ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

110 / 306
9レ前:第12種目・スワンボートレース

 夏合宿7日目。今日はなかなかにハードなスケジュールで、午前にはスワンボートレースが、午後にはリレーが入っている。午後のリレーは昨日のこともあって急遽5区制から4区制へと変わったから、一応そこで休みを貰おうとおもえば貰えるけど、そこの判断はスワンボートレースが終わってからだ。

 

「異変があったらすぐ言うように。まだ乗り換えは効く」

「昨日から何度も大丈夫だって言ってますよね?」

 

 大村湾の桟橋の上で、僕は早乙女さんと二人スワンボートを前にしている。このスワンボート、2人で操縦するのが前提のようで、1人がペダルを漕いで推進力を得て、もう1人がハンドルを回して舵を取るタイプだ。これは予選と決勝で役割を交代しなければいけないルールなので、僕は予選では舵、決勝ではプロペラを担当することになった。

 

「なるべく君に負担のかからないような作戦にするつもりだ」

「それはどういう」

「凪で波もないから、左に曲線半径150強で曲がり続ける」

「なるほど」

 

 ならばポラリスとのトレイニングだな。あの子の()()には、6軸センサがもともと取り付けてあって、今曲がっている曲線半径がリアルタイムではじき出されるようになっている。それを使えば、半径150mを維持するように舵を取りつづけるのはそれほど難しくはない。

 

 さて、このスワンボートレースのルールであるが、そんなに難しくない。300m離れて設置された2つのブイの周りを3周回る早さを競うだけだ。

 ただ、陸上競技と大きく違うのがスタートの形式だ。陸上競技では、スタートはスタートラインの前に停止してスタートの合図と共に動き出すのが一般的。だがこのスワンボートレースは違う。時計はスタートより前に動き出していて、定められたスタートのタイミングから1秒以内にスタートラインを越えることが要求されている。もちろん、所定のタイミングより早く超えてしまえばフライング、失格。遅れたら出遅れ、これも失格だ。

 

「この競技、考えられる2つある難所の片方がこのスタートだ。それを成功させるためには、自分の脚の生み出す加速度を正確に把握し、波や風の影響までもを考慮する必要がある」

「ちなみにもう1つの難所って」

「コーナリングだ。それを強引に解決するのが、先程君に伝えた作戦だよ」

 

 なるほど。なるほど?

 なんかおかしい気もするけど、とりあえずは早乙女さんの作戦に乗ってみよう。

 レース前に実際のコースを2周(はし)って、動きを確認した。とりあえずは早乙女さんに速度をいくつか出してもらって舵の感覚を掴む。

 

「感覚は掴めたか?」

「だいたいわかりました」

「OK、それじゃ戻ろう」

 

 それから一旦種目参加者全員が集まり、出る予選レースをくじ引きで決める。予選は最初の4レースで、1レースあたり6組が参加する。そしてその後に順位別に6レースの決勝ラウンド、という流れだ。

 くじ引きの結果、ウルサに充てられたのは第1レースの6号、つまり一番外側だ。早乙女さん曰く、この作戦を成功させるのにはベストとも言える配置らしい。実際のところルール上はもっと内側のコースを充てられても外に出ていくことに対するペナルティは1つもないけれど、スタート時にできる限り速度を出しておくためには一番最後のスタートになるここが一番いいのだという。

 

 再び桟橋に戻って、スワンボートに乗りこむ。それから6つのスワンボートが航りだして、レースコースの手前の待機スペースをぐるぐると回る。まだ時計は動いていないけれど、レースは既に始まっている。ここからスタートラインまでの距離とスタートまでの時間とを計算して、狙ったタイミングに狙った速度でスタートラインを越える。スワンボートにブレーキなんてものはないため、速度を出しすぎてしまったらフライングまっしぐら、かといって加速を緩めればスタート速度が遅くなる。だからこそ、ここの逆算が重要なのだ。

 

「前のスワンボートの動きを見ておくように。次にプロペラを回すのは君だ」

 

 今回は加減速に関しては早乙女さんに任せっきりで、僕は前を航る5隻のウェーキからずれないように舵を取っているだけだ。既に前の方ではできる限り内側のコースをとらんと競り合いが始まっている――ブイの横、スタートラインの150m手前にたどり着いた順でコースが決まるルールだ――けれど、そもそもインコースを攻めないので僕はそれを眺めているだけだ。

 そうして内枠争いが確定したあと、最も外側の僕達は最高の条件でスタートできるよう、スタートからかなり離れて加速のための距離を取る。ルールでは、スタート時に内側のスワンボートはそれより1つ内側のスワンボートとの距離が離れすぎると降着となるが、一番の外側であるコースにはそんなルールはない。ゆえに、一番()()()()()()()()()()()()()()()のがこの大外の6コースなのだ。

 

 スタート20秒前。目測で入るべき周回軌道をシミュレートして、スタートラインでの直線から最初のコーナーまで、緩和曲線を含めた各々の位置での曲線半径の推移を確認する。

 

「さぁ、行こうか」

 

 スタート10秒前。スタート地点へと向かって早乙女さんが漕ぎ出した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。