しばらくラチ外で待っている間は、基本的には暇な時間だ。かと言って、離れる訳にもいかないので、その場では自然と雑談が始まった。ラチ内に入らない事を既に決めた者を交えて。
「もしかして、今のJRNじゃ基本ラッチの中での対応しかやってないのかい?」
そう聞いてきたのは、ラッチができるより前はJRNにいたという、ピエーデと名乗るノリモンだ。
「基本的に今日みたいにたまたまエリアメールが届く場所で出たとかじゃない限り、出動した時にはだいたい既に張られてますからね」
「なるほどね。本当に、色々変わっちゃったんだなぁ」
ピエーデさんは少し遠くを見つめている。
……せっかくだし、聞いておこうか。
「昔って、どうしてたんですか? 正直、都市機能を守りながら戦うのがこんなに大変だとは思ってもいませんでした」
「いや、守ってなかったよ? 人的被害さえなければ、物的被害は
えぇ……。
そりゃで昔の活動報告読んでても今と変わらない程度にはアクティブなはずだよ。
「だからさっきのを見て、衝撃を受けたね。今の子たちはこんなことまで気を遣わなきゃいけないんだって」
「ははは……」
ラッチって、凄いなぁ。方針を180度かえてでも導入する価値があったというのは、間違いなく本当のことだったんだろう。何せ「クィムガンを逃さない」「クィムガンの攻撃で設備を壊さない」「トレイナーの攻撃で設備を壊さない」と非常に高機能なのが明白なのだから。今まで逃さないのが一番の目的だと思っていたし、事実開発はその目的だったらしいとは聞いているけれど、副次的な効果が大きすぎる。
「そうだ、私からも1つ、質問いいかな? 全然関係ないことだけど」
「答えられることなら……」
「あ、機密とかじゃないよ。まだJRNにいるはずのきょうだいが気になってるだけ。連絡よこさなくてね、フィートって言うんだけど」
あっ。
連絡よこさないフィートのつくノリモン、微妙に心当たりがあるんだけど……。
というか、気がついてみればこの方の色使いとか意匠とか、店長そっくりだ。
「もしかして、あなたゲッコウピエードって名前だったりしません?」
「お、正解。じゃあ知ってるんだね? 元気?」
「まぁ、元気、かな……」
元気というか、うん。あの店長なら24時間365日元気が有り余ってるタイプだ。
たぶん工事終わるまでには戻ってくると思うんだけど、今は本当に連絡つかないし、そもそもどこにいるのか謎だが……。
「ならいいんだ。でも、たまには連絡するよう伝えてもらえる?」
「たぶん数ヶ月後とかになると思いますよ」
「大丈夫、こっちは年単位で音沙汰ないから」
何がどう大丈夫なのかはわからないけれど、とりあえず今度会ったら連絡するように伝えておこう。
それから次の話題を切り出そうとしたとき、無線で僕を呼ぶ声がした。
『ウルサロケットへ、ラッチまで速やかにお願いします』
「ウルサロケットより、向かいますどうぞ。……呼ばれたので、僕はもう行きます」
「がんばってね、ご安全に」
ラッチの前で伝達事項を聞く。どうもラチ内ではさっきまで上空から睨みを効かせていた航空系のノリモンが入ってこれなくなってしまったので、あの腕を器用に使って跳び上がって逃げるようになって、前衛メインだと対応が少しむずかしくなってきたんだと。
そして入場してクィムガンを見てみれば、シールドは確かに黄色の領域が増大しているが、それ以上に青が多いようにも見えた。
まぁ、青ならどうにかできるけど。トモオモテをポラリスにトレイニングすれば、《桜銀河》に何故かノーヴルの属性が載るから。
「こちらウルサロケット、入場しました」
『あっ、来てくれたね! ちょっと赤が多めでみんなトランジットしてたらこうなっちゃってね、見てわかる通りだけど頼むよ』
なるほどね、トランジットした側の攻撃じゃキールのは載らないもんね……。普通は逆じゃないかとは思うんだけど、どうしてこうなっているのやら。謎だ。
「アルファ側から打ちます、全員できれば射線を開けてもらえると助かります」
トランジットして力を溜めながら、前衛の動きが把握できるくらいにはクィムガンに寄っておく。
『ドラコパレイユより、退避完了、発射を許可』
「ウルサロケットより、承知。《桜銀河》」
走りながら打たれた手元から、桜色の光がクィムガンに伸びる。各々のシールドがどれほどの量残っているのかはわからないので、できれば長い時間当てていたい。
だけど、クィムガンも当然無抵抗ではなかった。この光線がこっちから出ていることに気がついたのか、長い腕を器用にもバネのように使ってこちらへと跳びかかり、そしてその腕を振り下ろして攻撃せんとしている。
なるほど、これがさっき聞いた跳躍か。
「掛かった! 《ハイブリッド・アクセラレーション》」
飛び上がってしまったと言うことは、よほどのことがない限り着地までの軌道が決定してしまうということ。僕は射角を上に上げながら、足元を爆発させてクィムガンの下をくぐり抜ける。
なんのためにここまで歩行射撃やブラインドランの練習をしてきたと思っているんだ。お互いの加速度から計算すれば、巨大なクィムガンの図体の、大きな黄色や青の領域に《桜銀河》を当て続けることなんてそんなに難しくもない。
しかも、このクィムガンは距離を稼ぐために高く跳び上がってしまった。重力下において、飛行能力がない場合は基本的には斜めに跳び立とうが、滑空時間、つまり動きを読むのが極めてかんたんな時間は上方向への初速度に比例する。このクィムガンは、無防備な時間を自分で作ってしまった訳だ。さっきまで航空系のノリモンがいたからこそやらなかったことを。
つまり、学習してもう二度としてこないかもしれない一度っきりのボーナスタイムだ。だけど、《桜銀河》にとってはそれで十分すぎた。
流石にイナバウアーめいたこの体勢で狙いを定め続けるのはしんどいので一旦《桜銀河》を止めれば、一番大きなシールドの色は緑へと変わっていた。