ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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19レ:エピローグ(終)

『業務連絡です。客室乗務員はドアモードをオートマチックに変更し……』

 

 飛行機に乗り込んで、周りがようやく落ち着いたころ。出発の準備が済んで、そんな放送が流れる。

 そして飛行機は動き出した、のだけれど。

 

「ん、どうした山根、そんなそわそわして」

「いや、なんか逆に落ち着かないというか」

 

 その理由はこの座席。何故か僕達のいる5席だけ、後ろの席との間にカーテンレールはあるし色もクリーム色で異なる。なんなら2列目からは6列の席なのにここだけ5列しか席がないし。

 

「まぁこれ、席ならファーストクラスの席だしな」

「……え?」

「機内サービスが無えから1つ下のクラス扱いしてるだけだ」

 

 ひぇっ。わかってて本部は航空券を渡して来たのか? だとしたら、成績けっこう上……1番は当然あそこだとして、おそらくは2番目か3番目にはいるってことだろうなぁ。

 

「落ち着こうか、山根君。座ってしまえばただの椅子だよ」

「座り心地が妙にいいから混乱してるんですって」

「じきに慣れるだろう」

 

 通路の向こうから、真ん中の一人席に掛ける早乙女さんがそう声をかけてきた。

 

「北澤君を見てみなさい。彼女はもう落ち着いているよ」

「いやだって……」

 

 北澤さんはいいところのお嬢様だし。

 そう言おうとして、口を噤んだ。

 そういえばまだ北澤さんの本性は早乙女さんには知られていないんだった。いつまで隠し通そうとしてるのかは彼女のみぞ知る。

 

「君にも慣れてもらわなくては困るよ。ここまで上の順位に入ったんだ。新小平に戻っても、以前とは地位的に異なる扱いをされるだろう――特に本部からはな」

「えぇっ? 聞いてないですよ」

「私も言っていないが、当然だろう? ……と、離陸だ。話はまた安定した後でな」

 

 その瞬間、飛行機は急に加速し始めて、僕の体は座席に打ち付けられる。

 少しして、ふわり。体全体が飛行機ごと持ち上げられて、飛行機はぐんぐんと高度を上げていった。

 そして、暫くすると。

 

 ポーン。

 ベルト着用サインが消えて、飛行機は水平飛行に入ったようだった。

 

「どうだ、今の離陸でだいぶ座席も体に馴染んだだろう?」

「言われてみれば確かにそう、ですけど……」

「それでいい」

 

 それから機長さんやこの飛行機のノリモンからの挨拶があった後に、客室乗務員さんが飲み物を持ってきてくれた。僕は特製のフルーツジュース、成岩さんはコンソメスープ、早乙女さんは野菜ジュースを選んだ。

 それを飲み干した頃には、確かに座席や空気に対する違和感は消え去っていた。

 

「さて、戻ったら忙しくなるぞ」

「忙しくはならねえだろ。ただめんどくせえ仕事が増えるだけだ」

「それを忙しくなると言うのだよ。……知らないだろう2人に行っておくと、これからおそらくウルサは本部の思いつきによって振り回される事が多くなる」

「断れないんですかそれ」

「3割くらいならできるだろうが、あまりに断りすぎると本部から怒られるぞ? なに、その分手当だって多く出る」

 

 そうは言われても。

 僕はお金が欲しくてJRNに入ったわけじゃないんだけどなぁ。

 

「できれば面倒な仕事をする時間は鍛練にあてたいですね……」

 

 そうぼやくと、今度は隣の席に座る成岩さんから言葉が戻ってきた。

 

「お前は既に十分強いぞ、それは自覚して誇っていい」

「わかってますけど、それって鍛練しなくていい理由にはならないですよね」

「まぁそうだが」

 

 僕は日本一のトレイナーにならなくちゃいけないのだ。昔にコロマさんと交わした約束のために。

 今回の夏合宿は、間違いなくその方向へと進む大きな力になった。だからこそ、参加して良かったとは思う。

 だけど、その結果として今後の鍛練の時間が削れるのなら……。

 

「もしかしてお前、まさかとは思うが。参加しなければ良かった、とか考えてるんじゃないだろうな?」

「……ノーコメントで」

「顔に出てる。一応言っておくが、面倒な仕事っつってもそれやったら通常の業務がかわりに一部免除されるらしいから安心していいぞ」

「誰から聞いたんですかそれ」

「松代」

 

 なら信憑性は高いか。面倒な仕事を引き受けてそうな筆頭ユニットの本人だし。

 

「だいたいよ、強いユニットに仕事振ったところでそいつらに適切な時間的余裕を降っておかなきゃただ使い潰すだけだぞ。そんなことをあのトシマ号が許すと思うか? お前らロケットのトシマ号が」

「……確かに、それはなさそうですね」

「だろ?」

 

 トシマさんは持続可能性を何より重視しているから、持続できないシステムを許して放置するかと言われれば、間違いなく否だ。

 そう考えると、僕は少し考えすぎていたのかもしれない。

 

 そんな話をしながら、僕達の東京への帰路は過ぎていった。

 全てのユニットが新小平に戻ってくる明々後日までは、僕達は待機という名の実質的な休みだ。そこで合宿で少し無茶した疲れを抜いて、また日常の業務に戻ろう。

 

 そんなことを考えながら雑談をしていれば、飛行機はいつの間にか東京国際空港羽田に向けて降下を始めていたのだった。

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