ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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11レ前:山百合ステークス

『残り5マイルを切り、カツタダイスカイ、今先頭で経堂を通過! 引き続き上り緩行線、リードはおよそ5チェーン! 2番手には下り急行線をナマラシロイヤが追走、差がなく上り緩行線にシナノグリーン、上り急行線にはキリフリが粘っている』

 

 土曜日の午後。『嬢ちゃん連れてウルサに行くから』とだけ連絡をよこしたブライトさんは、やってくるなりモニタに端末を繋いでインターネットライブ配信を流し始めた。

 映されているのは今小田原線で行われているレースだ。どうやらロイヤさんが走っているのだとかで、見る限り現時点で前から2番目とかなり善戦している。

 

「お前は現地行かなくていいのか?」

「心配してねーからな。まー見てな、代々木八幡で全てが決まる」

『先頭は梅ヶ丘を通過! 後続も続くように地下へと入ってゆく』

『ここから2層の地下区間、深い急行線と浅い緩行線に分かれますからね。コースの選択も結果に影響しますよ!』

 

 先頭のカツタダイスカイ号はそのまま緩行線に入り、ロイヤさんは急行線へと突っ込んでゆく。

 そして中継カメラが少しだけ後ろの様子を映してから、先頭ランナーが東北沢を過ぎて地上に戻ってくる頃にそちらへと戻ってきた。

 

『おぉっとぉ! ここでナマラシロイヤが上がってきているぅ! 先頭カツタダイスカイとの差はおよそ2チェーン』

『下り坂で大きく増速して前に出られたみたいですね』

『そしてカツタダイスカイ苦しいか速度が落ちている、まもなく上原場内、緩行線から急行線へ転線差は1チェーン弱、しかし下り急行線ナマラシロイヤは直進スピードは衰えない! そのまま上原を通過』

「ロイヤすっごーい!」

「必然だ。多摩丘陵の大量のビミョーな曲線ではブレーキを扱わないランカーブを渡してある。そして再加速で消費せず温存したスタミナを登戸の小さいカーブの後から爆発させるよーにね」

 

 ブライトさんは得意げにそう言った。

 そして彼が言った通り、代々木上原を過ぎて山手通りの下に入るところで、ロイヤさんは先頭に並ぶ。

 

『続いて八幡通過、rの大きい下り線、先頭は変わってナマラシロイヤ! ナマラシロイヤが前に出た、ラストワンマイル入って参宮通過、先頭はナマラシロイヤ』

『勝負はまだわかりませんよ! ブレーキングテクニックによっては大きく差が出ますからね』

「舐めた解説じゃねーか。ロイヤのブレーキは俺より鋭いんだぞ」

「落ち着け。ただ単に一般論言ってるだけだろうよ」

『ナマラシロイヤはここで抜け出してぐんぐん差を広げてゆく。その後ろからはカツタダ……いや、シナノグリーンだ、シナノグリーンが猛烈に上がってきて2番手、その後ろキリフリが追走、苦しいかカツタダイスカイは速度が落ちていますがもうゴールはすぐだ。そして先頭2者とも速度を落とし始めながら南新宿を通過、踏切を超えて新宿場内、外側地上を選んだ! カーブ外側シナノグリーンやや不利か、しかし内側ナマラシロイヤは差を詰められ、だが届かない、届かなーい! およそ半チェーン差で新宿入線、だがスピードが速い! 後はお互い停まるだけ、停まれるのか、停まれないのか!?』

 

 小田原線の新宿駅は上下2層で、走行距離の都合から地下ホームはゴールラインから車止めまでが短いのが特徴だが、逆に地上側が特に長いという訳でもない。そしてホームはどちらも櫛形ホームで、車止めに激突すれば真っ正面からその情けない姿が撮影されて、そしてアップロードされたのち決して消えることのないインターネットタトゥーとなる恐ろしいゴール駅なのだという。

 

「一桁世代が俺のよーなそれ以前の奴と決定的に違うのはブレーキの強さだ。あの程度の速度じゃどっちも車止めまでは行かねーよ」

『停まったぁ! 勝ったのはナマラシロイヤ、51マイル20チェーンを走りきり連勝! そして2着にはシナノグリーン』

「ほらな」

「いや実況ってのはそれがわかってても最後までわからないふりをするのが仕事なのでは?」

「そうでもねえぞ」

 

 そうなのか。そうかなぁ……?

 

「で、なんでふたりはわざわざ中継見るの一旦やめてまでこっち来たんだ」

「いやもう来週の月曜日がポラリスのレースだろ? それに向けた作戦会議よ。さて嬢ちゃん、これでランカーブの重要性がわかっただろ?」

「うん。カツタダイスカイさん、東北沢でライト暗かった」

「スタミナ切れはレース終盤には珍しいことじゃねーけど、おかげでロイヤが追い抜けた訳だ。たぶん戦術としてはあそこから先は代々木八幡のカーブもあるから速度を出す必要がねーだろーと捨てたんだろーな」

 

 なるほど。そういうことか。

 ポラリスはどうもスピードを抑えるということをせずに出せるときにどこまでもスピードを出してしまう傾向があった。そんなことしたらカーブとかに突っ込んだとき大変じゃないか? とも思うのだが、彼女の場合ただでさえブレーキ力がかなり強いのに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から、特に問題にはならなかったのだ。

 だが、スタミナが制限されるレールレースでは話が別だ。特にポラリスのフューエルユニットはレース中に残量を回復させる術がない。そうなるとここ一番というところで加速できなくなるおそれがあるわけだ。

 

「いーかい嬢ちゃん。レールレースってのはな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()辿()()()()()()()()()()()。これでわかったろ? 時にはあえてスピードを落とすことだって必要なのさ」

「うん!」

「つーわけで、ここに今度のランカーブを持ってきた。一応皆で確認しておこーと思ってな」

 

 その言葉に目を輝かせるポラリスを横に、ブライトさんはその巻物のようなランカーブを机に広げたのだった。

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