目を開けば、僕はラチ内へと戻っていた。
何だったんだろう、今の……。
「な、な、な……」
声のした方を振り向けば、中泉さんが腰を抜かしてこちらを指さしている。
「どうかしましたか?」
「いやいやいやいや、どうかしたも何もないでしょ! ねぇ?」
いや、ねぇなんて言われても……。
ちょっとだけ意識がどっかに飛んで、戻ってきただけだし、なんなら彼の横には同じように気絶しているトレイナーが5名ほど横たわっている。
「いきなり
「……え?」
目の前に、現れた……?
もしかして。
「あの、僕ってさっきまでどうなってました?」
「知らないって、ここにいなかったんだから」
なるほど。
つまり、僕はどうやら意識だけ飛ばされたんじゃなくて、体ごとあのどこでもないゾーンに移動していて、それで戻ってきたと。
「一体、どういうこと……?」
「それはぼくが聞きたい。そもそも、どこ行ってたのさ」
「えっと、どこでもないゾーン?」
「なんだそりゃ。でも、とりあえずは無事でよかった」
中泉さん曰く、《桜銀河》が見えていたのに僕がラチ内にいないし、外に出てもいないようだったから心配していたのだという。
「心配かけてしまったみたいで、ごめんなさい」
「いや、謝らなくても。そもそもSバーストの兆候があった時点で心配にならないわけがないし。本っ当に、全員が無事で良かった」
出場しようにもトレイニングができないほど消耗してしまっていたので、同じような状況の中泉さんの隣に掛ける。それから2人で話しあって、件の『どこでもないゾーン』の話は警察へ出す報告書には書かずに済ませ、情報を一度JRNの、それも一部の中だけに留めて調査するということになった。わからないことが多すぎるからだ。それから無理のないカバーストーリーを軽く仕立て上げる。
しばらくして、トレイナーが数人ラッチコアへとやってきた。
「捜索の手伝いに……ん? ひぃふぅみぃ……、きちんと7人いるじゃねぇか」
「ごめんごめん、灯台もと暗しとはよく言ったもんだね、飛ばされて上に絡まってたみたいで」
「んなことあんのか……? まぁいい、全員いるならラッチ開けていいな?」
中泉さんと話をしたトレイナーは、残りのトレイナーをラッチコアに置いて出場し……そして、ラッチが開かれた。夏の風が顔を撫でる。
周りを見れば、野次馬がずらり。本当に中が見えないラッチなんか見て何が面白いんだろうね?
その後、気絶したままの5人をとりあえず救急搬送してから、対応に関わったノリモンやトレイナー全員で長崎駅脇の県警本部まで移動して事情聴取を受けながら報告書を仕上げる。JRN本部まで話が行って出動要請が出ているのなら後回しにできたんだけど、今回はエリアメールでの出動だからこのタイミングで行うきまりなのだ。
そしてそれが終わった頃には、もう日がだいぶ傾いてしまっていた。西彼杵半島の合宿所に戻れば、もう
「ただいま」
「お疲れ山根君。まさか合宿中に出てくるなんてね」
部屋に戻ると、4人は既に戻ってきていて僕をねぎらってくれた。どうもこっちに残されていたトレイナー達はみな、僕達が既に対応が終わっても――あのラッチの外側からSNSでライブ配信をしていた現地の一般人がいて、それを見ていたのだとか――、なかなか合宿所に戻ってこないので気が気ではなかったらしい。
「どうだった、今日の」
「端的に言って死ぬかと思いました」
「大袈裟な。シールドもあるのにか」
「Sバーストで一気に割られてしばらく気絶して、起きたら終わってたんですよね」
そう答えると、うってかわって部屋に静寂が訪れた。
「……すまん、発言は撤回だ。流石にそれは俺も死を覚悟する」
「よく、無事で戻ってきてくれた。本部から望むなら明日の担当を変えてもいいと連絡が来ているが、どうしたい?」
「いや、大丈夫です。あそこにいたトレイナーは全員怪我とかもないですし、僕だってその1人です」
「分かった。だが、仮に明日になって急に遅効性の何らかが効いてくる可能性は否定できない。その時は……」
「私が、出る」
佐倉さんが僕と早乙女さんの会話に割入った。
でもなぁ。
「心配しないでください、僕は大丈夫ですから」
「分かった。でも、無理なら言って。リーダーも、それでいいでしょ」
その時。僕のお腹がグゥと大きな音を立てた。8つの目線が突き刺さる。
「よく考えたら午前に出てからずーっと色々やってたからお昼も食べてないや……」
「うん、飯行くか。明日の話は後だ、リーダー。早くしないとこいつガス欠で倒れるぞ」
そうやって焦げ付きそうな話を強引に成岩さんに切ってもらって、僕達は夕食へと向かった。
★
『Sバーストの直後に行方不明。まるで、
「うむ。表向き誤認ということにしてあるが、コントロールを取っていたドラコの中泉君が言うに間違いはないだろう。私もまだ内容を確認できていないが、彼のeチッキ端末から動画と音声のデータの提供を受けているので共有する」
『それはそれは。こちらでも確認し、何か新しい事がわかり次第連絡を入れようぞ』
「いや、我々が新小平に戻ってから直接話を聞きたい。無論当事者を交えてな」
『拝承じゃよ、理事長』