長く一回、短く二回、そしてまた長く一回。
その出動の合図が、ミーティング中の部室に響いた。
「こちらウルサ……拝承。みんな、出動だ。ポラリスは……」
「今ブライトに連絡とったらOKだとよ。新秋津駅前で待ってるらしいから行ってきな」
「はーい」
その時はまだ、普通の出動だと思っていたんだ。専用列車の乗降場に着くまでは。
「何、3か所に同時に発生だと?」
「えぇ、そうなんです。私も耳を疑いましたが……。なので応じていただいた5つのユニットを3分割して、それぞれの対応にあたっていただこうかと」
「つまりうち1件はユニット単独での対応になる訳だな」
「……可及的速やかに増援を手配しますが」
配置担当が頭を抱えながら絞り出したその言葉に、集まった人たちは少しざわついてから……視線が、ウルサに集まった。そういうことらしい。
「なるほど、ウルサが単独であたろう」
「お願いします。では、残りのユニットは……そうですね、デルピーヌスとレプス、アウリガとエクレウスで組んでいただこうかと。アウリガとエクレウスはバス移動でお願いします」
そして専用列車で輸送された先で、僕達はまたとんでもないものを見る羽目になった。
発生場所が線路から少し離れていたので、最寄り地点からトレイニングし、赤色灯を炊いて急行する。視界の先には、ラッチが見えてはいたのだが。
「だいぶ道路がやられてんな……」
「相当、暴れたっぽい」
「これでよくラッチを張れたわね」
ラッチが開発されて以降はこういった被害は減ったとはいえ、ラッチを張るより前の被害についてはどうしようもない。幸いにも、今回も人的被害は少なく、数名が軽い怪我をしただけとはいえ、壊れた街を見るのはあまり気分のいいものではなかった。
「JRNの者です」
「えっ……これだけ?」
「他の地点でも発生が同時多発しているようで。増援も手配中です」
「それは……厳しいですね」
一度トレイニングを解いてから、現場の警戒にあたっていた神奈川県警の方といくつか言葉を交わした。
その中で、申し訳無さげに警察の方が爆弾を投下した。
「その……申し上げにくいのですが、2名ほど、巻き込んでラチ内に」
「何だと!?」
早乙女さんが柄にもなく焦りの声を上げ、この場に緊張が走った。僕達は、その言葉の意味することがわかるから。
大禁忌だ。ラッチを超えられるのは、トレイナーがトレイニングをするか、それを解くタイミングのみ。だからこそ、クィムガンが閉じ込められるがために人的被害を抑える手段として浸透した。
だが、
「なぜすぐに再展開をしなかった」
「当方もラッチを張ってすぐに開こうとしましたよ!
「ラッチを張ってすぐに、ラッチコアから出たのか……」
ラッチを開けることができるのは、エキステーションに誰もいないときのみ。つまり、そのその一瞬の間にラッチコアから何者かが外に出てしまったことを意味する。
巻き込まれた者がクィムガンから距離を取ろうとして出てしまったのだろうか? 何れにせよ、中で最悪の自体が起きていないことを願うしかない。
「分かった。クィムガンの情報はいい。直ぐに入るぞ」
「ですが」
「我々は様々な状況に対応できるよう、訓練を積んでいる。行くぞ」
そう声を荒げながら入場する早乙女さんに続いて、全員でラチ内へと入場すれば、感じる。
……違う。これまで対面してきた、どのクィムガンとも。
「なんだ、これは」
長年やってきた早乙女さんですら違和感があるようで、否応なしにこれが特異的なものであることを窺わさせられる。
そしてそのクィムガンは……クィムガンなのか、これ?
「成岩君と山根君は取り残された者の捜索を。それと……とりあえず、軽く刺激を与えて反応をみようか」
「アタシがやる、《ONE》」
成岩さんは向かって右に走り出した。ならば僕は左を確認しよう。
そう思って出発前に僕がポラリスをトモオモテに纏って走り出す横で、北澤さんがそのクィムガンを
しかし、ここにも異変。なんと触れたところがぽろりと崩れた。つまり、そこにシールドがない。
『何だ、これは……』
『リーダーも、わからない?』
『あぁ。念の為、写真を記録しておこう』
巻き込まれた方を探す僕を置いて、無線の奥からは不穏なやり取りが聞こえる。場数を踏んでいる
『各局、こちら成岩。ラッチコアにて巻き込まれたノリモン1名を視認。クィムガンの危険は直ちには無さそうだが、接触、保護する』
『こちら早乙女より成岩へ。セチ、ヨロタム』
……とりあえず1人は見つかったようだ。だけど、左側を右回りに半周しても、それらしき人影は見当たらなかった。
それを報告しようと無線機に手をかけたとき。
『成岩より各局へ、もう1名だが、保護した者より所在情報提供あり、念の為警戒しつつラッチコアに集合されたく』
成岩さんから、再びの情報がもたらされたのだった。