それからしばらく。他のトレイナーがバンバン近接戦闘をしている中、僕(とドラコのバランスのトレイナー)は隙を見ては少しずつ《桜銀河》を打ち込んでいた。
が、なかなかクィムガンのシールドが割れない。どころか、入る前にグルスの人から聞いた通り、どの派閥の攻撃をしてもシールドの比率が微動だにしない。
『こちらドラコノーヴル、バッテリー電圧降下につきまもなく活動の継続が難しくなる見込』
そうこうしているうちにこのような悲鳴に近い無線が入ってくる始末。もっとも、最初っからラチ内を駆け回っていたのだからいつかはこうなるのはわかっていたことであるが。
『ドラコロケットより、承知。ウルサバランスへ、ドラコの出場に伴い総指揮を移管したく、どうぞ』
『ウルサバランスより、これより私が指揮を執る。ラチ外への伝達事項があればどうぞ』
そしてドラコ・ユニットの人たちは、戦況管理のために1人を残して申し訳なさそうに出場していった。
そしてすぐさま、こんどはカンケル・ユニットの残る4人が入場してくる。
『カンケルサイクロよりウルサバランスへ、当ユニット全員到着、どうぞ』
『こちらウルサバランス、聞いてるとは思うが非常に硬く未だ撃破見込立たずだ』
『カンケルサイクロより、承知』
とまぁ、来てくれたのはいいのだが。
悲劇が起こるまで、時間はかからなかったのだ。
それは騒がしい無線を聞き流しながら、側面から《桜銀河》を打っていたときのことだった。
『あの莫迦行きやがった! 山根! 今すぐ止めてくれ!』
「へぇっ!?」
突然、それもコールサインではなく名前で呼ばれて驚いた僕の目の前に現れたのは、なぜか高速で《桜銀河》に突っ込んでくる人の姿。
なんで? と理解をする間もなく彼は桜色の光に飲み込まれてしまう。
急いで止めたところで、もうそれがヒヤリ・ハットではなくインシデントになってしまった事実は変わることがない。
「こちらウルサロケット、今突っ込んできたの誰ですか? どうぞ」
猛烈に嫌な予感がする。
震える声で無線を入れながら、僕は倒れて動かなくなったその人に近寄る。
『カンケルサイクロよりウルサロケットへ、カンケルノーヴルの莫迦がすみません』
そして……嫌な予感というのは、往々にして的中するものである。
そこで倒れていたカンケルノーヴルは、トレイニングが解けていたのだ。
「こちらウルサロケット。カンケルノーヴルのトレイニングは解除されています。目立つ外傷はありません」
トレイニングが解除されている状態では、単独でラッチをくぐることはできないし、線路を走ることもできない。そして何より、シールドがない。
トレイナーの纏うシールドは、ノリモンのそれとは違ってどの派閥の攻撃でも削れる無色のものだ。とはいえど、腐ってもシールドはシールドなので、あれば物理的なダメージはほぼ通さないし、怪我だってすることは滅多にない。だからこそこうやってトレイナーが直接クィムガンと戦いにラッチをくぐるという端から見れば危険極まりない解決法が行われているのだ。
では、その前提が崩れたとしたら?
『こちらウルサバランスよりウルサロケットへ。落ち着いて。カンケルロケットがそちらに向かった』
シールドに守られていない丸裸の人間は、あまりにも弱すぎる。だからこそ、クィムガンによる一般人への被害を抑えるためにラッチが開発された。ラッチとは、言うなれば一種の牢獄なのだ。そしてそのラッチの中で丸裸の状態であるということが、何を意味するのか。
幸いにもクィムガンは近接戦闘をする他のトレイナーに意識が向いているのか、この誤射にも、そしてシールドの無い人間がいることにすらまだ気づいていないようだ。だがこの誤射がその近接戦闘グループの中で発生したら? いわゆる重大インシデントと呼称される事象が間違いなく発生したに違いない。
「どうも、カンケルロケットです。迷惑かけたうちの莫迦を回収しにきました」
「ウルサロケットです。謝らなきゃいけないのは巻き込んだ僕の方ですよ」
「いや、どう考えてもこの莫迦が前を見ずに走って動かないビームに突っ込んだだけだから……よっと」
そう言うと彼女は倒れている彼の体を蹴り上げて、そのまま肩に担いだ。
「あの、無線でも言ったと思うんだけど……」
「大丈夫、こいつ頑丈だから」
そして彼女はそのまま去っていった。
無線からは、カンケルが早くも離脱してかわりに次のプッピスが入場してくる旨の話が聞こえる。
『こちらウルサバランスよりウルサロケットへ。君の事だろうから落ち込んでいるだろうが、帰ってヒヤリ・ハットの報告書を作る時には前で何があったかは全て話すから、今は気持ちを切り替えてほしい』
「これインシデントじゃないんですか……」
『怪我はしていなさそうだからな』
怪我さえしてなければ思いっきり直撃していてもインシデントにならないらしい。
それもそれでなんだかなぁと思いつつも、僕はこのやりきれない気持ちをぐっとこらえてクィムガンの方へと向き直した。