「えっ、一番なんですか?」
走り終わって暫くして。結果を聞いた僕達はひっくり返ってびっくりしていた。当然、ドラコには負けていると思っていたからだ。
「詰められてたよな、俺達」
「うん、それで一か八か氷に乗ったんだよね、山根君?」
「そうですね、行けるか怪しかったですけど……」
正直氷の上がこんなに走りやすいとは思ってなかった。スクールの頃に冬の合宿でアイススケートに連れられた時はもっと動きはぎこちなかったけれど、それから数年ブランク開いてここまで行けるとは。
「……まぁ俺らずっと鉄輪履いて活動してっからな、アイスとローラーのハイブリッドだ。それに」
「それに?」
「俺と山根……いや、ベーテクとポラリスはもともと雪国の車だ、氷にゃ強い」
あれ、そうだったの?
ベーテクさんからそういう類の話はあんまり聞かなかったから、今ここで初めて聞いた気がする。
「だから俺は氷上じゃ北澤の方がやや気がかりだったが」
「そう? このくらい平気よ?」
「この人スクールの時から雪の日でも平気で自転車通学してましたからね、バランス感覚は間違いなくありますよ」
雪の日に実家勢が総崩れする中颯爽と自転車漕いでいつも通りの時間に登校してきた時は、そこにいた全員がドン引きしていたのをよく覚えている。
「そういうお前もよく氷に入る気になったよな」
「だって3人ともスクール上がりじゃないですか。なら全員がアイススケートの経験がある」
「俺はもう10年近く前だけどな……」
それでも、一度氷の上を滑った経験があって、そして今でも鉄輪を履き続けているのだから大丈夫だ。僕はそう考えたんだ。
逆にそれがあるか微妙な佐倉さんとかがいたら入ってない。あぶないからね。
それから僕達はユニットに戻って、明日の準備に取りかかった。明日はもう最終種目、僕達全員で取りかかるトーナメント――即ち、模擬戦闘である。
この夏合宿で僕や北澤さんはかなり刺激を受けて、戦闘スタイルが大きく変わるほど成長したと早乙女さんは見ていた。これに伴って、全員の動き方だとか立ち振る舞いなんかは始まる前と比べて大きく変わることになる。それを初めて行うのが、この最終種目なのだと。
最後まで、気を引き締めて。僕はその言葉を再び胸にした。
「いやー、やられちゃったね」
中泉はそう言って、戻ってきた3人を出迎えた。
「喜ばしい事さ。俺達が抜けても、JRNにはウルサがいる。これ程安心して長期の遠征業務にあたれる材料はないだろ?」
「そんな悔しげな顔でよく言うナ」
「説得力ないよ?」
「あぁそうだよ悔しいさ。俺達だけが使えると思ってた残った氷を見事に再利用されちまったもんだからな」
氷川は悔しげな顔でそう返した。それとは対照的に、負けて尚普段の涼やかな顔を崩さないのは松代だ。
「あのユニット、平均的に走るの速いしね。パシュートは、一番遅いのが律速要因になる」
「俺が悪かったてんノカ?」
「違う。ウルサが疾い理由を挙げただけよ」
「2人とも、そう喧嘩なさんな」
松代の言う事は嘘一つない真実だ。
だがしかし、全体を俯瞰していた中泉にはもう一つ、気になったことがあった。
「あと、今回なんか全体的にハイペースだったよね。君たちを含めて4ユニットとも、予選と比べて最初のラップタイムがだいぶね」
「それはカンケルのせい。あんなもの見せられたら、もしやと思って誰しも警戒するでしょ」
「あぁ、アレか。アレは見事だったね」
カンケルは、破天荒な手段で全体6位を掴み取った。パシュートなのに1人が分離し、全速力でその5から8位の決勝戦で最有力であったドラドを最初の周回で追い越して、見事に彼らをそのレースからリタイアせしめたのだ。
他のチームに追い越されたらそこで終わり。それが、パシュートの基本的なルールである。
「実際にそれができる。それを証明しただけで、
「俺達ゃ普通にやってりゃ最速取れるからノーマークで普通に走ってたけど、それが悪かったみたいだな」
「だからハイペースになったウルサは、高速レーンを利用することを思いついたんだと思うわ。そうなると、これまでの私達の走りはもう通用しない」
「バレちゃったもんね、氷の上を普通に走れちゃうこと」
氷で線路を作る。氷川がそれを思いついたのは少し前の事だ。それをこの夏合宿に向けて改善して仕上げ、そして実行した。
故に、誰もがその対策方法を持っていない。今回の戦術は、その前提でこそ輝く戦術であったのだ。
だから、もうこの戦術は使えない。使えたとしても、効果は薄いだろう。
「まさかこの合宿中にやられるとはな。大抵合宿1つ挟んでから対策のお披露目会になるのが今までの傾向だっただけに、少し悔しい」
「少しじゃないでしょその顔は」
「……あぁ、悔しいさ。長年のライバルと事前に目をつけていた期待の新人がいるユニットとはいえ、目をつけた理由とは違うアプローチで攻略されるのは気持ちのいいものではない」
氷川はそう、一度思いの果てをぶちまけた。そしてその後、吹っ切れたかのようにニュートラルな表情へと戻ったのだった。
「でも、いいんだ。これでJRNはまた1つ強くなったんだから。強くなるのは、俺達に限定されないほうが健全ってものさ」