『やっぱり、えげつないね』
「僕は緑を処理できないので、後はパレイユのお二方任せますよ」
『はいよ。じゃ、期待のルーキーにかっこいいところを見せてやろうじゃないの』
中泉さんはそう無線で軽口を叩くと、僕の真横をクィムガンに向けて駆け抜けた。そして緑色の光をかすかに纏いながら、その手に持つ長槍をぶんぶんと振り回し、クィムガンのなぎ払いを跳躍で躱すと、その槍を一気にクィムガンにつきたてる! 一撃でけっこう削れているのは、残りが少ないのか、それとも中泉さんの一撃が相当重いのか。
他の前中衛や遊撃のトレイナー達も中泉さんに続いてクィムガンのシールドを削りにかかる。まだ青も広いし、僕も微力ながら前に行って削ったほうがいいだろうか。
そう思ったとき。
『全員下がって! 繰り返す、全員下がって! ラッチが近い人は出場を!』
打って変わって、緊迫した無線が入った。僕もそれに従って、逆転機を作動させて監視しながら後ろ向きに逃げる。
次の瞬間、急激にクィムガンが独楽のように回り始める。長い腕は遠心力でピンと伸ばされ、明らかに当たればただでは済まないが、幸いにも取り付けられている高さが高く、地面を走る分には当たることはないようで、みな無事にその外側まで逃げることがはできそうだが。
無線が、騒がしい。
『何が始まるんだ!?』
『見たくはなかった。だけど、さっき
『Sバーストだと!?』
Sバースト。それは、ノリモンが自らのシールドを能動的に破壊し、そこに蓄えられている力を使って強大な力を得るというもの。しかしながら、それは反動として当面の間のシールド展開能力の喪失を伴うため、こちらから能動的に使うことはほとんどない。逆にクィムガンが使うこともないわけではないけれど、残るシールドが少ないときに使っても大した力は出てこないし、そもそも仲間のいない闘いの中なら残りが多いときに使ったところでほぼほぼ決死のスーサイド戦略。やっぱり数年に1度しか国内での例はなく、対策を
そんな理論でしか聞いたことのない危険な攻撃が、今、ここで発されようとしているのだ。
どうすればいい? 近づくのはあまりにも危険だ。かと言って、逃げたところで無事に終わらない可能性だってある。
Sバーストで向こうのシールドが消えたところで、相手はクィムガンだ。Sバースト以外の攻撃はできるまま。一方、トレイナーのシールドが消えたら? トレイニングは解け、無防備な人間がそこにいるだけ。こうなれば、クィムガンに人間が勝てる訳がない。
『救援要請を!』
『莫迦言え、ラッチの内外では通信はできん。そもそもSバーストが一瞬で終わるという確証すらない以上、今出場していったトレイナーから外へと情報がもたらされたところで、すぐの入場は二次災害を引き起こす』
『じゃあどうすりゃいいんだよ!』
無線から絶望的な情報がもたらされる。
ラチ外へ出てSバーストの影響が届かない場所へと逃げるか、ラチ内でそれをやり過ごすか。出場まで、あと500m。
『ドラコパレイユより、出場が間に合う者は出場を、そうでない者は受け身の準備を! 判断は各自で、ぼくは残る』
ピキリ、ピキリ。
十二分に遠く離れている筈なのに、シールドの割れる前兆の音がはっきりと、しっかりと聞こえる。ラッチまでは間に合いそうもない。かといって、受け身なんて言われたって、どんな攻撃をしてくるかすらわからないのに取りようがない。どうすりゃいいんだ。
……待てよ?
シールドがないなら、
間に合ってくれ。そう願いながら、手の先に力を溜める。
シールドが割り切れてから、Sバーストが始まるまでに
パリン。クィムガンのシールドが、割れた。ここしかない。黄色を狙わなくていいのなら、巻き込みを警戒する程度の余裕ならある。
「間に合ってくれ、《桜銀河》ぁ!」
逃げるトレイナーは地面にいるはずなので、それを避けて少し斜め上に桜色の光を伸ばそうとする。それと同時に、クィムガンが爆ぜる。《桜銀河》を発射する。爆風が到達。続けて、大規模な噴炎が周囲に打ち出された。
じわじわと、シールドが削られている感触がする。間に合ってくれ。炎が届くよりも前に。
撃ち続ける。届け。届いているなら、止めを!
炎の壁が迫る。間に合ってくれ。
呑まれる。視界が真っ赤に染まり、その中を《桜銀河》の桜色だけが伸びている。シールドがゴリゴリと削られる。頼む。
シールドにヒビが入る。シールドが割れるときは、外側に向かってしか割れないから、この炎が過ぎるまではおそらく大丈夫。だけど! 神様、仏様、五元神様!
次の瞬間、僕の視界は色を失っていた。