――キュオオオーッ!
クィムガンは不思議な雄叫びを上げながら、長い腕を僕達の中に振り下ろす。ラッチの中であれば、普通に左右二手に分かれて避けるような攻撃であるが、今回はそれはできない。そんなことをしてしまえば、路面のアスファルトは抉れ、都市機能に影響が出てしまうからだ。いや、アスファルトで済むならまだいい。地中に埋まる水道管なんかが壊れてしまえば復旧は週単位だ。
なら、どうするか? 迎撃するしかない。路面電車が搬出されてラッチが張られるまでの間は、自分のシールドを守る、都市機能も守る、その両方を行わなくてはならない。それがトレイナーの仕事なのだから。
「俺様に任せな!」
真後ろから、1人のトレイナーが棍棒のようなものを携えて飛び上がった。彼がそれを振り上げれば、一回りも二周りも大きな触手のような腕の勢いを殺すほどの衝突を与える。
「見た目より軽いなお前! ハリボテかよ」
彼――タウルスロケットは、着地しながらそう吐き捨てる。重要な情報だ。軽いということは、攻撃を弾きやすいということだから。
現段階では必要以上にクィムガンを刺激すべきではない。下手に暴れられるとインフラに被害が出る。今行うべきは、クィムガンを逃さないようにすることと、ラッチを張れるよう時間稼ぎをすることだけ。クィムガンを倒すのは、ラッチを張った後でいい。それが無線を通じた短い作戦会議で出されて、すぐさま全会一致で採択された当面の作戦だ。
ならば。
「失われし星の輝きよ、果てしなくなつかしい大地に最後の煌きを! ポーラーエクリプス号、このトモオモテに宿れ」
今必要なのは、機動力と物理的な出力。《桜銀河》は気を引くため以外で使うべきじゃない。
トモとオモテを張り替えて、足元からナタを引き抜く。
地面にぶつかりそうな攻撃を、ナタで弾く。
逃げそうになったり、ヤバそうな攻撃をしてインフラを狙いそうになったりしたら《桜銀河》で気を引いて中断させる。
正直、これだけでも相当きつくて、クィムガンのシールドを、自分の色を狙って割りに行く余裕は意外にもあまりない。守るべきものが多すぎるというか、周囲にある固体は
それは、この場にいる皆が同じだった。普段はシールドを割るための剣が、刀が、槌が、拳が。全てが前後左右の他の物に攻撃が当たらぬよう身代わりとなって迎撃するためだけに使われる。よくクシーさんたちはこのラッチがない不埒な戦いでクィムガンのシールドを割りに行けてたな……。
これを何度か繰り返して。ようやく、中泉さんからの無線が入る。
『こちらドラコパレイユより、路面電車の搬出が終わったので、誘導ヨロタム』
「ウルサロケット、承知。誘導します。進路の確保をお願いします」
交差点へ伸びる線路を後ろ向きに走りながら、《桜銀河》をクィムガンに向けて打つ。ラッチの中に隔離してしまえば、あとはこっちのものだ。クィムガンはギギギと旋回して僕をロックオンすると、にわかに動き出そうとした。
『じれったいな! タウルスロケットよりドラコパレイユ、ウルサロケットへ。今からそっちに飛んでくぜ。《直通ホームラン》!』
無線を受けて《桜銀河》を止めれば、タウルスロケットの棍棒がクィムガンの後ろから直撃してそれを打ち飛ばすのが見えた。
そして、ぼとり。クィムガンは僕を飛び越えて、公会堂前の交差点のど真ん中へと落ちる。それを見た現地の人達の協力により、ようやくクィムガンはラッチに隔離されたのだった。
だけど、これはまだ終わった訳じゃない。
僕達24人は現地の人達と一旦ラッチの前に集まり、一度トレイニングを解いて再びの作戦会議を行なった。
ラッチを超えられないノリモンの方や、既にシールドを消耗してしまっている方を除いた8人。これをJRNの24人と加えた計32人がラッチを出たり入ったりしながら対応する。そして、JRN側もユニットがバラけているので、普段の出動の際の様式ではなく一般的に野良のトレイナーがたたかうやり方、つまりはユニット内の誰かのシールドが切れるまでではなく、ある程度削れた段階でラッチを出て交代してしまうという形での対応を行うことになった。
「じゃ、僕は後の方でお願いします」
「黄色が多くなってきたら次の交代でキミを呼ぶよ?」
「それならそれでいいです」
最初の10人が入場するのを見送る。そして、僕達は自分が呼ばれるまでの間、最初の方に駆けつけてきた方たちと長崎県警の方とを交えてもう一度このクィムガンの情報の共有をしてもらっていた。
このクィムガン、動きはするがその加速度は微妙で、レスポンスも遅い。攻撃は近接攻撃が主体ではあるが、連続して近接攻撃を仕掛けた際に一度だけ火炎放射を確認しているそうだ。
「でも、これだけ大勢が駆けつけてくれたので助かりましたよ」
「ぼく達はたまたま近くにいただけですから」
「それでも、あの人数じゃそのうちこっちのシールドが足りなくなって逃してしまうかもしれないのに、近くの路面電車のせいでラッチを張っていられませんでしたから」
話を聞けば、あの路面電車の中にはどうやら逃げ遅れた人がいたままの状態で、そこでラッチを張ると彼らもラッチの中に閉じ込めてしまうからこそ、それができていなかったのだという。恐ろしいね?
先程搬出した際に中の負傷者も救助されて、病院には運ばれたそうだが、命には別状がないことを祈るばかりだ。