「さぁポラリス、スリップストリームで僕について来い」
「うん!」
並走の訓練を始めてから半月ほど。軌道に乗ってからは、左右ではなく前後での並走も取り入れ、今や意識しなくてもお互いの位置や速度が分かるほどになっていた。
確実に、僕とポラリスは何かで繋がっている。これこそが、鳥満博士の言っていた『モヤイ』というものだろうか?
そしてその繋がりは、走り終えて立ち止まってなお感じ取ることができていた。
「ポーラーエクリプス号、私の見立てでは、そろそろ君が望んでいた事ができるはずだよ」
「本当? じゃあ、やってみる!」
早乙女さんはそうポラリスに声をかける。
……いや、ポラリスが望んでいた事って一体何? 逆になんで早乙女さんはそれを把握しているんだ?
そしてポラリスは僕の方へと満面の笑みを浮かべながら近寄ってきた。
怖い。
僕の中に、一瞬だけそんな感情が浮かび上がる。でも、僕はそれを押さえつけた。
ポラリスが何をしてくるのかは分からない。だけど、彼女には絶対に僕を害する意図は無いと断言することができるから。
「
そう呼びかけられ、ポラリスが僕の手をとったその時。
どの方向に伸びているのかもすらわからない繋がりに一瞬だけ引っ張られるような感じがした。そして、次の瞬間には星夜を見上げる丘に立っていた。
「ここは……?」
「ようこそ、真也。ポラリスの
「自元、領、域……?」
なんだそれは。どこかで聞き覚えがあるような気はするんだけど、いまいち思い出せない。
「ここにはね、『なにもない』がある」
「何も、無い……」
「うん。コダマのおじちゃんがね、教えてくれたんだ。この場所のことを、詳しく」
なるほど、コダマさんか。どうせ今日の午後会う予定あるんだしそこで問い詰めるか……あっ。
そう考えたところで、気づいた。これ、戻れるのか?
「どうしたの? 慌てだして」
「ポラリス、これ、戻れるんだよね?」
「どうして? せっかくふたりっきりになれたのに」
「僕達この後コダマさんと大事なお話があるってこと忘れてない?」
「え? でもそれ、今日終わったあとの話でしょ?」
「その時までには戻れるんだね?」
「もっちろん!」
ならいいか。早乙女さんは事情知ってそうだったし、何より帰れるかどうかがポラリスだけにかかっているような気がする。そうなるとここでポラリスの機嫌を損ねるのは本格的にまずい。
「そっか、ポラリス。教えてくれる? 君がしたかったことって、いったい何?」
「ポラリスね、からっぽなノリモンなんだ。コダマのおじちゃんが言ってたの。ここにはポラリスの大切な物があるって。でもね、ここには『なにもない』」
いったん深呼吸をして、辺りを見回す。うん、本当になにもない。強いて言えば、
あれ、この風景。
「別に、何もなくたっていいじゃん」
「ポラリスがヤなの!」
「でもほら、星空だってキレイに……」
そう言って空を見上げた瞬間。
その星空の1点、北極星のところから
あぁ、そうだ。思い出した。この風景は……!
「ポラリスはね、この寂しい丘をたっくさんの素敵な何か、キラキラでいっぱいにしたい」
「それは……どうやって」
「わかんない! だけど、ポラリスね、思ったんだ。みんなは色んな物を見て、色んなひとに会って、色んなお話を聞いてるんだなーって」
ポラリスはどこか遠いものを見るような目でそう言った。その視線の先の空には星がポツンと1つだけ浮かび上がって、
「大切な物を増やしたい。それが君の願いなんだね?」
「うん! 手伝ってくれる?」
「もちろん。でも、これは君の物語だ。僕は手伝うことしかできないし、いつでも手伝えるわけじゃない。それでもいいなら、ね」
僕はポラリスに向けて手を差し出した。
そしてポラリスは少し震えながら――その手を、力強くとった。
次の瞬間、僕達はラチ内へと戻っていた。
振り返って早乙女さんを見れば、こちらを不思議がっている様子もない。
(今のは……夢?)
『夢じゃないよ。遊馬おじちゃんが教えてくれたの。
頭の中にポラリスの声が響く。
なるほど、だからか。
「早乙女さん。わざわざトランジットでトモオモテ……特に、オモテをポラリスにさせたのって、そういうことだったんですね」
「その様子だと、招かれたみたいだな。その通りだと言っておこう。どうだったかい、彼女の
「何も聞かされてなかったのでびっくりしましたよ……」
そう答えると早乙女さんは疑問の色を顔に浮かべた。
「うん? 君が彼女に教えたのではないのか?」
「コダマさんから聞いたって言ってますが」
「……失礼。私の早とちりだったようだ。午後は座学にしよう」
そしてその午後は、みっちりとその領域に関するレクチャーを受けたのだった。