活動が終わった後。いつも通り早乙女さんは家族の為に定時退勤し、佐倉さんは解析が終わっていない様子で研究室に急行、北澤さんは西府に用事があって行かなければいけないのだとかで退勤したため、部室には僕と成岩さん、そしてポラリスだけが残っている。
「で、僕達はいつコダマさんの所に行けば?」
「みんな帰ったって言ったらこっち来ることになったからあと数分もしたら来るんじゃねえかな」
ゴンゴン。部室の扉を叩く音が響いた。
早いなおい。流石はノーヴルのトップだ。
僕はそう思いながら扉を開けた。
「……て、え?」
「よー山根。邪魔すんぞ。ちょっとお前らに紹介してー奴がいてな」
扉の先にいたのは、僕の想像していなかったノリモンだった。
「邪魔するなら帰ってください」
「まーまーそんな硬いこと言わずに」
「先週の……たしか、スーパーブライト号だったか。山根の知り合いだったんだよな?」
「一応。購買部の先輩ですが。……ブライトさん、僕達これから予定が」
「ちょっとした顔見せだ、時間は取らせねー」
顔見せ?
そう思ってブライトさんの後ろを見れば、もうひとり、見知らぬ人……いや、ノリモンか? 分かりやすい髪色をしていないのでちょっと判断しかねるけれど、長い黒髪を持つ方が立っていた。
「トレイナーのお二方は始めまして。そして、ご無沙汰しておりますね、
彼女は丁寧に頭を下げながらそう、はっきりとポラリスの名前を呼んだ。
それを聞いた僕達の心の内は……かなり、穏やかではなかった。
ベーテクさんを含む僕達はポラリスと彼女を知らぬ者の両方が同時にいるところではポーラーエクリプスの名を出していない。それどころか、ポーラーエクリプスの名を口に出すこと自体、トレイニングのためにやむを得ない場合と、周りに人がいないことを確認した場合を除いてしていない。
なのに彼女は、ポーラーエクリプスの名を知っている。これはつまり上層部でポラリスの個人情報を見られる権限があるか、それかポラリスが直接教えたかのどちらかってことだ。
「知ってる方?」
ポラリスはふるふると首を横に振った。
その瞬間、成岩さんが即座に彼女に飛びかかる。
「おい。ポラリスは知らねえっつってるんだが? お前は誰だ、一体」
「この姿では始めてお目にかかるので、わからないのも無理がないのかもしれません。今はナマラシロイヤと名乗っております」
「そうか。で、どこで彼女の事を」
「私が車だった頃、最期に向かった工場で解体され、成ったのがポーラーエクリプス号です。私もその後を追って成りましたが、その頃には既に彼女はイノベイテック号に引き取られておりました」
「あっ! あーっ!」
ポラリスは、思い出したかのように突然声を上げた。その声に、成岩さんは思わずその手を離した。
「知っているのかポラリス」
「思い出した。
「今は、ナマラシロイヤです。ロイヤとお呼び頂きたく」
「じゃ、ポラリスのこともポラリス、ね!」
ポラリスは飛び出してナマラシロイヤさんと成岩さんの間に入ると、握手を交わした。
そしてすぐさまふたりはノリモンに成る前の話や、成ってからのエピソードなどで話を盛り上げている。
「なぁ山根、どう思う?」
「多分大丈夫だとは思うけど、後でベーテクさんに電話して一応聞いてみたほうがいいんじゃないですかね」
「確かに昔話噛み合ってるっぽいし、そうするか……」
そう今後の対応を話し合っているところに、何を思ったかブライトさんが乱入してきた。
「安心していーぞ、ロイヤは信頼できる。そもそも俺がJRNに呼んだんだ」
「僕はブライトさんの事を詳しく知ってるからいいですけど、成岩さんはこの前の演習が初対面ですからね? そもそもブライトさんに対する信頼が0だと思うんですが」
「JRNにいる奴は流石に0にはならねえよ」
「あはは、厳しいねー。……さ、ロイヤ、少ししたら戻ろーか。彼らこの後用事あるみたいだし」
「その必要はありませんわ」
その声の元を辿れば、ヌッと、開けっ放しの扉からコダマさんが入ってきたところだった。
そして、その後ろに、さらにもうひとり。
「げっ、
「久しいな、スーパーブライト号」
帝王、ヒカリエターナルさんが続けて、部室に入ってきたのだった。
……なるほどね? 彼がきているってことは、十中八九要件は限定されている。
「人違いじゃーないですか」
「10年破られなかったコースレコードホルダーの顔をこの俺が間違えるとでも?」
「……やっぱりダメかー」
ブライトさんは肩を落としながらそう溢した。なんかとんでもないことが聞こえてきたような気がするけど、ブライトさんってそうだったの……?
「そこにいるのは、ナマラシロイヤ号か。流石は一桁世代、この前のデビューラン、見事な走りであったぞ」
「お心遣い、感謝します」
待って、君もなの?
いや確かにそういうノリモンが連れてきたんならそういう可能性はあるけどさ。
……なんだろう。これから始まる話し合い、既に頭が痛くなるような予感しかしない。
「ねぇ成岩さん」
「なんだ」
「帰っていい?」
「駄目に決まってんだろ、できるんなら俺だって帰りてえよ」
そしてとりあえず7名全員を座らせてから、話し合いが始まったのだった。