ビーチフラッグス。
走力や反射神経を競う競技で、うつ伏せに砂浜に横になってから、合図と共に人数より1本少なく立てられたフラグを取りに行くものだ。
そして毎回フラグを取れなかった1人が脱落し、最後の1人になるまで繰り返す。
「なんだ、これは普通の競技じゃん」
これを、参加する24のユニットから3人ずつ、計72人で行うのだ。見よ、砂浜には71本のフラグが立てられている。
異様な風景だ。全く普通ではなかった。
「人数増やすだけで、笑える」
「あの、佐倉さん。これって優勝者は71回走らなきゃいけないってことのように聞こえるんですが」
「20×71=1420。たった1420メートル」
いや、そのりくつはおかしい。計算自体はあってるけど、その掛け算を持ち込むのはおかしくないかな?
少なくとも、僕は20メートルを71回も走るんだったら普通に1回2000メートル走る方がいい。明らかにそっちのほうが必要なスタミナも少ないし体力消費もないはずだ。
「でもさ、私達観戦。走るんじゃない」
「いやまぁそうですけど」
「それに、どうせ始まれば変なことになる」
目下の海岸には72人のトレイナーが豊洲めいて横一列にうつ伏せになって寝ている。配置は適当に決めているらしく、各ユニットバラけていたり固まっていたり様々だ。
そして、1回戦の火蓋が切って落とされた。
まず、72人のトレイナーのうち60人くらいが普通に立ち上がってフラグを取りにゆく。残りの10人くらいは何をしているのかと言えば、
……うん、知ってた。トレイニングを許可している時点で、まともじゃない動きをするトレイナーがいることくらい。
例えばその1人の北澤さんは緑色に光りながら地面にウェポンを突き刺して、その背後から触手のようなものを生やして遠隔でフラグを掴んでそのまま自分の手の方まで持ってこさせている。
何だそれ、ずるくないか?
他にもあの手この手で遠隔でフラグを手に入れるトレイナー達。でも、審判がスルーして普通に続行してるあたりそんなに問題視されるような行為ではないみたいだった。
そしてフラグを普通に取りに行った側も阿鼻叫喚だ。
例えば、2人並んだ選手が、それぞれ2人の間とは逆側のフラグを取りにゆけば、間のフラグは取り残される。もちろん、それを誰かが取らない限り競技は終わることはないので、自分の近傍でフラグを取れなかった選手は左右を見渡して残るフラグを探さなければいけない。それが至るところで発生していた。
「……やっぱりこれ、72人でやる競技ではないんじゃないですかね」
それこそ到着翌日の1人競技とか、もっと少ない人数で行うやつじゃないんですかね。
そう困惑していると、佐倉さんから斜め上の情報が降ってきた。
「前に私が夏合宿に来たとき、この競技、5人種目。100人以上いた」
「なにかんがえてるんです?」
「カオスだった」
「でしょうね」
結局、最初の71本の旗が全て取られて最初の脱落者が決定するまで数分ほどかかった。
……ビーチフラッグスって、こんなに時間がかかる競技だったっけか?
それから旗を回収し、植え、荒れた地面を均して。2回戦が始まったのは、1回戦が始まるのから10分強経ってからだった。そりゃ丸一日潰れる訳だよ……。
ただ、この所要時間も残る人数が減るにつれてだんだんと短くなって、昼休憩に入る頃には試合同士のインターバルは5分強まで短縮されていた。
そして、驚くべき事態も発生していた。この時点で既に早乙女さんがリタイアしてしまっていた。
15回戦くらいあたりでスタートの反応が鈍くなり、それから少しずつじわりじわりと遅くなる。そして、昼休憩前最後の戦いでついにスタートに完全に出遅れてフラグを得られずにリタイアとなってしまったのだ。
「一体早乙女さんに何が……?」
「単純に、あの人もう歳」
……なるほど。いくらトレイニングしているとはいえ、アラフィフにビーチフラッグスは過酷だった。至極真っ当な理由である。
「じゃあなんで担当したんですかね」
「普通は72人でビーチフラッグスはやらない」
「そういえばそうでしたね……」
ビーチフラッグスは人数が増えればそれに比例して連戦数の増える恐ろしい競技なのだ。72人なんて大人数では理論上はできるけれど普通はやらない。……あれ?
「あの、前に5人種目でビーチフラッグスがあったんですよね? だったらわかってたんじゃないですか?」
「あれをまたやるとは、ふつう思わない」
佐倉さん曰く、かつて夏合宿で5人種目……即ち100人以上でビーチフラッグスを行なった時は、開始から半日経っても終わらず、日が沈んで真っ暗でそもそも取るべきフラグが見えない中続行して余計に時間がかかり、結果としてすべてが終わったのが日付が変わってからだったらしい。なので今回はそれに懲りて人数を絞ると早乙女さんは踏んでいたのではないか、とのことだった。
まあその推測は外れて、いまさっきまで目の前では異常な光景が展開されていた訳だけど……。
「でも今回は、日没までに終わりそうでよかった」
「本当にそれでいいんですか?」
浜を見下ろしながら、僕は頭をかかえた。