ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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5レ中:追いつけば必ずシールドを割れる

 30分程休憩して、早乙女さん達4人が再びシールドを張れる程度には回復したので、今度は北澤さんが鬼役となってもう一度模擬戦闘を行うことになった。

 ルールはかんたんで、15分逃げ切れば鬼の負け、それ以前に他4人のうち4人のシールドを割るか、あるいは3人のシールドを割って最後の1人に接触すれば鬼の勝ちである。そして鬼以外に許された行動は、鬼の攻撃を弾くための防衛的な動きと、逃げることの2つだけだ。

 

 先に僕達追われる4人が入場し、ラッチの真ん中で円陣を反転させたように、お互いに背を向けて立つ。

 

「来た」

 

 一言。左隣の佐倉さんが呟く。鬼役の北澤さんのエントリーだ。

 まずはセオリー通り、入場位置と反対側に全員で動く。追う側に迷いが生じれば、その僅かな時間ですら追われる側の有利になる。それを一番のタイミングで起こすには、ギリギリまで纏まっていたほうが都合がいい。相手が近接攻撃を主体にしてくる時は、という条件はつくけれども。

 だけれど、もちろんこの戦法にも弱点はある。それは相手の判断に迷う時間により時間を稼ぐ戦法なので、鬼が迷わなければ基本的により内側を走れる鬼が有利になってしまうのだ。それは例えば鬼の判断力が優れていたり、あるいは最初から倒す順番を決めていてそれに忠実に従っていたりする時とかだ。

 そして何度か分割と合流を繰り返してわかったのは、北澤さんはおそらくその後者の作戦をとっているということ。試しに4回、2対2ではなく1対3に分かれての逃げをしたところ、3回は3人のグループを追っていたのに、僕が単独になった時だけ僕を追ってきた。

 

「これは完全に山根君を狙っているな」

「ですよね……」

「近接のノウハウが乏しいから、追いつけば必ずシールドを割れる」

 

 なるほど、佐倉さんの読みは間違ってない。他3人は攻撃を弾く術があるのに対して僕にはそういうのは無いから、攻撃を始められてしまえば僕のシールドを削るのが一番早い。

 でも、1つおそらく見落としているものがある。

 

「完全に単独で逃げていいですか」

「あぁ、行ってこい」

 

 遠距離主体で近接戦闘のノウハウがないノリモンやトレイナーは、近接攻撃の攻撃範囲に入ってしまったら絶対に負ける。だからこそ、速さよりも早さが重視される前衛とは違って、逃げ足というのは速くなくてはならない。相手に攻撃さえさせなければ、遠距離も近接とやりあえる。

 1対3に分かれて、北澤さんが僕の方を追いかけ始めたのを確認した僕は、にわかに速度を上げ始めた。追いつかれなければ、攻撃されることは絶対にない。シールドが削られることだって然り。

 

 ふと斜め後ろを振り返れば、僕より1つ内側の周回軌道を走り食らいついてくる北澤さんの姿が。追いつかれたら僕の負けだ。

 だけれど、彼女が内側を走っている限り、僕より相対的に角速度を上げやすいのは事実。かと言って僕が内側に入ったところで、彼女も追ってきて最終的にど真ん中に到達するのもそれはそれで詰みなので、結局一番ラッチよりの外側を角速度で上回りながら逃げるのがベターなのだ。

 ……いや、待てよ。

 左後ろ、じわりじわりと加速してにじり寄る北澤さんを見て、僕はあえて加速をやめた。2人の間の距離はどんどん小さくなっていく。

 

「やっと追いついた、覚悟! 《クレインリバー》!」

 

 肉声が聞こえる距離まで近づき、彼女がショートソードに手をかける。

 でも、距離さえ取れてしまえば関係ない。それは、たとえどちらが前にいようとも。

 

 だから僕は……全力で、ブレーキをかけた。

 

 当たり前だけど、高速域の加速度と比較すれば、圧倒的にブレーキの減速度のほうが大きい。その上に北澤さんが前に出て加速、僕が後ろに下がって減速をしているので、相対的な加速度の絶対値は足し算になり、ぐんぐんと2人の間の距離は広がっていく。

 慌てて北澤さんがけたたましいほどに鳴くブレーキをかけて、ブレーキシューから火を吹いて急減速したところでもう遅い。これだけ離れてしまえば、北澤さんがどの向きに再び走り出すのかを確認してから僕が逃げ始めても、十分追いつかれるまでに余裕がある。

 

 だけれど、そう思って北澤さんを見ていても、彼女はまったく動かなかった。こちらを見る様子すらなく、座り込んでただ自分の足元を覗き込んでいる。

 ……何かトラブルでもあったんだろうか? 少し心配なので、模擬戦の最中ではあるけれど、僕は彼女の方へと駆け寄る。同じ事を考えていたのか、成岩さんも合流した。

 

「……アタシの負けだね。完敗だよ」

「まだ時間は余ってますよ」

「いや、アタシはもう走れなくなっちゃった」

 

 そう言うと彼女は焦げ臭い右脚を上げた。車輪をみれば、その下側にフラット*1ができているし、そして何よりフランジが内側に明らかにずれているのがすぐにわかる。踏面ブレーキの摩擦熱でタイヤが膨張して、半分外れてしまったんだ。

 高速域では非常ブレーキ、つまりは空気ブレーキを使うのは最後の奥の手で、最低でも2ケタキロ毎時までは発電ブレーキで速度を落とせ、というのはクシーさんは口酸っぱく言っていたのだけれど、これを見てようやくなぜそれがいけないのかを理解できた気がした。

 

「自分の足で出場できっか?」

「そのくらいなら、大丈夫」

「ならリーダーと佐倉には俺から伝えとくから2人は先に出てな」

 

 そう言ってコア部へと戻っていく成岩さんを横に見て、僕達はラチ外へと出場した。

*1
車輪の一部が削れてできる平らな傷のこと

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