「では、私達は競技へと参加してくる」
「行ってら」
翌日。競技へと参加する早乙女さんたちを僕と監視役の成岩さんは見送った。今朝は目覚めたらあの激痛が嘘のように引いて、体が軽くなっているので、観戦するくらいなら大丈夫だと思うんだけどなぁ。
「あの、成岩さん」
「駄目に決まってんだろ」
「まだ何も言ってませんが」
「言わなくてもだいたいわかったぞ」
やっぱりだめかぁ……。
「じゃお、せめてお風呂には行かせてください。昨日も一昨日も入れてないので」
「……まぁ、それくらいなら大丈夫か」
……よし。
まぁ、風呂に入ると言ってももちろんただのんびりするだけではないのだが。
「もちろんついていくからな?」
「はい……」
そりゃそうか。まぁ、そんなに動きのあることをするつもりはないし怒られはしないだろう。
この研修施設の大浴場は3つある。そのうち1つを掃除等に回して、男女双方が24時間いつでも使えるようにしてあるのだ。どうしてこうなっているかといえば、怪我をしたトレイナーやノリモンのリハビリ施設を兼ねているからだ。
だからこそ、大浴場と言ってもそれ用の設備があったりするのだ、が。
「なんとなくそんな気はしてたが、そっちに行くな」
「えー」
「えーじゃねえ。リハビリは休養が終わったあとだ」
という訳で普通の浴槽以外は入らせてもらえなかった。
だけど、まだある。風呂といえどここは水中には変わらない。当然全方向からの水圧だってかかるし、身体の動かし方だって陸上とは違う。つまり、風呂に入っているだけで僅かながら負荷をかけることは実は難しくない。
今も、普通に湯船に浸かっているように見せかけて、実は浴槽の底面に手をついて足腰を浮かせ、その中でゆらゆらゆっくりと動かしている訳だ。
そうして2時間弱ほど体を温めて、僕はお風呂から上がった。
本当はもう少し入っていたかったし、僕は特に何も問題はなかったんだけど……。
「うー」
「なんで貴方がのぼせてるんですか……」
「大人しくしてたとはいえ、お前のせいだぞ」
監視員がこうなってしまったので、上がらざるを得なかったのだ。
「だったら浴槽から待ってりゃ良かったじゃないですか」
「それはそれで寒いだろ」
「じゃあ脱衣所で」
「したらリハビリの方行くだろお前」
「……ちぇ」
「ちぇじゃないが。……少ししたら部屋戻るぞ」
「おぶって運びましょうか?」
「お前なんで今日監視ついてるかわかってる?」
結局30分ほど脱衣所でぼんやりしてから部屋に戻った。
そして暇つぶし用に鞄に入れていた薄い本を読んでゴロゴロしてたときの事だった。
「……なぁ山根」
「なんです?」
「お前のとこには、
メッセージ?
一瞬なんの事かわからなかったが、脳の中で線が繋がってすぐに端末を取り出し、開く。
うわ、風呂入っている間にポラリスから27件も来てる……。
「ポラリスから、27……あ、今また来た」
どれも似たような要件で、コダマさんから至急成岩さんへと連絡がほしい旨を伝えてほしいというものだ。
とりあえずいま横に成岩さんが隣にいる旨を返信すれば、すぐにボイスチャットがかかってきた。
「もしもし、ポラリス?」
『あっ! 繋がった! コダマおじちゃん、真也に電話繋がったよ!』
ボイスチャットの向こうでは何やらゴソゴソとしている物音が聞こえる。
……何か、あったのだろうか? 成岩さんにも聞こえるよう、スピーカーホンに切り替えて端末を部屋の机の上に置く。
「何が起きたんですかね?」
「ん、お前のとこには詳細は来てないのか?」
「いや、成岩さんに伝えてほしいとだけ」
「そうか。これ、コダマ号から送られてきたネットニュースだ」
そう言うと成岩さんは彼の端末の画面をこちらに突き出した。どれどれ、『Innovatech(JPN) Was First to Arrive in George Stephenson Cup, From Crewe to Doncaster』……。
要するに、ベーテクさんがイギリスで開かれていたレールレースで優勝したという記事だ。ページの中には、いつものラチ内での格好でドンカスター駅に進入するベーテクさんの写真が添えられていた。
「何やってんのあのひと……」
「いや本当、何してんだあいつ」
『もしもし? こちらコダマですわ。合宿中、突然の連絡になって失礼』
「もしもし、こちら成岩。先程まで端末を操作できない状況にあったが、今状況を把握した」
事の次第はこうだ。
ベーテクさんとアドパスさんが渡英した。そして、レースに参加して勝った。以上。これがコダマさんの把握している状況だ。
「そっちもそれ以上情報無いのか……」
『ということは、そちらもです?』
「寝耳に水だ、完全に! 待ってろ今ベーテクに電話する」
「9時間の時差があるから向こうは深夜ですよ」
「知るかボケ」
そう言って半分慌てながら成岩さんはボイスチャットをかけた。
当然、出るわけがない。
「寝てんのか、アイツ?」
「だから向こうは深夜」
『……私が言えたことではないですが、まずは落ち着いて欲しいですわ』
聞けば、この情報がもたらされた時のコダマさんとクミさんとも似たような状況だったようで、つながるはずもない音声通話を試みていたらしい。
「ん? ちょっと待て、コダマ号が自分でこのニュース仕入れたんじゃなくて、誰かから聞いたように聞こえるんだが」
『その通りですわ』
「誰から?」
『ちょうどここに居るので代わります』
『俺だ』
……えっ。
この声は。あまりレールレースには詳しくはない僕ですら知っている、伝説のノリモン。
「まさか、
『そう、