ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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15レ前:北澤の場合

「まだ、まだ足りない!」

「いいぞ、その意気だ」

 

 北澤百合は悩んでいた。

 スクール時代、彼女は常に優等生だった。それでいて人柄もよく、同級生には慕われていた。実技も座学も常に成績上位で、その立ち位置を脅かすものはいなかった。

 だが今はどうだろうか? その同級生であったはずの山根真也は、既に彼女よりも遥かに高いところにいる。

 

(必ずや、追いつきませんと)

 

 北澤も頭では分かっている。そもそもスクールでの成績とトレイナーとしての優秀さの相関は、どちらも上に行けば行くほど下がってゆくことを。決して彼女が同年代のトレイナーと比較して、力のない訳ではないことを。だけれど、今の彼女はそれでは満足できていなかった。数日前までであれば十分満足していたが、満足できなくなってしまったのだ。

 

(前衛の動きは、山根君はほとんどできなかったはずですわ。なのにあのデュエルは何ですの? まだぎこちない部分はありますが、アタシと同期であることを考慮すれば十二分。間違いなく彼はアタシの見えないところで確実に強くなっていますわ。ならばアタシも負けてなどいられません)

 

「《クレインリバー》!」

 

 グサリ。北澤の渾身の突きが、履き潰された廃タイヤに突き刺さる。早乙女遊馬はそれを見て何度か頷いていた。

 

「その技はもうスピードも精度も完成されて言うことはないな。他の技も見たい」

「はい」

 

 彼女の知る中で、早乙女は間違いなく最強の一角だ。だからこそ、北澤は早乙女を頼った。勿論、かのノーラッチの戦いを横で見ていたのが彼だったから、というのもあるが。

 そうして、昨日の玉入れ終了後と今日この時間、北澤はマンツーマンでの指導を受けられる運びとなったのだ。

 

「ならば次は! ……《ONE》!」

 

 北澤は一度下がって距離を取ってから、緑色の光をまといその手に持つショートソードを大地に突き刺した。

 次の瞬間、その少し前方で、緑色の円錐状の衝撃が廃タイヤの穴を貫く。

 ぐりぐり、ぐりぐり。北澤が突き刺した得物を軸に回せば、その衝撃は鞭毛のようにうねり、そして廃タイヤを真上へと投げ飛ばした。

 

「ほう、なかなか様になってきたじゃないか」

「もっちろん。で、さらに《風祭》!」

 

 緑色の旋風が、北澤を包む。彼女は風を足場に廃タイヤを迎えに行き、そして峰打ちでそれを地面へと叩きつけた。

 

「お疲れ。昨日今日でずいぶん動きがまともになったな」

「リーダーのアドバイスのおかげです」

 

 北澤が昨日この2つの技を披露した際は、どちらもまだお世辞にも洗練されていたものではなかった。《ONE》はそもそも目標を貫くことはできず、《風祭》は足を踏み外してしょっちゅう砂浜へと転落。それを似たような系統の技を用いていた早乙女の指導があったとはいえ、丸一日程度でここまでの上達が見られるというのは、紛れもなく彼女の才能と努力に依るものだ。

 だがしかし、それでも北澤の心は満足していない。

 

 次に彼女はポートをスクモ号にトランジットした。右手にはオトメ号に由来するスモールソードが、左手にはスクモ号に由来するダガーが握られている。

 

「リーダー。1回、どこまで通用するか試したい。模擬戦闘を」

「……いいだろう。だが、この模擬戦闘が終わったら今日はもう休養に移ること」

「わかった」

(ぶっつけ本番。ですが、今のアタシなら!)

 

 2人は距離をとり、砂浜に向き合った。

 そして早乙女が廃タイヤを空高く投げ上げる。

 落ちる。それがスタートの合図だ。

 

「《ONE》」

 

 すぐさま2人の間を緑の円錐が遮り、そしてそれは早乙女を討たんと暴れまわる。

 だが、早乙女にとってこの程度の攻撃を避けるなど造作もないこと。だけれど、円錐は彼を討たんと暴れまわる。それはまるで、魚を仕留めんとする蛸の腕のように。

 追われる側もまた、避けることは造作もないと言ったところで、それ以上は厳しい。細長く伸びるこの円錐の届く範囲は広く、また動く速度も決して遅くはないので、その中央に背を向けることは簡単なことではないからだ。

 だからこそ彼は、死角へと動いた。《ONE》の術者はその場を動くことは能わないゆえ、自分で死角を生み出してしまっている。そこへ逃げ込めば、攻撃はどうしても甘くなる。さすれば、余裕が生まれるから。

 

(知っていましたわ。そんなに単純になど行きませんことは。ですが、これならどうでしょうか)

「《ONE》」

 

 ここで北澤は賭けに出た。彼女はこれまでオトメ号の技としてでしか《ONE》を使っていない。だが、彼女の中にはスクモ号もまた、《ONE》を扱えるノリモンだという()()()()()()。そこに確証も根拠もない、ただ彼女の中に()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

(……行けますわ)

 

 そしてその感覚が示した通り、北澤が左手に持つダガーに紫色の光が宿る。そしてそれを地面に突き刺した。

 

(さぁ、おいでなさいまし)

 

 早乙女は暴れまわる緑の《ONE》に注目するあまり、足元の警戒がやや疎かになっていた。そこから、紫の円錐が勢いよく突き上げたのだった。

 空中に舞った早乙女を見て、北澤は心のなかでガッツポーズをすると、すぐさま彼を迎えに《風祭》で飛び立った。

 

「君も私の想像を超えてゆくのだね」

「同期がそうしたんだから、アタシもそうしないとね」

「はは、同じユニットのメンバーとして本当に頼もしいよ」

 

 北澤は、まだ追い抜かれた山根の域には追いつき返せていない。だが、それができるポテンシャルは有しているだろう。彼女に受け止められながら、早乙女はそう思った。

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