ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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10レ後:勝利宣言

 ブレーキを扱って、停まる。

 ふと前を見れば、同じように停止した松代さんが振り返ってこちらを見ていた。

 

 勝ったのか? 負けたのか? それが1番気になるけれど、周りを見ている余裕すらなかった僕にはそれを判断する術がなかった。

 少し息を整えてトレイニングを解くと、スッと目の前に手が伸びていた。

 

「いい走りだった」

 

 僕はその、彼女の手をとった。勝利宣言を疑いながら。

 だけど彼女は首を横に振った。どうやら彼女にも、どちらが先にゴールラインを超えたのかはわからなかったらしい。

 

「ただ前へ進むことしか、考えてなかったわ。だけど、2つ言えることがある。貴方の走りが素晴らしかったことと、この区間だけでいえば間違いなく私が疾かったってこと」

「それは……確かかもしれないですね」

 

 なんだ、この人も()()()()()()()()()()のか。一瞬だけ疑ったのが莫迦みたいだ。

 全体の勝利宣言ではない、変わった形の個別の勝利宣言。だけど、それは明らかなこともあり僕の中へとすっと気持ちよく入ってきて、そしてお腹の底に不思議な、ドロドロとした何かを渦巻かせた。

 

「でも、それならもっと疾くなるまでです」

 

 どうしてそんな事を口に出したのかは分からない。ただ、今にも爆発しそうなぐるぐると渦巻く感情、僕はそれを必死に押さえつけていた。

 そんな僕の顔を、松代さんはまじまじと見つめる。そして、

 

「楽しみにしてるわ」

 

 とだけ残して、レースコースの外側、他のドラコのユニットメンバーの待つ場所へと戻っていった。

 

 お腹の底が、苦しい。

 

 吐き出してしまえば、どれだけ楽なことだろうか。だけど、そうしてしまえば、同時に大切な何かまでもを吐き出してしまいそうな気がして。グッとこらえながら、ウルサのみんなの下へと戻る。

 

「お疲れ」

「おかえり」

 

 そんな声が僕に向けられているような気もしたけれど、それに返す言葉はネバネバとした腹の奥から切り離すことができない。喉までやってきたところで、ビヨンビヨンと腹の底へと引き戻されて、出てこないのだ。

 その様子を見かねたのだろうか、成岩さんが僕の背中をポンポンと叩いた。

 

「大丈夫か、山根? 酷い顔してるし、足どりもかなりふらついてるぞ」

「だ、じょ……」

「どこがだ、まともに声すら出せてねえじゃねえか。担架持ってくるから座ってろ」

 

 成岩さんは僕を強制的に地面へと座らせると、担架を取りにすっ飛んでいった。そこまで酷い顔をしているのだろうか? 気になって、検査用の手鏡を取り出して覗き込んだ。

 ……えっ、こんな酷い顔をしてるの、今? 眉間に皺を寄せ、歯を強く食いしばった、酷く歪んだ顔。それが映り込んでいた。そりゃあ、こんなに口元に力が入ってりゃ、声だって出ないはずだよ。

 落ち着かないと。そうして力を抜こうとすれば、腹はチリチリと精神を焦がすような炎を孕む。先にこれをどうにかしなければ。

 

 その頃、競技の方では全てのアンカーが到着して順位が確定したようだった。

 

「リーダー、手伝ってくれ」

 

 担架を運んできた成岩さんが頭を、早乙女さんが僕の足を持って、担架に横たえる。

 遠くで、リレーの結果が読み上げられて。結果は、1位がドラコで、ウルサは2位。それが耳に入った瞬間、耐えんと体中に入っていた力が()()()()()

 

「ごめ……な……」

 

 どくん。

 自分自身の脈動を、強く、強く感じる。

 そして、そこから先の記憶は途切れている。

 

 ★

 

「失礼しまーす」

「待っておったよ、忙しい中すまない」

「ここのところは進捗なくって暇で。むしろ忙しいのは博士の方じゃ?」

「君から話を聞きたいというのも、その忙しさのうちじゃよ」

「話を、ねぇ。長い間探求しているんならともかく、この程久保のような若僧の知っている事なんざ、博士は既に知っているはず」

「そうとも限らんよ。特に深く属人的な事項についてはの」

「属人的……?」

「そうじゃ。程久保君、今日私が君に聞きたいのは、()()()()()()()()()()()()のことじゃよ。君はよく知っておるじゃろう」

 

「……さて?」

「そのくらいは、既に調べがついておるよ。君と山根君、そして綾部君の3人組」

 

「……そこまで調べられてるのなら。でも、この場にいない人の話だから、内容によっては答えかねますよ」

「君も知りたいとは思わぬのか? 気づいておったじゃろう、彼の特異性にの」

「……」

「その沈黙は同意とみなしてよいのじゃな」

「……()()()()()()()()()()()()()()

「ほう?」

「少なくとも、彼の動力源はアクチンとミオシンには限定されていない。カルシウムイオンを放出し、それがトロポニンと結合し、そしてアクチンとミオシンが結合する……生物では普遍的なこの筋収縮のメカニズムで説明するには、反応速度が早すぎる」

「それは、どの程度の話なんじゃ? 失礼ながら人体についてはあまり詳しくないゆえ……」

「山根は自転車のペダルを1秒間に15回回した。ヒトがその動きを自発的にするには、対になった屈筋を別のタイミングで大きく収縮させなければならないが、その筋肉の収縮には()()()()()()()4()0()()()()を要する。後は単純な算数で無理だとわかるかと。彼は生物を超越している」

「して、なぜ」

「わからない。10代の少年が、友情を破壊せずにできるものは限られていたさ。だから、この測定結果より先は何一つ」

「そうか。……山根君はの、超次元の力を引き出す力に秀ておることがわかっておる」

「へぇ」

「気にはならぬか、超次元が」

「……保留かな。もう少し、ノリモンに明るくならないと答えは出せない。それに、彼は興味深い研究対象であると同時に、大切な友人でもあるんだ。過去に培った友情を壊したくはないからね」

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