夢見るように目が醒める。時計を見れば午前4時。その割には寝不足の感覚はなくって……あ。そうか。
「倒れちゃってたんだ、昨日……」
周りを見れば、4人ともぐっすりと眠っている。そりゃまぁこんな時間だし。
かといって。目を瞑っても眠れそうにはない。どうしようk……
どくん。
ふいに、心臓が脈打つ感覚を強く感じた。
どくんどくん。
それは、時を経るにつれて強くなってきて。
どくんどくん、どくんどくん、どくんどこん。
……おかしい。
この脈動の音を認知してから、なんだか無性に走りたくなってきて。
どこんどこん、どこんどごん、どごんどごん、どごんどどん、どどんどどん。
あたりを見回す。皆、まだ目が覚めるには早いだろう。
取り返しのつかないことになってしまいそうだから、ふたりのチッキはここにおいておこう。少し、この心臓がおさまるまで、
――どどん!
そう、自分の中で決めた瞬間、一度鼓動が高鳴ってから、嘘のように落ち着いた。だけど、動き出した僕はもう、止まらなかった。
夜間用の勝手口から外に出て、すぐに大地を強く踏みしめる。軽く時速30km程度の徐行で、昨日のリレーのコースを何周か。そうして走っているうちに、昨日感じたお腹の底の炎がまたチリチリと燃え始めるのを感じた。
だけど、不思議と嫌な感じはしない。昨日はあれほど不気味だった感触が、今は心地いいとすら感じる。
もっと、走りたい。
僕はこんなに、走るのが好きなヒトだっただろうか? 少なくとも、小中学校ではそうじゃなかった。走って身体を動かすより、裏山に入って木登りしたりだとか、そっちの系統で体を動かしていた。
だけど。今はなぜだか、どこまでも、どこまでも走っていきたい。そんな気分だ。
そうして無我夢中で走り続けて、たどり着いたのはけん引の行われた砂浜。道の続かないどん詰まりなのに、何故かそこに立ち寄りたくなったのだ。
砂の上では、砂に足が取られて走るのはやや難しい。だけど、数回ほど往復してコツを掴めば、それなりには走れるようになる。どんどんと速度が上がり、所要時間が目に見えて短縮されていくのが
僕は、そこに誰かがいた事に気づいた。まだ日の出ていない早朝で、その姿や顔はよく見えない。だけど、オッドアイめいて赤と緑に光る目が、暗闇にはっきり浮かんでいたのだ。
「そこにいるのはどなたで?」
そう呼びかけると、ぴかりとその人影はもう1つ、辺りを照らすための光を放った。そして、波をかき分けてこちらへとやってくる。
つまりは、船舶系のノリモンか、それとトレイニングしたトレイナーか。そのどちらかだ。
その人影は、波打ち際までやってきて上陸すると、赤と緑の舷灯を消した。
「これは失礼しました。妾はライスシャワァ、見てわかる通りの船のノリモンで、怪しい者ではございません。シャワアとお呼びください」
「これはご丁寧に。僕は山根真也といいます……じゃなくって、そもそもこんな時間に浜辺にいる時点で怪しいですからね」
「それは貴方も同じではないですか」
……ぐうの音も出ない。今の状況客観的に見たら僕も十分に怪しい。身分証とかがあるなら話は別だけど、今はもろもろ部屋に置いてきている。僕の身分を証明できるものは、今ここには何もないのだ。
「安心して。海の方には他のノリモンはいませんわ。少し話をしましょう、
「待って、わかるんですか」
「えぇ、貴方からは他のノリモンの力を感じますもの。でも、少し不思議」
「何がです」
「いえ、なんでもないわ」
シャワァさんはその言葉を残して黙り込んでしまった。
そう言われるとめちゃくちゃ気になるのが人の性ってやつだ。
「僕におかしなところでも?」
「……なるほどね、かわいそうに。まだ、気がついていないのね」
彼女はそう、意味深なことを続けた。
「それは一体、どういう……」
そう返したとき。シャワアさんの全身がにわかに緑色に光った。
今すぐ、この場を離れなきゃいけないと理性は訴えかけているけれど、なぜだか、目が離せない。
そして。彼女は僕の頭の上に左手を置いた。
「受け入れなさい。これは、祝福」
「祝福……」
「そう、祝福。これで貴方はもっと、
シャワアさんは2つ、鐘の音を鳴らした。
とくん、とくん。
まただ。あの感覚が全身に広がって。
なんだか、ぽかぽかとあったかくて気持ちがいい。
理性は危険だと訴えるけれど。それを覆い尽くすかのような心地よさが僕を包む。
どこからともなく、汽笛の音が聞こえる。そして、鉄輪の擦れる音が。
どどん。どどん。どどん。
それは少しずつ僕の脈動と重なってきて。
ばばん。ばばん。ばばん。
ついで、世界から音が消える。
「貴方に、我等が五元神の加護がありますように」