「ぁ……ぅぁ……ぁっ……」
布団の上で、ピクピクと痙攣しながら悶えているトレイナーが一人。
それが僕、山根真也だ。
「だいぶ、揉みごたえがあった」
そして真横で艶々としているのが僕をこの状態に持ちこんだ佐倉さんである。おのれ。
「疲労、負荷がなけりゃ気持ちいいだけ。痛みはない」
「そういうことだ。スクールの時からオーバーワークの傾向があったという話は北澤君から聞いていたが、ここまでとはな」
「きちんと休むことも覚えろよ」
「はい……」
そもそもこの調子じゃ今日いっぱいはまともに動けそうにすらないけれど。晩ごはんすら食べられるかすら怪しいし、昼は絶対に無理だ。せめてお風呂には入りたいけれど明日までお預けかなぁ……。
「救いはないのですか?」
「ありません!」
ドラド・ユニットのミーティングは、お通夜になっていた。
打倒ドラコを掲げて挑んだこの合宿。集合の種目こそ一番最初に長崎にたどり着けたはいいが、その後はもう一度も1位を取れていないどころか、2位すら片手で数えられる程度だけ。
2位に入る得点は1位のものの9割あるのに対し、3位には7割5分しか入らない。1位を逃して2位となるより、2位に入れずに3位まで落ちる方が痛い。
「マジでどーなってんだ、あのウルサとかいうユニット」
「去年は欠員出て不参加、一昨年は構成メンバーの怪我で直前の参加取消、一昨々年は出向ローテの都合で参加できず、その前の年も構成メンバーの療養で、前回の参加が5年前。圧倒的にデータが足りていません」
「そもそも5年前のメンバーから2人変わってる時点でそのデータ使い物にならんでしょ」
5人は再び頭を抱えた。これは悪夢だ。
しかも、仕入れることのできたデータの中には。新たに入った2人の詳細なデータはない。ドラド・ユニットの情報収集能力は、上から数えて5本の指に入る程。そんな彼らでさえ、新人2人のデータを得られなかったのである。それはなぜか。
それはその2人がまだJRNに所属して2年目の新人であり、そもそもデータ自体が無いためだ。存在しないデータを入手できる者など、この世界にいるはずもない。
そして、それはさらなる悪夢を示唆していた。即ち、来年度以降である。
現状ウルサの成績はボラリティが高い。圧倒的な結果で1位となっているものもあれば、失格でそもそも点の入らなかった種目もある。だが、これは新人を2人も抱えている現状での話だ。新人とは、成長の速度が一番早いものなのだ。
「来年以降は、今年みたいにドラコとウルサを両方後半組には入れてほしくないねぇ」
「そうなったらどれだけ頑張っても3位争い確定。救いはないのですか?」
「ありません」
「強いて言えば、この2ユニットのいない前半組は天国だったろうな」
「そっちにゃペガススとかいるよ?」
5人は再び顔を見合わせ、口を閉じる。
そして、同時に同じ結論へと至った。
今回は諦めて、小平に戻ったら全部見直して、このユニットを改革しよう。そして、強くなろう、と。
大村湾、長崎空港、ビジネスラウンジアザレア。
シャワァは上機嫌でタブレット端末を操作し、文書を仕上げていた。
(乙女ノ鼻でトシマ号と偶然まみえたのは幸運でした。現時点では協力を求めることはできなさそうなのは残念でしたが、動きだして理想論ではない、現実に実現できるものであると理解いただければ可能性はまだあるでしょう)
彼女はコップの中の飲み物を飲み干して一息入れると、ドリンクバーへ補充に向かう。
そして戻ってまた、端末へと視線を戻した。
(そして、
その時のことを振り返りながら、シャワァは文字を打ち続ける。
(本人へのリスクの説明は済ませましたし、その同意も得ておりましたけれど、決して気持ちのいいものではありませんね。それに、あの
『……大阪神戸空港行き142便、東京羽田空港行き442便をご利用の方に……』
(ですが、今朝方に彼の痕跡を追って、彼を見納めとしたかのトレイナーと出会えたのは幸運でした。ノリモンの幸福には、優秀なトレイナーの存在が不可欠。彼もまた、
『……11時30分発、大阪神戸空港行き142便、東京羽田空港行き442便は、まもなく保安検査の締切時刻となります』
「あら、もうそんな時間でしたか。向かいませんと」
そして彼女はタブレット端末をしまうと、足早に保安検査場へと消えていったのだった。