ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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11レ後:鉄道の日記念メガループ

 千葉県千葉市中央区今井、蘇我駅。

 3・4番ホームでは、これから始まるレースに参加する者や、その見送りの者が集まっていた。

 

「オイオイオイ」

「死ぬわアイツ」

 

 そんな声で話す彼らの目線の先にいるのは、真っ白な装いに青の2本線。そう、ネオトウカイザーがレース前の糖分補給をしている。カイザーが食するのは三重県で生産されているあんこをふんだんに使ったお菓子で、またカイザーの好物でもあった。

 そんな彼を眺める者はまたひとり、ふたりと増えてゆく。そしてそれに気がついたのであろう、ついにはベテランのトレイナーまでもが彼の補給に反応した。

 

「ほう、12個入りレッドフクですか……。たいしたものですね」

「どうしても頑張らなければならないとき。あなたのパフォーマンスを、ジャパニーズ・エナジーオカシ・レッドフクが最大限まで高めてくれる。カロリーと炭水化物を同時に手早く摂取できるレッドフクはアスリートも好むエナジーフードである。なぜなら、レッドフクもまた足のはやいアスリートだからだ」

 

 かの【帝国(セントラル)】の期待の新人のデビューランということもあり、カイザーの周りの人だかりはどんどん大きくなっていく。

 そんな中、誰にも気づかれぬように一組のトレイナーとノリモンがエントリー手続きを終え、静かにホームに降りてきていた。身に纏うのは3番線、3号車、4番扉の位置からのスタートを示す番号の記されたゼッケンだ。

 

「緊張してるか? ポラリス」

「ぜんぜん」

「ならいい。思いっきり、走ってこい。東京で山根とブライトが待ってる」

「ロイヤは?」

「船橋法典のエキセンのチケット取れたってことでギャラリーに混じってるんだとよ」

 

 そしてしばらくすると、見送りの方々はホームから出るようにアナウンスが流れ、成岩はコンコースへと上がっていった。それから各ランナーは駅係員に誘導されて、各々のスタート位置のホームの端、黄色い点字ブロックの上に整列する。

 

 鉄道の日記念メガループは、10月第二月曜日スポーツの日に行われる、関東で最も規模の大きなワンウェイレースの1つだ。特に同時に走るランナーの数は日本で最も多く、プロから16枠、アマチュアから64枠の合計80名。これが一斉にスタートするのだから、スタート区間の最初の2マイルは位置取り争いが非常に激しくなるレースだ。

 蘇我を出てから千葉みなと・二俣新町・新浦安・東雲・東京貨物ターミナル・小田栄・尻手・矢向・北府中・新小平・西浦和・東浦和・新松戸・市川塩浜・新浦安・潮見を経て、東京までの115マイルの長丁場。

 このコースは特にきつい勾配があるわけではないし、カーブだって南武線区間を除けば比較的緩やかだ。その殆どの区間が昭和後期の貨物線として設計されたため、その区間は特別な例外を除いて10‰以上の勾配はない。

 だが、最後の最後、新木場から八丁堀にかけては連続した30‰以上の急激な下り勾配がお見舞いされる。これにより意に反して増速して、ブレーキが間に合わずに東京駅の車止めに激突するランナーが毎年出ているのだ。

 

 その東京駅にいる山根から、ポラリスの脳内に呼びかけがあった。オモテをトランジットしてモヤイを通じて呼びかけているのだ。

 

『ポラリス。今だいじょうぶ?』

『うん! もうすぐ入線!』

『こっちでも実況中継を見たりして情報は確認しておくけど、なんかあったら遠慮なく言ってね? ゴールまでこの状態にしておくから』

『うん、ありがと』

 

 その軽いやりとりが終わったあと、少しの間をおいて接近チャイムが鳴った。続けて放送がランナーの名前を一人ずつ呼び上げる。

 

『3番線1号車第1扉、アオキジェット。第2扉、ノーザンフィールド……』

 

 呼ばれた者は線路を挟んだ反対のホームの観客に一礼をしてからホームから降り、入線してゆく。

 

『第3扉、スカーレットセイロン。第4扉、4番線2号車第4扉、ネオトウカイザー。以上16名、プロランナー登録のされている選手です』

 

 カイザーが飛び降りてそのまま入線すれば、向かい側5番ホームより歓声が湧き出した。

 

『続きまして3番線3号車第1扉、デンエントシリンカン。第2扉、ラピッドダイヤ。第3扉、ヨヨギドリーム。第4扉、3号車第4扉ポーラーエクリプス』

 

 そしてポラリスの名も呼ばれ、彼女はホームから線路に飛び降りた。向かい側2番ホームの観客からは、どよめきの声が聞こえる。

 

「なんだあの子」

「ちっさ」

「わかることある?」

「全然わからん」

「足回りにくらべて体格が小さすぎる」

 

 いくらアマチュアランナーとはいえ、ポラリスほどちんちくりんなノリモンはそうそういない。それ以前に、ノリモン全体を見回しても稀だ。にもかかわらず、彼女の足回りは対照的に一般的なノリモンと比較してもかなりゴツい。

 その奇妙な姿は、観衆の気を少し引くには十分すぎる要素だった。多くの者の中では変な子もいるんだなー程度の扱いであるが。

 

『第3扉、モンジュ。第4扉、4番線10号車第10扉、イーチバター。以上合計80名、只今入線しました。駅係員は入線確認を行ってください』

 

 2つの号車につきひとりの係員が、それぞれのランナーに目立った外傷などがないかの目視確認を行い、合図灯で前の係員に準備よしの合図を送る。それが一番前まで繋がれば、そこにいた別の係員が緑旗を挙げ、3番線・4番線ともに掲げられたのが確認されてから。

 

 発車のベルが、鳴り始めた。駅はうってかわって静かになり、1コーラス目が鳴り終わる。

 そして、80名のランナーが神経を尖らせる中――。

 

 ――運命の、2コーラス目が鳴り終わった。

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