ヒカリエターナル号。
彼は、日本での黎明期のレールレース界における絶対的なヒーローとして君臨し、日本中を沸かせてレールレースのブームを引き起こした張本人である。
国内でのレールレースでの歴史は浅い。国鉄時代こそ、日中に使わない山手線の浜松町から西日暮里の区間で細々と行われてはいたが、現在のように大々的に、列車を運休してまで行うようになったのはラッチの開発によりノリモンの多くが暇になって以降だ。
それが今や、わずか20年ほどで誰もが認める一流のエンターテインメントまで上り詰めた。その過程において、彼の功績は非常に大きいといえる。
そして彼は、勝ち続ける傍らである程度のランナーが集まってくると
「それで、ヒカリエターナル号。どうして俺等に接触を?」
『単純なことよ。事前に話はあったのかという点の確認だ』
彼は現在は、レールレース界の裏方に回って普段は鉄道会社との交渉やメディア対応、優秀なノリモンのスカウトなどを行っているらしい。
そんな彼の下に今朝方突然べーテクさんの勝利の知らせが届き、急遽事情を知っていそうなコダマさんを経由して連絡を試みたのだという。
「前振りなんてなかったからこっちも驚いてるんだが? なぁ山根?」
「突然話を振らないでくださいよ……。まぁ、確かに聞いていたわけじゃないですね。怪しい文書自体はアドパスさんからありましたけど、あの文面でこれを予想するのは流石に無理が……」
たしか『これからも、驚かせることがあるかもしれません』とは書かれてはいたんだよね。こんなことになるとは思ってもいなかったけど。
「あったか? そんなの」
「いや来る最中バスの中で笑ってたじゃないですか」
「あっアレか……」
『なんだ? 心当たりがあるのか』
「ポラリス、聞こえてるんだろ? この前のグループチャットにアドパスから来てた奴見せてやって」
『はーい』
それからしばらく、音声は途切れて。
『確認したい、このアドパスというのはまさかだ、かのAdvanced Passenger号ではあるまいな?』
『そうであると言いましたら?』
『だとすれば、突然の出走にも納得がいく。彼女は英国レールレース界の伝説、多少の無理は効くはずだ。だが、なぜJRNにいる?』
「待て、どういう事だ? 俺達はアドパスがJRNに入る前のことは余り知らねぇが、帝王は知っているのか」
『知っているも何も、彼女は同じレールの上で先着を争ったことのある戦友にして、鉄道発祥の地にしてレールレースのメッカたる英国レールレース界における伝説よ』
ヒカリエターナル号によれば、アドパスさんは30年ほど前に英国レールレースのクラシック6冠――クラシック6路線、つまりECML、WCML、GEML、GWML、MMLの5大本線とクロスカントリーで行われる格の高いレースを全て勝つことだ――を史上初めて達成しただけでなく、うちRoyal Scot CupとFlying Scotsman Cupで叩き出した大会レコードは、今尚破られていない伝説の記録として残り続けているのだとか。そんなすごい記録持ってたの……。
『その反応を見るに、そこのイノベイテック号のパートナーたるトレイナーすらそれを知らなかったようだな。どういうことだ、コダマ』
『まずは落ち着いてくださいよ、ヒカリエターナル。状況を飲めていないポラリスや成岩らにもわかるよう話しますから。ただ、こっちの3人とそちら側の2人だけの秘密で、口外は無用でお願いしますわ』
コダマさん曰く。
アドパスさんことAdvanced Passenger号は、かつて世界を飛び回りながら各国の国際レースを荒らし回りながら、その足で彼女の生まれ故郷の復興のために動いていた。そんな中で黎明期の日本のレースに参加して、このヒカリエターナル号に負けたのがきっかけで日本国内のノリモンにまで興味をもち、接触したコダマさんとの間でトントン拍子で話が纏まったのだという。
『その時に、レーサーとしての自分を隠したいとの要望があったのですわ。それでずっと私はアドパスと呼びつづけ、過去の話があったときはわざわざどこの国とは言わずに国鉄の崩壊で放浪、というストーリーを話す、という合意になっていたんです』
「なぁ、1ついいか。って事は、だ。べーテクをミッドランドに呼んだのは……」
『ご想像の通りアドパスですわ』
……なるほど、だいたい話は読めてきた。
つまり今回の騒動って。
「全部アドパスさんのせい、って事ですかね」
「奇遇だな、俺も同じ結論に至った」
『この詳細を聞けば、誰が考えてもそうなるだろう』
『だけど出走したべーテクもべーテクですわ』
結局、向こうが朝になるのを待ってラボのグループチャットでボイスチャットで直接話を聞く。それが一旦まとまった結論だった。
……にしても。
「べーテクさんもアドパスさんもそんな速いノリモンだったんですね……」
「一応俺はべーテクがJRNに入る直前、コダマ号が接触するきっかけになったレースの話は聞いてたが、アドパスについては初耳だぞ、ガチで」
「そもそもふたりよりポラリスの方が速……」
「おい莫迦帝王に聞かれたら……」
『……ほう?』
あ。
なんか漏らしてはいけない情報を漏らしてはいけない者に漏らしてしまった気がする。
『ポラリス、と言ったな? 君、走るのは好きかい?』
『うん!』
『そうかそうか。ならば……』
「山根、この件についてはお前が責任持てよ」
「これも全部アドパスさんのせいです」
「ちげえよ」
ボイスチャットの向こうでは、ヒカリエターナルさんが急速に外堀を埋めていく様子が聞こえる。
やってしまったなぁ、これ……。