ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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5レ後:異なる失敗はいくら重ねたっていい

「北澤君。君には2つ言っておかなければならないことがある」

 

 全員がラッチを出て部室へと戻るなり、早乙女さんはそう呼びかけた。

 

「1つ。全体を見なさい。山根君を追うあまり、私達3人がコアで休んでいても振り向きもせず、そのことに気付きすらしていなかったのはよろしくない」

 

 おい。

 僕が全力で逃げていたのに、3人は休んでたんかい。たしかに追われてたの僕だけだったっぽいけどさぁ。

 

「2つ目。諦めることを覚えなさい。相手の土俵で無理に戦い続けるべきではない。山根君やクシー号はロケットだ。あそこは状態を維持し続ける事に関しては非常に長けている。一見ノーヴルの領域に見える高速走行とて例外ではない。だから君は、追いかけっこに発展した時点で他の手段を講じるべきだった」

「はい……」

「ただ、君のスピードも決して悪くはない。並大抵のクィムガンなら追いつくことは簡単だっただろう。相手が悪かった、そして経験が浅くてその判断をまだできなかった、それだけの事だ。訓練を積めばどうにでもなる。それに将来的には、彼とは逆にレンジの長いトランジットをするという手段だってある」

「……はい!」

 

 北澤さんの声に張りが戻る。

 それにしても。僕達は一番外側の軌道を走っていたから、結構早乙女さんがいたコアからは離れていたはずなのに、よくそこまで監視できてるよなぁ。

 そう感服していると、早乙女さんは何か言いたげにこちらを向いた。

 

「それから山根君。君にも1つ。事故を誘発するような走りはすべきではない」

 

 事故を、誘発……? そんなことしたっけな。

 強いて言うならば。

 

「北澤さんが恐らく慣れていない速度で逃げたことですか?」

「違う。それが危険だとしたら誰も逃げられなくなるぞ。私が言いたいのは、あの追いつかれようとした場面でのブレーキだ」

 

 あのブレーキ、そんな危険な行為だったのか? そんなに危険な行為じゃなかったと思うんだけどなぁ。

 そもそもあの時は僕と北澤さんは違う軌道にいたし、あそこで停まっても彼女がそのまま走り抜けることができることは確認してからブレーキをかけた。

 進路の妨害すらしていないこれで危険だというならば、例えば複々線区間で少しだけ前を走る各駅停車が駅に停まるために減速するだけで危険だと言ってるようなものだ。そんな莫迦な事があるのか?

 そう伝えると、「君の意見はわかった」と納得していなさげに返される。

 

「じゃあ君はなぜ北澤君は非常をかけたんだと思うかい? 言っておくけれど、君を追うのが目的ならば、止まったあとすぐに折り返せない非常は使わないはずだ」

「それは……」

 

 あれ、なんでだ?

 言われてみれば、あそこで非常ブレーキをかけるのはおかしい。非常ブレーキを使ってしまったら、ブレーキを緩めておかせるための空気が全て抜けてしまうから、止まった後に再び空気を充填し終わるまで走り出すことはできない。僕を追いかけたいという状況において、それはかなり致命的なはずだ。

 

「あの……」

 

 じゃあ、なぜ北澤さんは非常ブレーキを?

 僕がブレーキをかけ始めた段階では、僕の方が前にいたし、声が直接聞こえるほど近くにいたんだ。僕が空気ブレーキを入れればあのけたたましい音で彼女だって気づくはず。逆説的に、僕が空気ブレーキを使っていないことだって、向こうからすればわからない訳がない。

 

「非常ブレーキって、止まった後も動けないの?」

 

 ……え。

 その申告に、早乙女さんもきょとんとしていた。

 

「北澤君。君はオトメ号から非常制動と常用制動の違いについてどう聞いてるんだい?」

「普段使うのが常用ブレーキで、どうしても止まらなきゃいけないときとか、動いちゃいけないときとかに使うのが非常ブレーキって」

「成程。今までに非常を扱ったことは?」

「動かないためには何度か、でも止まるのに使ったのは初めてかな……」

 

 情報を整理すると、どうやら北澤さんは非常ブレーキがすぐに緩められないことを知らなかったようだった。早乙女さんは当然彼女がそれを知っているものだと思っていたから、わざわざ非常ブレーキを使ったことに特別な意図があるんじゃないかと推定していたんだろう。そしてその原因が僕の動きだとも。

 だけれど実際はそうではなく、彼女は非常ブレーキをただの強力なブレーキだと思っていたから、早く止まりたい、その一心だけで非常ブレーキをかけてしまったようだった。

 

「ならこの場で伝えておこう。そもそもクィムガンの攻撃を基本的に全て回避することが求められるトレイナーにとって、ラチ内で非常は使うべきではないんだ。もう理由はわかるね?」

「ええ、もちろん」

「理由がわかったのなら、同じ事を繰り返さなければいい。怪我だとかをしないのであれば、異なる失敗はいくら重ねたっていい」

 

 優しくも厳しい言葉だ。暗に同じ失敗はするなって言ってるようなものだし。

 2人の話はそれで終わったようで、北澤さんはずれたタイヤを嵌め直しに作業スペースへと向かっていった。

 

「すまんな、山根君。私の勘違いだったようだ」

「いえ、お気になさらず……」

「ただこれだけは言っておこう。前触れもない急減速なんてのは、特に後ろを走る者からすれば恐怖だ。するのであれば、後方確認を怠るべきではない」

「そこはきちんとやりますし、さっきもやってましたよ」

 

 一応の念押しだよ。早乙女さんはそう答えると、部室のパソコンへと向かって他の作業を始めたのだった。




【キャラクター紹介:#4】
北澤(きたざわ) 百合(ゆり)
・誕生日:6月25日
・出身地:東京都
・所 属:パレイユ/JRNウルサ
・キール:オトメ

 JRNに入ってから数年の、快活な新人トレイナー。
 根はしっかりとしているけれど、すこしだけ天然。
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