「負けました」
ユニットに戻って、憂鬱になりながら正直に結果を報告する。
「そうか。お疲れ」
「どんまい。じゃ、次私だから行ってくる」
……あれ。もっと厳しい言葉が戻ってくるかと思っていたのに。
意外にも、淡々と結果は受け入れられて、それっきり。佐倉さんに至ってはすぐに入れ替わりにラッチへと向かっていった。
かのじょを目線で追いかければ、向こうのユニットから出てきたのは氷川さん。2人はラッチへと入場して、おそらくまもなく中でデュエルが始まった。
「今回俺の出番は持ち越されそうだな」
「ですね、ごめんなさい」
「なぜ謝る。ドラコが強かった、それだけだ。現場ならともかく、模擬戦なんてのは負けてナンボだろ。俺だって、模擬戦で負けたからこそ今の俺がある」
「でも」
「じゃあ何だ、お前は負けた戦いからは何も得られないとでも言うのか? それとも、お前はもう既にドラコの鮫島よりも、勝って当然と言えるほど強いとでも言うのか? どっちもんなこたぁねえだろ」
まぁそうなんだけど。なんというか、モヤモヤするんだよなぁ。
そう悩んでいると、成岩さんは思いもよらぬ言葉を投げかけてきた。
「なるほどな、ここ数日、お前が数回
「傲慢、ですか」
「傲慢だろ。勝てない自分に価値が無いなんて考えるのは傲慢以外の何物でもねえよ。それはナチュラルに相手が勝てるわけがないと言っているようなものだ」
成岩さんはそうはっきりと僕に言葉を投げかけた。
言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。
「確かに、言われてみれば僕の発言は相手に対する敬意を欠いているようなもの」
「わかってんならやめろや」
「でも、僕はならなきゃいけないんです、日本一のトレイナーに。そのためにはやはり負けなんて極力」
少ないほうがいい。そう言おうとしたところで、僕は成岩さんに止められた。
「よし判った。俺はどうやらお前を勘違いしていたみたいだ。確認したい、努力は必ず報われると思うか?」
「やり方を間違えなければ、必ず」
「なら、努力が実を結ばなかった場合、その原因は?」
「努力の方向が間違っていたんだと思います。今まで全部そうでしたから」
……何を当たり前のことを聞いてくるんだろう。
今まで努力で何度も報われてきた。スクールに入るのだって、スクールに入った後も、そしてJRNに入るのも。何度か失敗は経験しているけれど、それは全部そこへ至るプロセスに致命的なミスがあったことが後でわかっている。だからこそ、同じミスは許されない。
そう伝えると、成岩さんは納得したように何度も何度も相槌を返した。
「なるほどな、お前は
……何をどう解釈されたのかはよく分からないけれど、成岩さんは一人で納得している。
傲慢さが、才能……?
「あの」
「お、ラッチが光った。終わったようだな」
結局それ以上は成岩さんは教えてくれなかった。言ったらお前がお前じゃなくなる、だとか。よく分からん。
そして促されるままにラッチを見れば、氷川さんがラッチを開けているところだった。ということは、勝ったのは彼で、佐倉さんは負けた。つまり、これでウルサの負けが確定してしまった訳だ。
少しして、トレイニングを解いた佐倉さんが戻ってきた。
「負けた。完敗」
「まぁしゃーねえな。相手が悪かった」
「ん、切り替えてこ」
……確かに、この切り替えの速さは見習うべきなのかもしれないな。
そう考えていると、彼女は僕にも声をかけてきた。
「山根も、お疲れ」
「お疲れさまです。……1つ聞いていいですか」
「何?」
「負けたのに、どうしてそんなにすぐ切り替えられるんですか」
「まだ競技は終わってない。これから3位決定戦。君にとって、
「……!」
「それに」
負けたことを悔やむなら、次にどうするか考えるべき。そう続いた佐倉さんの言葉は、なぜだかとても重く、言葉を返せなかった。
「最近、おかしい」
「そっとしといてやれ、佐倉。アイツここのところようやく乗り越えるべき壁にぶち当たることができたんだ」
「なるほど。……もしかして、リレーの後に倒れたのって」
「そういうことだろうよ、だから俺もそこまで心配してない。これで折れるような奴じゃないさ」
色々なことばが、頭の中を駆け回る。すぐ近くで話しているはずの2人の声が、どこか遠くでおこなわれているかのように感じられる。
僕は一体、どうすればいいんだろう?
そもそも、僕って何者?
全ての第4試合が終わり、3位決定戦の相手が完全に決定するまでの間、僕は1人頭を抱え続けていた。