ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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17レ中:作戦

 予選の結果は、全体で第4位だった。

 想定外の後方からの接近により、途中かなりペースを乱されてしまうなどのアクシデントはあったものの、意外とそれでも体力は保ち……いや、決勝行けるかこれ? スプリントしたらきつくない?

 というか。

 

「なんで成岩さんが潰れてるんですか」

「覚えとけ、アラサーになるとな、もう体力は落ち始めてくるんだよ。鍛えていてもな」

「えー」

 

 そう言う北澤さんは直後ですら息一つ乱れていなかった。僕達と比べてスプリントしなきゃいけない距離は長いはずなのに。流石はJRNに入った今も出勤日毎に町田から小平まで自転車で往復しているだけある。

 そもそも全力スプリントなんてするつもりはなかったんだなどとのたまう成岩さんを置いて、僕達は他のレースの結果を確認する。

 1位はどうせドラコ……かと思いきや、彼らの順位は3位。一番早かったのはサギッタリウスで、それにウィルゴが続く形になっている。これは……。

 

「なるほど、奴ら潰す気マンマンじゃねぇか」

 

 まだ息の荒い成岩さんが、結果を覗き込みながらそう言った。

 

「どういうことです?」

「そのまんまの意味だ。決勝のスタート位置は順位が下がるごとに600m前からのスタートになる。奴らが妨害を考えるなら、あえて順位を下げる選択肢はアリだ」

「そんなことする人達だっけ?」

「あるいはこうして油断させるか……」

 

 たぶん何かしらの事故があっただけでそこまで考えてないんじゃないかなぁ?

 

「考えないほうがいいんじゃない? 競り合わない競技だし」

「まぁそうだな」

 

 さっきのような奇策に出るユニットはそうそういない、と思いたい。

 だけれど、カンケル・ユニットは1人を完全に分離した1+2の構成でなぜか予選7位と好成績を収めており、あの戦法も割と莫迦にできない上、油断している1つ前のユニットを……あ。

 

「あの」

「どうした」

「カンケルみたいなことをドラコがしてくる可能性ってどれ位あると思います?」

「……あ」

 

 聞いていた2人の顔から少し色が引いた。

 

「なぁ、どうすっか? スタートでスプリントかける?」

「アタシはそれでも大丈夫だけど、成岩先輩はスタミナ保つの?」

「保たん」

「だめじゃん」

 

 カンケルが破天荒なことをしてくれたおかげで全体的に戦術組み直しである。どうしてくれんの。

 

「最初にスプリントして速度を出してからそのまま流して休みます?」

「それしかなさそうだな……。あんまりやりたくねえが」

「でもやるしかないじゃん? だって真後ろドラコだよ?」

「あぁ。幸いにも松代のキールはかのメカマセンゾク号、さっきのアオキジェット号とは異なってノリモンになってから起動加速が鋭くなったクチだ。とすると松代本人のスプリント力にかなり加速度が依存すると見たほうがいいだろう」

 

 それは幸いなのだろうか?

 これは一般論だけど、スプリント力はノリモンと人間を比べると人間の方が強い傾向がある。生まれたときから脚がついている人間と、成って初めて脚を得るノリモンの大きな違いによるものだ。

 そうなると……メカマセンゾク号よりも松代さんの方がスプリント力は強いのでは?

 

「いや、違えんだ。終わってからでいい、メカマセンゾク号が出たレースを見りゃ解る。あいつは車輪抜きで()()()()()()()()()()()をすんだよ」

「なるほど……」

 

 だから600mの差を考えれば、最低限の対策さえしてしまえば仮にドラコがこの戦略を取ってきたとしてもそこまで強く懸念することじゃない、というのが成岩さんの見込みだった。

 

 しかし、まぁ、結局のところ。

 ドラコがどんな戦略をとってくるかなど、こちらでああだこうだ話をしていてもわかることは決してないのだ。だからこそ、考えられうる全ての策に対応できるような準備をしておく他ない。

 

 こうして話をしている間にも、決勝ラウンドのレースは順調に消化されてゆく。気がついた頃には成岩さんの息が再び整い、そしてちょうど5つ目のレースが終わって、まもなくついに僕達の走る最終レースが始まらんとしていたところだった。

 パシュートなので、試合前に僕達以外の3組と接触する機会はない。だから彼らの表情が見えることも、当然ない。况んや彼らの考えにおいてをや。

 

 コースに入る。少しだけ足元の車輪を転がして、現時点での異常がないことを確認する。――よし、おかしな感触はない。

 それから僕はレースコースの進む方を見つめた。11のレース、4のユニット、5周。今朝から断続的に述べ220の車輪が通過したこの道は、既に突き固められていたはずの土すらもえぐれて轍がいくつもできている。

 

「お前ら、準備はいいか」

「アタシはいつでも」

「そう言う成岩さんこそ」

 

 編成は変わらず前から僕、北澤さん、成岩さんの順で、最初に全力スプリント。願わくは、ドラコが初手からの追い抜きの作戦をとってきませんように。

 そう願いながら、僕らはスタートラインの後ろに立った。

 

 そして、レースの始まりを告げるメロディが流れ始めた。

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