帰省を終え、新小平に戻った僕は、翌日からいつも通りにユニットの活動に参加するため、ユニット部室に向かっていた。
「あ、真也! おはよう!」
「おはよう、ポラリ……ス?」
部室の扉を開けて中に入ると、真っ先にポラリスが僕を出迎えた。
なんで? どうしてここにポラリスがいるんだ。
そう困惑していると、奥から聞きつけたのだろう、
「あぁお帰り、山根。のんびりできたか?」
「のんびりできたかじゃないですが。なんでポラリスがここにいるんですか」
「なんでって……俺が連れてきたからだが?」
そういうことを聞いてるんじゃない。というか、そこに関しては疑いようがないし、逆にそうじゃないほうが怖い。
詳しく話を聞いてみれば、成岩さんがコダマさんからポラリスを引き取った後は彼が面倒を見ていたのだが、流石にユニット活動中に目を離すのもだめだろうということで僕の帰省中に早乙女さんに頼み込んだらあっさりと許可されてしまったのだとか。
ちなみに、ポラリスはすでに他の3人とも打ち解けているらしい。
「だいたいユニット活動中は俺もお前もユニットにいるだろ、その間誰がポラリス見てるんだ」
「それこそ合宿中と同じようにコダマさんに」
「コダマ号だってそんな暇じゃねえ。アレはベーテクの莫迦が合宿にポラリスを連れていける手続きのできる間に言い出さなかったがゆえの一時的な例外だ。原則は
「なるほど」
確かにコダマさん、自分から仕事増やしまくった結果めちゃくちゃ忙しくなってるって評されていたな。
それに、口ではそう愚痴をこぼしている成岩さんも、反面その顔は穏やかだし声色も軽い。彼自身も納得は既にしているし、恐らくはそこまで嫌なわけではないのだろう。
でもユニットの活動中はポラリスの監視できるかって言うとそれも怪くないか? たとえば全員でラチ内入ってる時……はポラリスも入れてしまえばいいのか。後は……うん、だいたい僕か成岩さんのどっちかは隣にいられるな。
「ならば、まぁいいのか、な? 早乙女さんの許可も得られてるようだし……」
「考え無しでこんなことしてるわけじゃねえよ。いろいろ考えて俺もお前もいるここに連れてくるのがとりうる最善だと至っただけだ」
ちなみにもう既にだいぶポラリスも馴染んできたらしい。
本当か? と疑問に抱いているその時、タイミングよく北澤さんが出勤してきた。
「あ、おはようポラリスちゃん」
「おっはよー!」
「いや本当にもう馴染んでるんだ……」
「あ、山根君も戻ってきてたんだね。……ちょっといい?」
北澤さんは鞄を置くなり、すぐさま僕の近くに寄ってきた。
「ん? 何か変なことでも」
「もしかして……山根君って、ロリコンなの?」
「はい?」
「ぶっ」
北澤さんは真剣な表情でそう突拍子もないことを問うてきた。
おいそこ、笑うんじゃない。
「いやさ、クシー号だってそうだし、ポラリスちゃんもそうじゃん?」
「……言いたいことは分かりたくはないですが把握しました。完全に、誤解です」
助けて。そう腹を抱えて笑っている成岩さんにアイコンタクトをとるも、彼は動かない。
「誤解って……。流石にこんな小さな子にトレイニング迫ってるのに言い訳するつもりなの? アンタ尊厳ってものはないわけ?」
「いやトレイニング迫ってきたのはむしろポラリスの方なんですが」
あの状況を放置していたら僕はたぶん死んでいたんじゃないかな? 命と尊厳だったら命の方が大事だよ!
ってか僕が狙われてるって話はその時に……いや、その余裕すらなくてたまたま部室にいた佐倉さんにしか助けを求めてはなかったかあの時は。
しかもポラリスがその状況に至った理由だって佐倉さんから直接聞いただけ。下手すると、その前提知識自体を北澤さんが持っていない可能性だってある。しかもそれをここで僕の口から言った所で言い訳としか取られない気がする。
……あれ、これ。詰んでない?
そう思ったとき、まだこらえきれぬ笑いの中で声をあげた人が1人。
「……くくっ、そこまでにしとけ、北澤。だいたい全部知ってる俺から言わせてもらえば山根の言うことは事実だ。……ぷぷっ」
「そうなの?」
「あぁ。……ひっ、……おいポラリス、お前からも……ぷふっ……山根とトレイニングする前の話をしてやれ」
うん、援護してくれるのは嬉しいけどとりあえず笑うのやめませんか? これそんなに面白い?
成岩さんはそのまま震えている手でポラリスの肩を掴んで、そして僕達の所に連れてきた。
「えーヤダ。恥ずかしいよー」
こら。こっちもこっちでそういう誤解されるようなことを言うんじゃない。
そのせいか北澤さんの顔はさらにかたくなってしまっている。何を考えているのやら。
「山根君?」
「あのね、そもそもポラリスは人型してるって言ってもノリモンですからね? 北澤さんが想像してるようなことは起こり得ません」
「世の中にはお人形で興奮を覚えるような方達がいらっしゃると聞いていますわ」
「素が出てるから、まずは落ち着いて」
「これが! 落ち着いていられる訳! ないじゃありませんの!」
誰か助けて。特にそこでまたゲラゲラ爆笑してる人とか!
そう心の中で叫んでいたその時。
「何してんの。朝から」
事情を知っていて説明してくれそうな救世主が、部室にやってきたのだった。