ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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10レ前:仮説

「……という訳で、私はこっちを調べたい」

「なるほどのぉ。確かに、これは」

 

 鳥満博士の研究室では、恒例のゼミ発表が行われていた。

 スクリーンには、佐倉の撮影したあるクィムガンの最期と(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)映像が映し出されている。

 

「次、参考映像。ヤチヨダイスカイ号のやつ」

「あぁ、ヤッちゃんのアレね……」

 

 切り替わった映像では、象牙色の車体に重機が差し込まれようとしている。そしてそのバケットの先が差し込まれた瞬間――車内が光り、窓が黄色に染まった。

 重機を操る作業員は一度手を止め、一度降りて車に近寄った。そして光が収まったことを確認してから、車端部の梯子をよじ登って車内に入ると――

 

 ――その作業員は、少ししてひとりのノリモン、ヤチヨダイスカイ号の手を引いて出てきたのだった。

 そしてその後、もう一度スライドが切り替わってクィムガンの映像に戻る。客観的に見ても、2つの動画には確かに類似点が認められるだろう。

 

「確かにこれが事実なら、クィムガン対策の方針が変わるかもしれない。でもなサクラ。発生そのもの自体は俺達の専門外だ。発生学の安慶名先生のところに情報提供だけして丸投げするべきだと俺は感じる」

「……っでも」

 

 ナリタスカイは、そう佐倉を宥めた。

 JRNには多くの研究者がいて、そしてそれぞれの得意とする分野が異なる。ここ鳥満研究室の得意分野は超次元で、発生学ではないのだ。

 ならば発生学を得意とする者にタレコミを流すなり、あるいは研究を依頼すればいい。それが、スカイの考えだった。

 

「気持ちはわかる。だがお前だって安慶名先生からすりゃ立派な研究対象になりうる訳だ。ガス抜きのために映像と情報だけ売るなり投げつけるなりするほうが身のためでもあるんじゃないか」

「私もそう思うのう。安慶名さんのとこは間違いなくJRNで一番ノリモンの発生に明るい研究室じゃ。既に持ち込んでいるものも合わせて、彼女の方に持ちこんだ方が丸いじゃろう」

「でも、これが私と似てるとしたら?」

 

 佐倉のその言葉に、ふたりは一度顔を見合わせた。

 

「……ほう?」

「この後ラッチを開けに出場したとき、外にいた警察に聞いた。中(・)に(・)閉(・)じ(・)込(・)め(・)ら(・)れ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)の(・)は(・)、ノ(・)リ(・)モ(・)ン(・)か(・)ひ(・)と(・)り(・)と(・)人(・)間(・)が(・)1(・)人(・)だ(・)と(・)。でも、私達が見たのはこのクィムガンの中から出てきたノリモンと、もうひとりのノリモンだった。それは間違いない」

「おい、それって……」

 

 スカイは慌てたように立ち上がる。もし彼の懸念が正しいのだとすれば、それは。

 言葉が詰まったスカイのかわりに、もうひとり同席していたノリモンが佐倉に問うた。

 

「クィムガンが成(・)る(・)プ(・)ロ(・)セ(・)ス(・)を(・)再(・)度(・)踏(・)む(・)こ(・)と(・)に(・)よ(・)っ(・)て(・)ノ(・)リ(・)モ(・)ノ(・)イ(・)ド(・)に(・)戻(・)っ(・)た(・)訳(・)で(・)は(・)な(・)く(・)、そ(・)の(・)巻(・)き(・)込(・)ま(・)れ(・)た(・)人(・)間(・)を(・)利(・)用(・)し(・)た(・)。そう言いたい訳?」

「そういう事。流石ナリタ姉さん」

「だが待ってほしい。ならば今(・)ま(・)で(・)観(・)測(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)ことに無理がある」

「いや、観測されてる事象の、恐らく裏側にある。どういうプロセスかは解らないけど、この録音してくれてたものに、引っかかるものがある」

 

 佐倉は続けて音声ファイルを再生した。成岩が念の為作動させていた、ボイスレコーダーに記録されたジュゥンブライトの発言だ。

 

『あぁ。ここにはもうクィムガンはいない。いるのは君たち5人のトレイナーと、僕とこの子の2人のノリモンだけさ』

「これは、いたはずの人間とクィムガンが消えて、ひとりのノリモンになったことを示唆する発言」

「流石に無理があるんじゃ……」

「次」

『俺は暴走したクィムガンのシールドを叩いて割る直前まで持っていくだけで精一杯だった。あとは全て、この子がやったことだ』

「そしてこれが、その行為の主体が元クィムガン側にあったことを示唆。そして、それを起こすためにシ(・)ー(・)ル(・)ド(・)を(・)割(・)っ(・)て(・)お(・)く(・)必(・)要(・)が(・)あ(・)っ(・)た(・)」

 

 ピクリ。鳥満の眉が動いた。

 

「よもやSバーストを疑っておるな」

 

 Sバーストが起きれば、行方不明者が出ることも少なくはない。だが、単純に行方不明として処理されたその裏で行方不明になった者が別の者に変質させられてしまっていたとしたら?

 見つかるわけがない。仮に姿かたちが完全に異なってしまった後で、自分がその行方不明になった者だと主張したところで、傍から見ればただの狂人に過ぎない。それが信じ受け入れられるわけもない。

 

「ラチ内に入った時から、不思議な感触があった。光りだした時に何かおかしいと思って念の為私(・)の(・)《イミグレーション》でモニタリングしてた」

「しとったら……?」

「流(・)れ(・)込(・)ん(・)で(・)き(・)た(・)。何か、大きなもの――コンマ06立米くらいのものがひとつ、ラチ内に」

 

 それは、超次元方向からラチ内へとその物体がもたらされた事を意味する。

 

「60リッター……小柄な人間やノリモンの体積に近いな」

「この前の山根。Sバーストの後どうなってた?」

「どうなってたって、た(・)し(・)か(・)超(・)次(・)元(・)に(・)飛(・)ば(・)さ(・)れ(・)て(・)か(・)ら(・)戻(・)っ(・)て(・)き(・)て(・)……!」

 

 そこまでいって、スカイも気がついた。ラチ内という領域(ゾーン)から外に出て、戻ってきたという意味に。

 そして佐倉はスライドを最後の1枚に切り替えた。

 

「同(・)じ(・)か(・)、似(・)た(・)こ(・)と(・)が(・)起(・)き(・)た(・)、私はそう思う」

「なるほどのぉ。つまり、この事象を解明することが、山根君の事象の解明にも役に立つ。そう考えておるのじゃな」

「うん。そして確かに、この件は安慶名博士の力を借りたほうがいい。だけど、手を離すべきじゃない。私は」

 

 プロジェクターが暗転し、佐倉は立ち上がった。

 

「私達鳥満研と安慶名研との共同(コ)研究(ラボ)を提案する」

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