ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

116 / 306
11レ前:祝福

 夢見るように目が醒める。時計を見れば午前4時。その割には寝不足の感覚はなくって……あ。そうか。

 

「倒れちゃってたんだ、昨日……」

 

 周りを見れば、4人ともぐっすりと眠っている。そりゃまぁこんな時間だし。

 かといって。目を瞑っても眠れそうにはない。どうしようk……

 

 どくん。

 

 ふいに、心臓が脈打つ感覚を強く感じた。

 

 どくんどくん。

 

 それは、時を経るにつれて強くなってきて。

 

 どくんどくん、どくんどくん、どくんどこん。

 

 ……おかしい。

 この脈動の音を認知してから、なんだか無性に走りたくなってきて。

 

 どこんどこん、どこんどごん、どごんどごん、どごんどどん、どどんどどん。

 

 あたりを見回す。皆、まだ目が覚めるには早いだろう。

 取り返しのつかないことになってしまいそうだから、ふたりのチッキはここにおいておこう。少し、この心臓がおさまるまで、()()()()()()()()()()()()()()()だろう。浅はかな考えかもしれないけど、突き動かされた心は止められない。

 

 ――どどん!

 

 そう、自分の中で決めた瞬間、一度鼓動が高鳴ってから、嘘のように落ち着いた。だけど、動き出した僕はもう、止まらなかった。

 夜間用の勝手口から外に出て、すぐに大地を強く踏みしめる。軽く時速30km程度の徐行で、昨日のリレーのコースを何周か。そうして走っているうちに、昨日感じたお腹の底の炎がまたチリチリと燃え始めるのを感じた。

 だけど、不思議と嫌な感じはしない。昨日はあれほど不気味だった感触が、今は心地いいとすら感じる。

 

 もっと、走りたい。

 

 僕はこんなに、走るのが好きなヒトだっただろうか? 少なくとも、小中学校ではそうじゃなかった。走って身体を動かすより、裏山に入って木登りしたりだとか、そっちの系統で体を動かしていた。

 だけど。今はなぜだか、どこまでも、どこまでも走っていきたい。そんな気分だ。

 

 そうして無我夢中で走り続けて、たどり着いたのはけん引の行われた砂浜。道の続かないどん詰まりなのに、何故かそこに立ち寄りたくなったのだ。

 砂の上では、砂に足が取られて走るのはやや難しい。だけど、数回ほど往復してコツを掴めば、それなりには走れるようになる。どんどんと速度が上がり、所要時間が目に見えて短縮されていくのが()()()()()()()()()()。そうしてビーチの端から端までを数往復して、一息つこうと海の方を見たその時。

 

 僕は、そこに誰かがいた事に気づいた。まだ日の出ていない早朝で、その姿や顔はよく見えない。だけど、オッドアイめいて赤と緑に光る目が、暗闇にはっきり浮かんでいたのだ。

 

「そこにいるのはどなたで?」

 

 そう呼びかけると、ぴかりとその人影はもう1つ、辺りを照らすための光を放った。そして、波をかき分けてこちらへとやってくる。

 つまりは、船舶系のノリモンか、それとトレイニングしたトレイナーか。そのどちらかだ。

 その人影は、波打ち際までやってきて上陸すると、赤と緑の舷灯を消した。

 

「これは失礼しました。妾はライスシャワァ、見てわかる通りの船のノリモンで、怪しい者ではございません。シャワアとお呼びください」

「これはご丁寧に。僕は山根真也といいます……じゃなくって、そもそもこんな時間に浜辺にいる時点で怪しいですからね」

「それは貴方も同じではないですか」

 

 ……ぐうの音も出ない。今の状況客観的に見たら僕も十分に怪しい。身分証とかがあるなら話は別だけど、今はもろもろ部屋に置いてきている。僕の身分を証明できるものは、今ここには何もないのだ。

 

「安心して。海の方には他のノリモンはいませんわ。少し話をしましょう、()()()()()()()

「待って、わかるんですか」

「えぇ、貴方からは他のノリモンの力を感じますもの。でも、少し不思議」

「何がです」

「いえ、なんでもないわ」

 

 シャワァさんはその言葉を残して黙り込んでしまった。

 そう言われるとめちゃくちゃ気になるのが人の性ってやつだ。

 

「僕におかしなところでも?」

「……なるほどね、かわいそうに。まだ、気がついていないのね」

 

 彼女はそう、意味深なことを続けた。

 

「それは一体、どういう……」

 

 そう返したとき。シャワアさんの全身がにわかに緑色に光った。

 今すぐ、この場を離れなきゃいけないと理性は訴えかけているけれど、なぜだか、目が離せない。

 そして。彼女は僕の頭の上に左手を置いた。

 

「受け入れなさい。これは、祝福」

「祝福……」

「そう、祝福。これで貴方はもっと、()()()()()に近づける」

 

 シャワアさんは2つ、鐘の音を鳴らした。

 

 とくん、とくん。

 

 まただ。あの感覚が全身に広がって。

 なんだか、ぽかぽかとあったかくて気持ちがいい。

 理性は危険だと訴えるけれど。それを覆い尽くすかのような心地よさが僕を包む。

 

 どこからともなく、汽笛の音が聞こえる。そして、鉄輪の擦れる音が。

 

 どどん。どどん。どどん。

 

 それは少しずつ僕の脈動と重なってきて。

 

 ばばん。ばばん。ばばん。

 

 ついで、世界から音が消える。

 

「貴方に、我等が五元神の加護がありますように」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。