『さぁ始まりました鉄道の日記念メガループ、京葉線他115マイル! まず先頭で飛び出したのはアオキジェット、ただ1名ぐんぐん加速していきます』
「おいおい。ワンウェイの走り方忘れてねーか。ほぼ無制限にスタミナ使えるシャトランじゃねーんだぞ」
ポラリスがレースを走る日。僕たちは東京駅京葉地下丸の内口近くの人通りのない地下通路の端でレース中継を見ていた。
「アオキジェットさんがどのあたりまで行けると思ってます?」
「先頭でいられるのも海浜幕張くらいまでじゃねーのか。高速で走れねーだろーしな」
と、そんな話をしていたとき。
ポラリスから突然届いたメッセージに、僕たちはふっ飛ばされた。
『助けて真也ー! エンジンがかからないの!』
「……ええっ!?」
「どーした急に、いきなり大声出して」
「モヤイから連絡があったんですよ、エンジンがかからないって」
「はー!? いきなり故障かよ!?」
こういうときは、まず。エンジンの状況を確認することが重要だ。
『ポラリス。一旦エンジンのギアを切り離して。それからスリップストリームで前のランナーにぴったりとくっつくことだけを意識して』
『えー! 電池が持たないよ』
『そうなる前にどうにかする道筋をこっちで立てるから。一応、モーターもできるだけ使わずに、ストライドで加速。できる?』
『わかった、やってみる』
とりあえずはポラリスの走行をモーターだけでいいから落ち着かせる。それから状況の確認だ。
「レースコースの縦断面図は……あった。えーっと、この先で下り勾配が続くのは……新木場? そんでこの前のデータだと、電池が切れる速度は……」
「あー、聞こえるポラリス? 新木場までは大きな勾配はないからがんばって。無理だけはしない」
『わかった』
「おいこら勝手に決めんな」
「それ以外選択肢あります?」
「俺は電車だから気動車のことは知らねーよ」
だめじゃん。こちとら一応スクールで電車気動車どころか自家用車から船だの飛行機だの一通りシステム習ってるのに。
こうなるともう僕でぜんぶ対応するしかない。
『ポラリス。まずはエンジンがつかなかったときの状況を教えて。それとエンジンの温度も』
『出てすぐの坂を登りきったところでつけようとしたんだけど、フューエル入れても動かなくって。温度も全然あがらないの』
『フューエルは入れられるんだね?』
だとすると……なんだ?
燃料でもない、温度でもない。既に動いてるんだからトルク不足でももちろんない。そして6気筒あるのが全部つかないのだから点火装置でもなさそう。あとは……あ。
『あの、ちょっとしょうもないこと聞いていい?』
『なに?』
『吸排気口、きちんとあいてる?』
その答えは、しばらく帰ってこなかった。
そして。
『てへっ』
『おい』
『エンジンついたよ! ありがとー! 今ね、海浜幕張をでたところ』
たぶんきのう洗ったときのマスキングテープを剥がし忘れたとか、そんな単純な理由だったのだろう。
ともかく、重大な故障とかじゃなくてよかった。僕は胸をなでおろした。
「ブライトさん、ついたみたいです、エンジン」
「はぁー。心配させやがって。そろそろ先頭は幕張新都心のショッピングモールあたりだろーし、まだそんなに電池は使ってねーよな……? とりあえず画面を実況に戻すぞ」
『振り返ってみましょう、先頭はアオキジェット、2チェーン離れてスカーレットセイロン、つづけてナリタエクスプレスとノーザンフィールド、その1チェーン後ろにアマチュア枠からデンエントシリンカン、競り合うようにデンエントシスズカケが続いている、ここまで先頭集団。そこからおよそ20チェーン開いて……』
中継では、ちょうど先頭集団が新習志野に差し掛かろうとする様子が映っていた。
「あっもー新習志野? ペース早くねーか」
「先頭から殿まで3マイルも開いてるっぽいですね」
「アオキに引っ張られたか……?」
さっきポラリスが海浜幕張って言ってたから、先頭までの差はおよそ2マイル開いている。
「まーこの時点での2マイルは焦る程じゃねーな。あと100マイルある」
「ですね。フューエルを消費してないこと考えると、最後方まで飛ばなかっただけだいぶ」
「そもそもこの区間は平均的に速度が高いから、その車列に乗りゃーいい。わざわざスタミナ削ってまで前を独走する必要はねーんだよな」
ポラリスの総合特性的には、車列から外れて真に速度を出すべき区間はまだまだ先だとブライトさんは分析していた。
具体的に言えば、東京貨物ターミナルの先、羽田トンネルの内部だ。ほとんど単線断面のこのトンネルがあるからこそ、それより前で速度を上げすぎるのは得策ではない。
そしてその最後の最後で、川崎貨物駅に入るための急勾配の線路と、スルーして先へと続く緩やかな上り勾配の線路に分かれる。その地点から多くのランナーは後者の線路に入っていくのだが、そこを前者を選んで追い抜きをかけていくのだ。こっちの線路に入ってしまえば、まもなく追い抜き優先ルールが適用されるようになるため、前のランナーに塞がれることはほとんどなくなると言えるから。
そしてそのままレースは滞りなく進行し、集団は大きな動きのないまま東雲を過ぎて東京港の地下トンネルへと入っていった。