「先ほど安慶名さんから連絡があっての。どうも向こうからもこちらに協力してほしいことがあったようじゃ」
「やった」
鳥満はミーティングで、安慶名の協力が得られたことを報告するした。ラボのメンバーには安堵の色が浮かぶ。
「初回会合の日程の調整じゃが、向こうよりいくつかの案をもらっとるゆえ、各々の予定と照らし合わせて決定したい」
「わかった、確認しておく」
「後は本部から長崎の件の中間報告の催促が来とるが……。佐倉、ここに向ヶ丘の件を書いて上へと報告して大丈夫かの?」
「問題なし。JRN全体に公開しうる報告書には書きたくなかっただけ」
「ならよし、連絡事項は以上じゃ。ところでナリタ、調査の方はどうなっとる」
ナリタスカイは、待ってましたと言わんばかりに紙束を手に立ち上がって、報告を始めた。
「まず、この前立てた仮説なんだけど、うん……」
「仮説は棄却された」
言葉を濁すナリタに、佐倉は悪気もなくそう言った。
「ちょっとサクラちゃん? 私が言う前に言わないでよね」
「だってこの流れじゃ、時間かかる」
「それも成果の1つじゃろうに」
途端に苦い顔で対応するナリタ。
実際、山根と宿りはじめのノリモンが類似しているのではないかという彼女の仮説は、観測しながら軽自動車にノリモンを宿らせることによって完全に棄却されてしまったのだった。故に、彼女は別のアプローチをとった。山根真也という人間を構成するものに。
「少し踏み込んだ調査として、彼の血縁者を探ってみたのよね。とりあえず四等親まで」
「なるほどの。その中にやり手のトレイナーなど、関与しそうなことは」
「確認してきたわ。でも、わからないことだらけ。なにしろ彼の曽祖母、並びに祖父。その1人ずつは、共に出生届に母親の記載がなかった」
「そんなことが、ありうるというのか?」
「片や戦時中、片や戦後の混乱期――ありえない話じゃないわ」
ペラリ。ナリタは手元の資料のページをめくりながら口角を上げた。
「でもね、おもしろいことがわかったの。この2人、
「ってことは、彼の父はいとこの娘と結婚したってのか?」
「そうなるわね。もっとも、本人がそれに気がついてるかどうかは怪しいけど。何せ弟さん、つまりの彼の祖父が生まれてまもない昭和21年の春に、2人とも別の家に養子に出されていたから」
この報告を聞いたとき、ラボの全員が一度はこう思った。
――怪しい、と。
だが。
「いや、少し待たんか。
「でも、年上の方の話を聞くと、ただ人間との意思疎通ができなかっただけで
はじまりのクィムガン、ルースの落し子は一般的にはノリモンの始まりの事件と混同されている事象だ。たしかにそれが何らかの引き金を引いたことは疑いようのない事実ではあるが、そもそもクィムガン自体が無から発生するものではない。逆説的に、クィムガン自体の研究が進んでいったことによりルースの落し子以前から
そして、我々は古より存在するノリモンを――現在のそれと同じように車から独立した実体を持つ存在であるかは議論の余地が残されているが――知っている。五元神だ。かれらはもともとは19世紀の機関車に由来するノリモンが神性を得たものとされている。
「うむ……。観測し得ぬこととその存在自体が無いということは違う。もしやすると、成る事象やトレイナーに準ずる存在は、はじまりのクィムガン以前にもあったのやもしれぬが、それを立証することは困難じゃぞ」
「そうかしら。日本の初期のノリモンってみんな船舶局じゃない? 古くから信仰されている船霊信仰に通ずるものがきっとあると思うのよね」
船霊とは、船の守護神としてほぼ全国的に船乗りや漁師たちに信仰されている神霊のことで、船に宿るとされている。そして全国的に船霊が女神とされていること、船舶から生じたノリモノイドのほぼ全てが女性の外観を有することから、この2つの関連を疑問視する学者も多くいる。
だがしかし、鳥満は過去にこの件を調査していた。
「それは昔に私も疑問に思って調べたことがあったのじゃがな。ただ単に輸送力が慢性的に不足しておった当時の国鉄で、実験に使えるほど暇を持て余しとったのが、元関釜連絡船の船舶だけだったというしょうもない理由だったのじゃよ……」
これは船霊とノリモンの関連を全て否定する結果ではなかったが、初期のノリモンがほぼ全て船舶であることを以てその起源がそうであるという仮説を棄却するのには十分なものであった。
「あら、そうなの。でも話を戻すけど、この人物がはじまりのクィムガン以前のトレイナーだったのじゃないかって方向も含めて、私はさらに調査を進めたいと思う。どう考えてもこの夫婦、怪しいもの。それ以外の血縁者に気になる点はなかったしね」
「確かにそれはそうじゃが、必ずしもそこだけに原因があると認められる訳ではないことは忘れてはならんぞ」
「わかってるって」
言葉は厳しいものの、鳥満はその報告と研究自体が必ず彼女の役に立つことを疑ってはいなかったのだった。