気になりそうな二人に、茶々を入れるモノクマ。……コロシアイなのに仲よくしろというのか。二人はそれで毒気を抜かれたのか口を閉ざした。
「……福添。俺はお前にかけるべき言葉がわからない。お前自身は、言いたいことは言い切ったようだからな。……だが、最後に一つ質問をさせてくれ」
重苦しい表情で福添先輩に投げかけようとする堀津先輩。
「瑞倉の部屋に入った……ということは、瑞倉の動機映像も見たのだろう。……そこには、何が写っていた?」
「それは……」
答えようと口を開いた福添先輩。
「それでは! 『準・超高校級の福祉委員』、福添志穂さんのために、スペシャルなオシオキを、用意いたしましたー!」
そこに割り込んで、モノクマが宣言した。
どこからか飛んできたアームが福添先輩の首根っこをつかむと、そのまま一気に、壁際の大扉の中に引っ張り込んでいった。その後の様子はモニターで中継されているが、そのままずるずると引きずられていく。首が苦しいのか、それとも擦られた背面や臀部に激痛が走るのか、その両方なのか、脂汗を流しながら苦悶の表情を浮かべている福添先輩。
そしてあっという間に腕を水平に広げられた姿勢で、十字のように磔にされる。その両肘にはワイヤーがかけられ、その両端を結わえ付けた籠が左右に一対、吊るされた。その籠に、大量のモノクマが、一匹、また一匹と乗っていき、福添先輩を磔にしている木材を、ミシッ、ミシッときしませていく。それでもモノクマはお構いなしにどんどん籠に乗っていき……そしてついに、ワイヤーが福添先輩の肘にも食い込んでいき、その肘から血液がぽたり、ぽたり、と滴り落ちていく。
時間がたつにつれ、『食い込んでる』から『肉を裂いていってる』といった表現のほうが適切になっていき、血もぽたり、ぽたり、と落ちていく、から、びゅっ、びゅっと吹き出ている、といった感じになっていき……そしてついに、ほぼ同時に福添先輩の両肘を木材ごと切断した。だらだら、だらだら、ととめどなく流れていく血液、……顔からも血の気が抜けていき、首も、かくん、と、姿勢を保っている筋肉の支えがなくなったかのように、くずおれたのだった。
「ひゃっほーう! エクストリーム! いやぁーセロトニンが湧き上がりますなあ! あれ、こういうときにでるのってアドレナリン、だったっけ? アセチルコリンだったっけ? まあなんでもいいや」
「うわああああああ!! 志穂ぉぉぉぉぉぉ!!」
「……っ」
「こんなの……あんまりだよ」
「……わざわざ費用かけてこんなことするんだね」
絶叫するもの、言葉を失うもの、反応は正反対でも、その凄惨な映像に皆一様に正気ではいられないようだった。
「福添せんぱぁぁぁい! なんでこんなことになっちゃったんですかあああ!!」
僕もひざまずくような体勢になり、泣きわめく……彼女を糾弾した、いや糾弾しあった自分でも声も涙も止まりそうにない。
人を、クラスメートを、……瑞倉先輩を殺した福添先輩とは言え、あまりにも無惨なその末路。
「うーむ、いいねえみんな。その絶望の表情、福添さんに対する失望以上の絶望だね! うーむ、コロシアイ学園生活、味わい深いものですなぁ」
心底楽しそうに煽るモノクマへの憎悪も……今はわかない。憎悪する気力も尽き果てているような感覚だ。……その言葉の意味もほぼ伝わらず、ただ音として耳に入ってきている、そんな感じだ。
「じゃあ、そろそろいいかな? じゃあ解散ね! 来たエレベーターに乗って帰ってね。忘れ物すんなよ!」
モノクマがそう促すが、膝が動かない。動いてくれない。いうことを聞いてくれない。えい、ままよと、そのまましばらく声をあげてなきじゃくっていると……
「立てる?」
と、静かな、優しい声が、左隣から聞こえてきた。涙で曇った視界の前に、手も差し伸べられる……羽月先輩だ。その手をぎゅっと握り返す。……生きている人間のぬくもりだ。それだけで、こんなにも、心が和らぐものなのか。
「……辛い役割、だったよね」
「はい……辛いです」
羽月先輩の問いかけに、僕はそのまま返す。飾っている余裕など、僕にはどこにもなかった。……こんな時ぐらい、甘えさせてもらおう。
「一番年下のあなたに押し付けちゃったね」
「はい……」
「そうだよな。……本来なら俺がもっと率先して解決に向かわせていればよかった」
うつむいて顔をあげられないが、これは堀津先輩の声。……四日しか一緒にいないのに、僕は声で誰かを認識できる程に、先輩方に入れ込んでたのか。
「そうやな……めっちゃ頼りになるから忘れとったけど、えなきんも中学二年生なんやな……」
……これは芳賀先輩。
「……僕が犯人にされそうになった時、かばってもらってありがとっす」
……これは瀬戸先輩。
「……そうですよね。エナキさんも辛いのですよね。……ベニさんに当たってる場合ではなかったですよね」
……これはカディナ先輩。
「……支えてあげる。行こう」
……これは黒須先輩。
……そこから先は、もうほとんど、記憶にない。先輩方に立ち上がらせてもらって、引っ張ってもらったような気はするが……気づいたら自室にいた。電気はついているが、窓も締め切っているため、部屋にいるときはいつもつけているので今が何時だかはわからない。
しかしわかったところで、もはやどうだっていいと……勝手に身体が眠りに落ちてくれるまで、ただただ、寝そべっていたのだった。
――――
『モノクマ劇場』
せっかく作ったのに、ボツになっちゃうのって残念だよね。それが丹精込めて作り上げたものならなおさらもったいないなあ、って思っちゃうよね!
見せびらかしたいなあ、日の目を見させてあげたいなあ、どうしよっかなあ。お蔵入りなんて寂しいよなあ。よし、公開しよう、そうしよう!
被害者になった瑞倉冠クンに予定していたオシオキだよ!
瑞倉が、体ごと入る球体の中に入れられている。まるでカプセルトイ、いわゆるガチャポンの景品のようだ。
それがいきなり横からの衝撃によって打ち出される……カメラが引きになって、パチンコ台が映し出され、画面端にワイプで瑞倉の様子が映し出された。
どうやら瑞倉は、巨大なパチンコ台の中に一玉として入れられてしまっているようだ。落下しながら釘にぶつかるたびに、中にいる瑞倉にも衝撃が伝わっていく。受け身もまともにとることができず、体に巻き込んでしまった手指を折ってしまったようで、ぷらぷらと痛々しい。
釘の森を抜け、今度は5つの穴が開いた皿のような円形の舞台に降り立った。その穴のうちの一つのふちは真っ赤に塗られており、『大当たり』と書かれている。……パチンコのクルーン、という部位だ。
そのクルーンを、瑞倉を入れた球はグルグルと回る。中の瑞倉も目を回して吐しゃ物にまみれている。……そして、だんだんとその勢いが衰えていって……大当たりの穴に。ストン、と落ちていった。
『オメデトウ! オオアタリ!』
と台が光り輝き……
下皿の部分から、大量の……それこそ、人間一人分とおぼしき量の血液と……頭、手、足、胴、とばらばらになった瑞倉だったものが、景品のように出てきたのだった。