店長から解放されて、僕とブライトさんは頭を抱えていた。
「どーするかあの莫迦店長」
「ここにまともなこと書いてもねぇ」
正直、シフトの方はそこまで気にはしていない。店長は割と適当に組むので似たような希望がある人は割と纏まって配置されるので、今日みたくポラリスを成岩さんに預かってもらってもらってる日にシフトが入るようふたりして調整すればいいからだ。
だが問題は、このセールである。
まともなことを書くと、確実に採用されずに大喜利が採用されてしまう。そうなると、現場が死ぬ可能性だってある。
これを防ぐにはどうするか。言うのは簡単だ。現場が楽でかつ、より面白い品目を記入し、そしてそれを採用してもらうしかない。かわいそうなことに、在庫管理担当のヤチさんはどっちに転んでもセール開催の時点で死ぬけど……。
「ノベルティの配布……は間に合わんだろーし」
「お菓子並べてPOSから販売実績抜いて公表するのとかどうですかね?」
「んー? ……おい莫迦やめろ。死人が出るぞ」
駄目か。
売上は間違いなく伸びるとは思ったんだけどな。
じゃあ、こうするか。
「カップ麺並べます?」
「同類だぞ、それ。だいたい上限が入荷数になるから出来レースだろーが」
「じゃあお惣菜コーナーの唐揚げにレモンをかけたのとかけてないのを用意するとか、お好み焼きに麺が入ってるのと入ってないのを用意するとか……」
「購入数でバトルさせよーとするのやめねーか?」
とは言っても。だ。
「エンタメ性ないと別のもの採択されちゃうじゃないですか」
「あー、そーいうことか。落ち着こー山根、これは店長の罠だ」
そう言うとブライトさんは僕を持ち上げてから、ドシンとやや強めに地面に置いた。
……罠?
どういうことだろう。
「店長はアンケートのなかから選ぶって言ってたよなー? でもさ、
「……え? でも流石に全部は無理ですよね」
「お前はまだ本気の店長を知らねーからそーいう事が言えるんだ。店長はなー、面白いと思えば不可能を可能にする、それができてしまうんだよ」
……頭が痛くなってきた。つまり、だ。
僕がどんなことを書こうが書くまいが、店長が面白いと思ったことは実行されてしまう。そして店長含めてみんな死ぬ。
「これ僕達死ぬの確定してませんか」
「一緒に頑張ろーな」
その言葉が意味する事を理解できない程、僕は愚か者ではなかった。
……。
「やめますか、考えるの」
「そーしな。なるよーになるしかない」
そして僕達は考えるのをやめた。
しかし、何も考えないでいると直前まで考えていたことを再び考え出してしまうものである。それを防がんとして別の話題をひねり出そうとして――共通の話題にできそうな、同じものに辿り着くのは、極めて自然な流れだった。
「なぁ山根。1つ聞ーてもいーか」
「何です」
「嬢ちゃんってどれくらい走れるんだ?」
「奇遇ですね、僕も同じ事考えようとしてました」
「やっぱりか。とっとと目標ランカーブ作っておきてーんだよな」
「ランカーブ、とは?」
「おーそっからか」
ランカーブというのは、横軸に走行位置、縦軸に速度をとったグラフで、その連続的な変化を見ながら所要時間を検討するのに使うものらしい。まず一番上に基準ランカーブ、所要時間が最短となるよう加減速を行いながら走行した際の最も理想的な曲線を置き、そこから少し下に目標ランカーブを描くのだとか。
「それ、基準ランカーブで走る前提じゃダメなんですか?」
「それができたらレースにならねーよ」
レールレースでは、その規定された走行距離毎に比例して、使えるエネルギー量、つまり電気車ならばバッテリーユニット、それ以外ならフューエルユニットに
だからこそ、加速や速度の維持に使うスタミナ消費量、それに電気車の場合は回生ブレーキで回復できるスタミナ量なんかも考慮して、全体の中で抜いてもいい加速を取捨選択する……。そうして作られるのが、目標ランカーブというものらしい。
なるほど、それは確かに重要なものだ。
「以外と頭脳戦なんですね、レールレースって」
「まーな。ただ、スタミナが切れてもノリモンは車と違って足を動かせる。そこに関しては完全に肉体戦だし、これにかまけてあんまランカーブを検討せずに気合と根性でカバーする奴もまー結構いる。そして何より、レースじゃ他のランナーが一緒に走るし、風だってある。いーか、
「だったら……」
「だからこそ、
そう、目を光らせながら語るブライトさんは……なぜだか、とてもかっこよく見えた。そして、彼が本当にレールレースを好きだという、その想いが強く、伝わってきたのだった。