ユニットレース。
各ユニットから3人、足自慢を持ってきてレースをする競技だ。
今回のルールでは12kmのパシュート。つまり、3人一組で走って一番後ろの人のタイムを競うものだ。
なら単純に一番速い人を後ろに配置すればいいのかといえば、決してそうではない。そもそも、前の人を抜いてしまえば最後尾は変わってしまう。
そして、一番前は空気をかき分ける必要があるから、一番力が要求されて、そして消耗も早い。一方でバックスリップの中に隠れられる残り2人は比較的楽だ。
なので先頭を交代しながら走るのがセオリーなのだが……。
「山根、お前先頭な」
「なぜ」
成岩さんに提示された作戦は、僕が最初から最後まで一番前を走り続けるというものだった。
成岩さん曰く、この先頭の交代ではタイムロスが出るので最後まで先頭を変えずに走ったほうが早いのではないかという学説もあるらしく。また、それとは別に一番遅い北澤さんの速度に合わせるのだから余裕もできるはずだ、ということらしい。
「それなら成岩さんが前でも良くないですか」
「高速域での加速余力はクシー号とお前の方が上だろ?」
そうだっけ?
そのへんは詳しく調べたことが……いや、あったな。アドパスさんの実験の一環で加速余力を計測していたんだった。ならそこからデータが成岩さんにいっているんだろう。
「測ってましたねそういえば……」
「だろ? 俺は一番後ろから加速が鈍めの北澤の背中を押すから」
「鈍くはないんだけど?」
「いや、俺と山根には《ハイブリッド・アクセラレーション》があってだな……」
「えっそれ使う前提だったんですか」
北澤さんを置いていけないから使わず加速するものだと思ってた。
「まぁそういうわけだ。スタートの起動加速の増強、そしてゴール前の制動力の増強。この2つは下手に最高速度を上げるよりも時短効果がデカい。だからここが弱めの北澤を後ろから押す訳だ」
「なるほどね」
「……前からも手を繋いで引っ張ったほうがいいですかね?」
「いや、そこまでは要らんと思う」
そして予選がはじまった。
スタートしてまもなく僕と成岩さんが《ハイブリッド・アクセラレーション》を使い加速。ある程度加速したところで後ろを振り返れば、しっかりと成岩さんが押したおかげか北澤さんもついてくることができている。
だがしかし、僕はその奥でとんでもないものを見てしまった。
1周2.4kmのレースコースは600m間隔で4ユニットのスタート位置がずらされ、各ユニット毎にゴールラインも異なる。なので他のユニットの走者との競り合いが発生することはない。普通は。
なのになぜか、1つ後ろからスタートしたはずのカンケルのノーヴルの人が、もう既に後方400mまで迫ってきているのである。
単独で。
「……は?」
いや、これパシュートだぞ?
「どうしたの、山根君」
「いや、後ろ……」
僕の言葉に2人も振り返り、そしてその異様な光景を目にした。
「アイツ何考えて……あっ!」
「何かあるんです?」
「速度上げっぞ、2人とも! パシュートは、
えっ、そんなルールあるの!?
そもそも予選は順位に関係なくタイムだけを見るタイムトライアル方式なのだから、リタイアさせたところであんまり意味はないはずなのに。どうしてそんなことを?
まあいい。それを考えるのは一旦あとにしよう。今重要なのは僕達は追いつかれてはいけないってことだけだ。
《ハイブリッド・アクセラレーション》だって柔な加速じゃない。なのにどうして距離を詰められているのか……それは至って単純なことだった。僕達は全速では足を動かしてはいなかったのだ。
トレイナーやノリモンが走るとき、加速は車輪を回すことによる加速と、足を動かして大地を蹴ることによる加速が重ね合わされる。ゆえに、この動きも決して無視することはできない。
ではなぜ、そこで全力を出さなかったのか? その理由は至って単純、この予選だけで12km、しかもその後には本戦も12kmの合わせて24kmも走らなきゃいけないのに、1本目のスタートからいきなりスプリントなんてしてしまえば、いくらトレイニングしているとはいえ体力が持たないからだ。
だが、今は到底そんなことを言っていられる状況ではない。逃げ切らなければ、即リタイアが待ち受けている。
大地を蹴る。蹴る。蹴る!
きちんと車輪の回転数の制御さえしていれば、車輪の加速度なんかより蹴る加速度の方が大きく出る。ただ、その制御ははっきり言ってかなりめんどくさい。だけど、それをしなければならないし……これ、12km持つのかなぁ?
「2人とも、ついてこれてます?」
「アタシは平気!」
「大丈夫だ。あのアホのキールはアオキジェット号、加速に優れるが速度は出ない。もう少し加速すりゃ、アイツには追いつかれん」
「「それを先に言って!」」
それから彼を知る成岩さんが指定した安全な速度にまで到達してからは、また体力を温存する走りに戻り、そして結局ゴールまで追いつかれることはなかった。