ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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12レ後:帝王

 16時。べーテクさんのラボのグループチャットで、再びボイスチャットが始まった。

 

『おはようございマース!』

「おはようじゃないんだわ、こっち夕方だ」

「いや問題はそこじゃないですよね……」

 

 こっちの気持ちを知らないでか、ものすごく元気にアドパスさんが通話に応じた。

 本当にこのひと……。

 

「なぁアドパス。一つ聞くぞ。1435mm……いいや、違うな、こうしよう。4フィート8と2分の1インチ、線路をこの幅に設定したのは誰だ」

『あっ、見つかってしまいマシタか』

「コダマ号にタレコミがあってな、その人今ポラリスと一緒にいるんだが」

『この俺だ。覚えているだろう、Advanced Passenger』

『アイーッ!? 帝王(キング)!? 帝王ナンデ!?』

『「なんで」ではないが?』

 

 ……この口論、冷静に考えるとすごい贅沢な口論だなぁ。なんて言ったって片やイギリス最強、片や日本最強のレールレーサーの口論だもの。

 っていうか当のべーテクさんがなかなかチャットに出てこないんだけど……?

 

『要件はわかっているな? そこにイノベイテック号もいるのだろう?』

『……はい、ご無沙汰してます、ヒカリエターナル号』

『おお、久しいな。まずは勝者に祝福を、おめでとう、イノベイテック号』

 

 ヒカリエターナルさんはそう祝辞を述べた。こういうところはきっちりやるんだな……。

 

『あぁ、ありがとう……。もちろん、それだけを言いに来たわけじゃないんだよね』

『無論』

『まず言い訳していいかな? 僕だってねぇ、いきなりゼッケン渡されて、「君のぶんのきっぷはないけどドンカスターまで来てね」って言われて困惑してたんだよ』

「だからって1着とるこたぁねえだろ」

『気がついたら先頭を走ってたんだよねぇ』

 

 そんなことある?

 

「まぁいい、安心しろべーテク。こっちじゃ状況から()()()()()()()()()()()という話になっているが、間違いはないな?」

『いや全くもってその通りだよ』

『皆さんひどいデース、ミーが何したっていうんデスか?』

 

 いや、どの口がそれを言ってるんですかね。

 

「「『『『全部』』』」」

『国際レースで輝かしい成績を残すことは素晴らしい。だが、日本勢がそうする度に何かしらの声明を出さねばならないこちらの身にもなるがいい。これから文面を考えねばならんのだぞ! 貴様が彼をレースに出すと決めた段階で協会に連絡の一本でもよこしていれば、このようなことをする必要もなかったものを』

「連絡一本入れとくだけでいいんだ……」

「キレてたのそこかよ」

 

 いやまぁ、確かに日本のレールレースを監督する団体が、海外での栄光について言及しないわけにはいかないんだろうけどさ。

 なんか思ってたよりもけっこうしょうもない理由だった……。そもそもレースに出たこと自体を怒っているのかと思っていたけど、どうやらそこは問題ではなかったらしい。

 

『聞いておくぞ、アドパスよ。貴様一度はまた来日するのだろう?』

『えぇ、JRNにはお世話になりっぱなしデスから』

『ならばコダマ号。彼女が戻ってき次第、俺への連絡を依頼したい』

『頼まれましたわ』

『公式のレースではなく催し程度のものではあるが、日本の鉄道で()()()()()()()()()、Advanced Passenger! 勿論、強者たる貴様であれば逃げるという選択肢は取らないはずだ』

 

 ……えっ。

 なんかとんでもないイベントの実施が目の前で決まっているんですが。これ、下手しなくても『夢の対決再び!』とか囃し立てられたりするやつでは? 一部界隈がお祭り騒ぎになる気しかしない。

 大丈夫? 死人とか出ない?

 

『……わかりマシた。新小平に戻った暁には、その挑戦状、受けてたちマショウ』

『良い返事だ。それから、イノベイテック号』

『はい』

『先程貴様の妹分だというポラリスの走りを見させてもらった。()()()()()()()()()?』

 

 あっ。

 その発言が聞こえるや否や、成岩さんは僕の方を向いた。口を滑らせちゃったのは悪かったって思ってるって。

 そして少しの沈黙を挟んで、ボイスチャットから本人の声が聞こえた。

 

『お兄ちゃん。ポラリスね、みんなの前で走ってみたい。ポラリスの走りを、みんなに見てもらいたい。そして、これがポラリスなんだって、知ってもらいたい。車のとき、できなかったデビューランをしてみたい。ダメかな?』

 

 そうだった。ポラリスは、走りたいんだ。その事自体は知っていたけれど、どうやって走らせてあげるべきかは僕はよく分からなかった。

 その1つの答えが、もしかしたらレールレースなのかもしれない。ならば、僕にはそれを止める権利はない。

 そしてそれは、べーテクさんも同じだったのだろう。

 

『わかった。ポラリスがそう言うならね、僕は何も言わないよ』

『……! やったー!』

 

 ボイスチャットの向こうから、大はしゃぎするポラリスの声が聞こえる。余程嬉しかったのだろうか。

 だったら、僕も少し明るくならないといけないな。現状、僕が唯一の彼女とトレイニングできるトレイナーなのだから、支えるという面では大きな役割がある。

 

『でも、僕の懸念事項は共有しておくよ。()()()()西()が何と言うか』

『フン、そんなもの、実力を見せつけて()()()()()しまえばいい』

『前者は、きちんと話せばまだわかってもらえるからいいよ。怖いのは、後者だよ。僕がメガループを走った時も奴等はだいぶ好き勝手書いてくれた。それが嫌で貴方からの誘いを断る程度にはね。そんな奴等を黙らせられると、本気で考えているのかい』

『愚問だな。何故かわかるか』

帝王だからかい?』

『そうだ、帝王だからだ』

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