「お、どうした名松」
「どうしたも何もユニットの消耗品買いに来たら君が店員と揉めてるのを見て、急いで部室に備品置いて戻ってきただけっすよ」
「なんか綾部がお騒がせしたみたいで……」
「いや、むしろその店員の方が君で納得……いや、安心したってところっすね。人柄わかってない人には喧嘩になるようなふざけ方はしないチキンっすから」
酷い言われようである。実際、気のしれてくるまでは、ふざけはするけれど意味もなく直接的にも間接的にも被害を与えるようなことはしない。そしてそのしきい値の見極めが済むと、そのギリギリのラインを的確に攻めてくる。そんな奴なのだ。綾部という男は。
というか、この程度の最低限の良心がないような人とはいくらスクールの同期という関係性があったところで、3年間も仲良くなんてできないし、ましてや500日間わざと連絡断って再会の約束なんて取り付けられやしない。そういった面では、お互いに信頼している関係だ。
「流石に初対面の奴に殴りかかったらやべーやつだろうが」
「えっ、もしかして自分がやべーやつじゃないと思ってるんすか」
「いいや全然」
そしてこの、僕たちに話しかけてきた名松君もまた、僕達と同じスクールの同期だった人だ。スクールの頃はそこまで僕達とは交友は深くはなかったけれどね。
「いつの間に君たちそんな仲良くなったのさ」
「そりゃ同期でノーヴル入ったのこの2人だけっすからね。こっちからしたら君があの委員長と同じユニットにいるって事の方が驚きっすよ」
「そうかな」
「そもそもあの時JRNに入った17人のうち、既にユニット入ってるの君たちと僕との3人だけじゃないっすか。それで最初の2人が両方ウルサに入って、それもスクールの時にそんなに絡みなかったのがってなったら流石に」
言われてみればそうか。そもそもキールが見つからないとユニットには入れない――というかそもそもユニット以外の活動含めてJRNの中でまともに稼げない――し、ウルサも含めて教官役に転向、派閥の方に注力、地方支局への出向、退職などの理由で欠員が出ない限り新しいメンバーを募集すらしないユニットだって少なくはないわけだし。
……ん?
「あれ、今しれっと君もユニット入ってるって」
「こいつこの前カリーナに入ったらしーぞ」
「なんで君が言っちゃうんすか? ……そういうことっすから、出動被ったときはよろしく頼むっす」
ってことはあのカリーナノーヴルの人がユニットを去ったのか。
詳しく聞けば、どうやら来月頭付けで教官に転向する都合で名松君が入ったのらしい。
「その時はこちらからも宜しく。確かカリーナ・ユニットとは前に1回出動被ったことがあった気がする。高山さんのとこだよね」
「そうっすね、あの時も既に出入りはしてたんすけど、戻ってきた皆さんから君や委員長のこと根掘り葉掘り聞かれたっすよ」
「そんな聞かれるようなことしたっけ……」
「2人揃ってトランジットしといてそれいうんすか?」
「それはただ単に早乙女さんの方針だって」
実際、早乙女さんがそういう戦略を得意としているからウルサがそういう手に出がちなのであって、決して僕達が凄いという訳じゃない。のだけれど、この前瓜生先輩からそこを誤解されることになる理由を聞いてはいるんだけど。
というのも、先輩のいるレオミノルを含めて、どうも他のユニットではトランジット・トレイニングは数年かけてキールの方を熟練させてから手を伸ばすような扱いをされているものらしい。なのでまだJRNに入って2年目の僕達がトランジットをしている事自体がかなり特異に映るのだとか。早乙女さんや佐倉さんはそんなことを一言も言わずに僕達にトランジットを勧めてきたけれど、それはウルサならではのことだったのだ。
「普通ユニットの外の人からの指摘で気づかないすか」
「僕のロケットでの所属、ここだからね?」
「あー……」
と、その時。
僕と名松君との間を、ゴボウが遮った。綾部だ。
「2人とも俺ちゃんのわからん話しやがって。いいなー早く俺ちゃんもユニット入って活動してーな」
「君はまずキールをみつけるところからっすよ」
「見つかってはいるぞ。まだトレイニングできてねーけど」
「そりゃあの足じゃむりだよ」
「だからこそ今頑張ってるんだろーが。待ってろよ、2人とも。遅くとも来年中にはユニット入って現場でもバリバリやってやるから」
うおっ、この急な現実的な期限の設定は、綾部が本気で言っている時だけだ。
こういうときの綾部は、本当に強い。実際彼が現実的なことを言った場合でそうならなかったことは今まで片手で数えられるほどしかない。なんだかんだいって根は真面目な奴なのだ。
「待ってるっすよ」
「綾部ならどんなクィムガンでも対応できそうだもんね」
「おぅ……っ待て山根、そりゃどーゆー意味だコラ」
どういうも何も文字通りだけど。
自分から大波乱を起こすような奴は、そういったことに対する対処法を考えてからやってるわけで、結果として突然のトラブルに上手く対処できたりする。だからこそ、何が起こるかわからない現場では
「僕はね、君を評価してるんだよ。だから、待てる。君が活躍するのを」
「そりゃどーも」
それから急に多客の時間が訪れてヘルプに駆り出されるまで、僕達は雑談に花を咲かせていたのだった。