「一体どうしたのさ今日は。ここまで僕をぐいぐい引っ張ってきたのってだいぶ久しぶりじゃない?」
夕方。活動が終わったあと、僕達は稲城市のいつもの河原で並走訓練を数セットしたあと、土手に腰掛けながら話していた。
「なんかヤだったの! お兄ちゃんだけじゃなくて、真也まで遠くに行っちゃいそうな気がして」
「ブライトさんはそんなことしないよ……」
少なくとも、アドパスさんみたいに計画性のあるようなノリモンじゃないし、逆に綾部みたいに突然変なことをしだす訳でもない。その両方を兼ねる店長の方がよっぽど酷いけれど、店長の場合は少なくとも自分でシフトに来られなくなるような事
「そもそも君の面倒を見るっていうのはベーテクさんとした約束なんだから、守らずに放り投げるようなことはしないし、そんな予定は絶対に入れないからね」
「ほんと? ポラリスとも約束する?」
「する」
「やったぁ!」
もうだいぶ落ち着いてくれたとは思ってたんだけど、こうしてたまにぶり返すんだよなぁ。多分半分くらい依存されているような気はしている。
そうなると一番手っ取り早いのは依存先を増やす……つまり、ポラリスがトレイニングできるトレイナーを探してくることなんだけど、これもこれでなかなか難しい。
……はぁ。
「どうしたんだい山根君。ため息なんかついて」
「いや、ちょっと悩み事……って、程久保?!」
「本当に君はここの河原が好きだな」
顔を上げれば、そこには程久保がいた。この前再会した時に連絡先は教えたんだからわざわざここまで来なくたっていいのに。
「真也、その人は?」
「ん? 彼は程久保、僕がスクールの時の親友の1人」
「そうなんだ」
……程久保にはブライトさんほどの反応は示さないのか。よくわからない子だなぁ。
「その子は……ノリモンか。特訓中?」
「そんなところ。で、わざわざここに来たってことは僕に用があるんでしょ?」
「いや特にない」
「えっ」
「え? 強いて言うなら暇だったからだけど……友人に会うのに理由がいるのかい?」
「それもそうか」
「まぁ、だから君達はこの程久保がいないものだと思って特訓を続けてもらってもかまわない。そろそろ息も整ってきただろ?」
程久保はそう言いながら僕達の肩を叩いた。
「それって見といてもらえるってこと?」
「だいぶ長い間君の走りを見てなかったからね」
「そうか、頼むよ。行こう、ポラリス」
「うん」
まぁ、程久保が見てくれるなら有り難いか。そう思って僕達はまた並走を始めた。
最初に早乙女さんに言い渡されてから、少しずつ様になってきた並走。体格も足の長さも全然違う僕とポラリスだけど、ピタリと並んだ僕達はもうお互いの息遣いまで読み取れるようになってきた。歩幅もポラリスに合わせ、足を降ろすタイミングもぴったりだ。
そうなると、不思議と全くポラリスを見ていないのに、彼女の姿勢が、目線が、はっきりとわかるようになる。きっと間をつなぐ紐がなくても、きちんと二人三脚として走ることができるだろうと思えるほどには。
そうして是政橋と稲城大橋の間を2往復して戻ると、程久保が呆れたような顔で僕達を出迎えた。
「見ない間に本当に生物をやめたんだね、君は」
いきなりだいぶ失礼な発言が飛び出してきたな。
「僕はこうして生きているじゃないか」
「いや、そういう事じゃなくて……。たとえばその速度とか」
速度? さっきの感じだと……。
「時速53から7くらいかな?」
車輪を履いている訳でもないし、そもそもポラリスがまだ完全には慣れてはいないので、そんなに速度は出ない。これが軌道上だったら時速数百キロは出るのにね。
「……なるほどね、君に興味を持つのもさもありなん」
「何の話よ」
「
「いや、置かないで」
「君達の走りだけれど」
「スルーかい」
こうなったらもう戻らないからもう話を先に進めるしかないのがこの程久保という人なのだ。
「ポラリスちゃん、でいいんだよね?」
「うん!」
「1つ確実に言えるのは、踵から着地するのはやめようか。一見足全体で着地しているように見えるけど、足跡見れば荷重のかかり方がバレバレさ。ボキッてなるよ」
「えっ」
程久保は土にできた足跡の、かかとの部分を指しながら言った。確かにかなり凹んでいる。
「着地するときに、つま先を少し下に向けるんだよ、そうすれば衝撃が分散されるから」
「わかった、ありがとう!」
ポラリスはそれを聞くなり、軽く数歩ほど走ってみせた。その足跡は確かに指摘される前とは変わっている。
「飲み込みが早いね、あの子は。それに比べて、山根。君はまた関節に負担がかかる走りをしてるんだな、
「げっ、それは嫌だ」
「スクールの時にも何度も言ったよね?」
「はい……」
どうも意識してないと忘れちゃうんだよなぁ。そもそもこの点は程久保以外に指摘してくれる人がいなかったし。
でも、こうやって指摘してくれるのはとてもありがたい。生物に驚くほど明るい程久保以外には、骨や筋肉の正しい役割や使い方を教えてくれる人はあまりいないから。
「ありがとう、程久保」
「いいって。目の前で怪我されたら後気味悪いし……それに、この感覚が懐かしい」
「僕もだよ」
それからアドバイスをもらいながら、僕達は日が暮れるまで走っていた。