ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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第1章:インターン篇
1レ前:かれらは、ノリモントレイナー


 車や船舶、電車に飛行機といった輸送具に宿る意識との意思疎通ができることが広く認識されるようになったのは、高度経済成長期のことだった。

 安全に乗り物を動かすという面においては、基本的に周囲を監視する目は多いに越したことは無い。ゆえに、少なくとも日本国内の事業に用いられる車両等においてはその発見から半世紀も経たぬうちにその導入が完了した。

 そして、人々はかれらの事を親しみを込めてノリモンと呼ぶようになったのだ。

 

 

 東京都は小平市の一角。

 ラッチと呼ばれる一種の結界を前にして、五人の男女がそのラチ内の様子をうかがっていた。

 かれらは、ノリモントレイナー。ノリモンと心を通い合わせ、その秘めたる力を引き出すという特殊な才能を有する者たちである。

 

「肩の力を抜きな、山根君」

 

 五人の中でもっともベテランの、早乙女さんは僕の肩をたたきながらそう言った。

 ……そうは言われても。

 

「初めてなんですよ、緊張しない方がおかしいじゃないですか」

「でも、すでにシミュレータでは何度でもやってることだろう? それと同じだ、難しく考えるな」

 

 早乙女さんはそう言いながら、半ば僕に見せつけるように――つまりは、僕がそうするのを促すように、チッキと呼ばれている水色の長方形のカードを取り出すと、それを掲げてラッチに押し付けた。

 

 その瞬間。

 ラッチに触れたチッキが赤く光り、早乙女さんを包み込む。それと同時にラッチの一部が裂けるように口を開け、彼をラチ内*1へと招き入れると、まもなく口を閉じた。

 そんな早乙女さんを見て、呆れたように口を開く人が二人。

 

「全く。アタシだって初めての集団演習の時は不安だったのに」

「リーダーの場合経験が長いから、もはや自分が初めて入ったときの事を覚えていないんだろうよ」

 

 そう言うのは僕より少し前にこのユニットに入ったという北澤さんと、紅の忍者装束を身に纏った成岩(ならわ)さんだ。

 二人は少しだけ前に進んで、早乙女さんと同じようにカードを取り出しはしたけれども、彼のようにはせず、一度立ち止まる。

 

「山根。誰だって最初は初めてなんだ。そういう奴をきちんとサポートするのも、先輩の役割ってもんだ。だから安心していい」

 

 成岩さんは爽やかな笑顔で、僕に左手を差し出した。

 

「ええ、その点はアタシも同意。それに、これはきっと君が思っているほど難しいものじゃないわ。だから今回実際にやってしまえば、次からはもっと落ち着いて構えられる筈よ」

 

 その反対側で、北澤さんが今度は右手をこちらに伸ばした。

 二人の間から、薄く発光するラッチを見る。この中に、先に入っていった早乙女さんがいて――そして、クシーさんがいる。

 

「行きましょう。リーダーを待たせすぎる訳にはいきませんから」

 

 後ろから声が聞こえる。この五人のユニットの最後の一人、佐倉さんだ。僕はその言葉を背に受け、右手に掴む水色の券片に刻まれたノリモンの名を頭に浮かべながら前へと進んだ。

 

(――力を貸してください、クシーさん!)

 

 チッキがラッチに触れる。黄色い光が僕を包み込んで、体が前に引っ張られる。

 次の瞬間、僕はラチ内へと入場していて、そしてその姿はラチ外でのそれとは大きく異なっていた。

 もともと黒かった髪の色は、西洋人の金髪とは明らかに異なる人間離れした黄色にかわり、ところどころ青いメッシュが走る。纏う衣装も、ポロシャツとチノパン、そして革の靴ではなく、黄色い全身タイツのようなものの上に、瑠璃色の機械のパーツのようなものが散りばめられている。

 そして、両手のグローブと鋼鉄の靴には大きく目立つ車輪。足元を見れば、僕はその車輪を線路に乗せて立っていた。

 

 そしてその変化は僕に限ったものではなかった。

 ラチ内で僕を待っていた早乙女さんは、全身を暗く落ち着いたシルバーのタキシード姿に。北澤さんは、オレンジの長い髪とロングスカートを靡かせ、その間のグレーで落ち着いたトップスとのコントラストが映える。逆に成岩さんは真っ白の白衣を外套のように纏いつつも、その内側の紺色のインナーにはところどころに黄緑色がアクセントとして目立つ。

 そして、最後に遅れて入場してきた佐倉さんは、北澤さんと似たような色遣いだ。大きく異なるのはボトムスで、真っ白なミニスカートが燃えるような赤のツインテールを一層引き立てて、アクティブな印象を見る者にあたえている。

 そして四人すべてが僕と同じように、車輪を持つ鋼鉄の靴に代表される機械的なパーツを身に着けているのだ。

 

 なるほど、これが。

 

「これが、トレイニング……!」

 

 そして、もうひとり。

 早乙女さんの奥にいるのは、黄色い体に瑠璃色のパーツ――つまりは、今の僕の姿と瓜二つ。

 トレイニングとは、ノリモンの力をその身に纏うこと。それゆえトレイニングしたノリモンと相似する姿へと変わるのは当然ともいえる。

 つまり、何が言いたいかというと……

 

「よろしくお願いします、クシーさん」

 

 いま、目の前にいるノリモンこそが、今まさに僕がトレイニングをしているノリモンであるクシーさんだということだ。

*1
ラッチの内側

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