戦いの火蓋が切り落とされてから暫くは、予想に反して物凄く静かだった。お互いに距離をとり、近づかんとすれば集団で退く。そんな戦いすら始まらぬ睨み合いが暫くは続いていた。
「いつ仕掛ける?」
「山根、頼んだ」
「え、僕ですか」
そうして僕が《桜銀河》を放った次の瞬間、ラチ内は大きく変貌を遂げた。僕達とドラコの間には突然大きな水の壁が聳え立つ!
……鮫島さんだ。
これで対策できるってことが、彼にはもうバレてしまっている。
「またこれですか!?」
「アタシに任せて。《ONE》!」
北澤さんの攻撃が波の壁を斬り裂いて、そしてそのまま暴れて奥にいた使い手である鮫島さんを強打したのであろうか、波が崩れ去った。
だけど、次の瞬間。
崩れ去った波が急に凍てつき、北澤さんの攻撃は逆に捕らえられてしまう。
「北澤、それを解くんだ!」
「できるんだったらやってるって! 動けないの!」
「そうか、分かった。ならば私が行こう」
「氷を割る? 私も同行する」
「承知、成岩君は2人の援護を」
そう言って2人が氷壁へと飛んでいってすぐのことだった。オオカリベが僕達の視界を遮った。
金属音。それに弾かれているのは、長く伸びた槍。
「来ると思ったぜ。遊撃のお前が、壁の向こうでただ呆けてるだけな訳が無えもんな!」
「別に5人固まる必要なんてないからね!」
「あぁ。だから、お前の相手は俺だ。後輩には指一本触れさせねぇ! 《
そう言いながら成岩さんは中泉さんを体当たりで弾き飛ばした。
奥では2人が氷の壁を割り切ったのが見える。だけど、割れたのは壁だけで、北澤さんはまだ動けない。壁の向こうからは、氷川さんと松代さんが飛び出して2人を迎撃している。
となると、あと1人。僕と同じ遠距離タイプの星野さん。
それを意識した瞬間、巨大な火球が打ち上げられてこっちに向かって飛んでくる。あいも変わらず、なんなく躱せるスピードの攻撃だけど……って、駄目だ!
「キミだけでも逃げて!」
「できません! 一方的になんて……」
「アタシははもう鮫島さんの」
「それ、見て確認したんです? あの壁が消えたのだって、鮫島さんがわざとやったのかもしれない。だから……《クンネナイ》!」
過去に佐倉さんが証明していた。あの火球は攻撃を与えればずらせると!
念の為背中に左手を隠して備えて、そうして跳び上がる。
その先で、見えた。鮫島さんがこちらを見ているのを。トレイニングを維持したまま!
そして彼は、何やらを更にこちらに投げようとしている。ここで僕は、火球に向かうのをやめて背中に隠していた左手を取り出した。
「やっぱり。でもね、攻撃の到達速度なら、僕だって負けやしない、《桜銀河》ァ!」
桜色の光が伸び、鮫島さんを包む。そしてそのまま向きを変えて、今度は続けて近くにいた星野さんに向ける!
それがかなったのと、僕が火球に呑まれたのは、ほぼ同時だった。
シールドが燃える。火球を突き抜け、進む先の地面に叩きつけられる。そして、割れる。
次の瞬間、僕はトレイニングが解けてリタイアしていた。
いや、僕だけじゃない。制御を失った火球の進む先を見れば、動きの取れない北澤さん。
火球が落ちる。そして、続けて火球と《ONE》が消えた。
だけれど。《ONE》が消えたところで当然氷が消えるはずもなく。
スコープを覗けば、絡みつくものを失った氷の弦が、まだそこで戦っていた4人のうち氷川さん以外で唯一トレイニングを維持して立っている佐倉さんに向きを変えている。
「《ソーゴサンド》」
佐倉さんの2本の剣が、互い違いに挟み込み続けるようにその氷を圧し折った。
それだけでは止まらない! そのまま彼女は氷川さんに向けて突っ込んでゆく。斬撃を放ちながら!
だけど。
氷川さんは、それで散る男ではない。
ウェポンを失ってなお、氷川さんの冷気を操る力は失われていない。佐倉さんが彼むのシールドを割らんとしたとき、同時に氷柱が佐倉さんのシールドを貫いて、2人は相打ちとなった。彼は佐倉さんが近寄ってくるのを待ち構えていたのだ。
ただ、佐倉さんも負けてはいなかった。彼女はここにきてその動きを早めた――つまり、それまでの動きは全てがブラフ。それを超える速度で斬撃を氷川さんに与えた。
その結果は……相打ち。ほぼ同時に2人のシールドが割れた。この場において、厳密にどっちが早かっただとかを議論する意味はない。まだお互いのユニットに、トレイナーが残っている。
最後に残ったのは、中泉さんと成岩さん。そちらにスコープを向ければ、2人は己のウェポンを振り回してぶつかり合いつづけている。
だけど攻撃の速度的に、大きな回転運動を伴う成岩さんは徐々に不利だ。
しばらくして――中泉さんの槍が、成岩さんを貫いた。
――口ほどにもないね。
中泉さんは成岩さんのシールドを割ることができたと思っとのだろう。そう言うように口が動いた。
だけど、中泉さんの攻撃は成岩さんには当たってはいなかった。次の瞬間、成岩さんのいたところにあったのは大きな松の盆栽。その枝に掛けられた笠からは掛け軸が転がり落ち、そこには4文字の漢字が書道されていた。
「《特別通過》だ」
その文字を読み上げるかのような成岩さんの声と共に、何が起きたのかを理解できていない中泉さんのシールドをオオカリベが刈り取った。