ノリモントレイナー:輸送の生命   作:だぶるすたぁ

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12レ後:府中→船橋・引くほど速い

『さぁここで府中本町、レースは折返し地点だ! 先頭はポーラーエクリプス、既に2番手とは10チェーン以上の大差をつけて独走状態、まだ広がっている』

「わーはやい」

「速いですね……」

 

 僕とブライトさんは、顔色を悪くしながらお互いの顔を見合わせた。

 

「「どーしてこーなった」」

「なんで曲がれるんだ……。嬢ちゃんの重心高いくつで計算したっけなー」

「800じゃありませんでしたっけ」

「ぜってー400すらもねーなアレ。車輪つけた身長で雑に見積もったら安全側に寄り過ぎたかな」

 

 そもそもポラリスの場合、足回りのパーツがかなり重いのにポラリス自身は軽いのだから重心は自ずから低くなる。その足回りですらもただでさえ重い電動機とか蓄電池とかエンジンとかは車軸近くにまとめて、靴底の上にあるのは空気溜めなどの見た目こそゴツいが軽いものばかりだからなお重心は下がる。

 

「で、どうしてランカーブ以上に爆走してるんですかね。モヤイ通じて聞いてもなんかもう笑い声しか帰ってこないのですっごく心配なんですけど」

「……すまん、それは俺が悪い。曲線通過速度の限界がはっきりしねーから安全寄りでランカーブ引いて、備考として制動抜きで通過できるなら出せるところまで出していーぞってことにしといたんだよな」

 

 ほぼそれが原因じゃん……。

 まさかここまでコーナリング巧者だとは思わなかったのだそうで。

 

「これトライゼット号の記録した区間記録に下手したらかなり近づいてるんじゃねーのか」

「それだったら府中本町の時点で実況さん反応してるのでは?」

 

 その疑問に答えるかのように垂れ流しにしている実況放送が入った。

 

『えー区間記録気になっている方も多いかと思われますが、現在協会で遡っての各地点通過時刻を確認しているとの情報が入っております』

『まだ注目すべき走りをしてませんでしたからね。恐ろしいノリモンですよ』

 

 つまりは協会側が基準となる地点の時刻を把握していないから通過時刻が出せないということらしい。

 

「エタさんなーにやってんだ、根回しとかしとけよ……」

 

 ブライトさんはそうランカーブと実況中継を見ながらぼやいた。だがしかしいつの間にかそこにいたのだろう、その帰ってくる訳がないと思い込んでいた呟きに、答えが帰ってきた。

 

「仕方がないだろう。私だって万能ではない」

「いやそれでもプロランナーは全員分記録してるんだから……っていつの間に!」

 

 絵巻めいたランカーブを下げれば、その向こうにはエターナルさんが立っていた。

 

「君達の中に誰かしらは東京にいると思ってな、少し探して見つかったので声をかけさせてもらった」

「……どっから聞ーてた?」

「トライゼット号の辺りからだな。おそらく私の見立てではより短い時間で通過したと見えるよ。今頃武蔵野線各駅やインターネットではかなりの盛り上がりを見せているだろう」

「うっわ確認したくねー」

 

 そう言うブライトさんをよそに、エターナルさんは手元の端末を確認し始めた。

 

「喜べ、既にトレンドを急上昇しているぞ」

「いらねーよ、その情報は」

「『みんなアホなのではというくらいの高速運転ですねーそして先頭は多摩川橋梁を越えました』『ポーラーエクリプス南多摩通過。引くほど速い』」

「呟きを朗読すんなや」

 

 その端末はエターナルさんの手を離れて、ブライトさんの手により画面の明かりが落とされた。一瞬だけエターナルさんはムッとした反応を見せてから、懐より封筒を取り出してすり替えるようにして端末を取り戻した。

 

「これは?」

「来月のレースのうち、デビューランの行えるものを抜粋したリストだ。分かっているだろう?」

「ギャラリーは次走を期待してる、っつーことか。気の(はえ)ー奴らだ」

 

 そうは言いながらも封を開けてリストに目を通しているが。そして目ぼしいものがあったのか、一瞬だけ目線を止めて口角を上げた。

 

「だいたいよー、嬢ちゃんは南武線じゃ強かったが、この武蔵野線じゃ()()()()()()()()。逃げ切れる訳がねーぞ」

 

 ノリモンの出しうる理論上の最高速度は、モーターあるいはエンジンの許容最大回転数と歯車比、そして車輪径の単純な掛け算で決まる。そしてモーターの許容最大回転数は気筒を増やそうが所詮はレシプロに過ぎないエンジンのそれよりも遥かに大きい。こうなると、いくらギアチェンジで補えるとはいえ気動車の理論上の最高速度は電気車のそれに劣ることになる。

 流れてくる実況を聞く限りでは、既にポラリスのスピードは頭打ち。その後ろにじわじわと詰められ南浦和時点でリードは10チェーン弱に戻されている。

 

「なら貴様はどこまで行けると見ている」

「平均毎駅1チェーン詰められ新三郷3チェーン差、江戸川を渡るS字で減速が少ないネオトウカイザーが2番手に出て南流山5チェーン差、そこから同じペースで詰められると見た」

「ほう」

「だがその先は読めねー。全員南武線で速度を出しすぎだ、京葉線じゃほぼスタミナが尽きた状態だろーな」

「その原因を作ったのがポーラーエクリプス号だろうに。ならば彼女の作戦勝ちよ」

「何も考えてねーと思うぞ」

 

 そしてレースはブライトさんの予想通り、市川大野を過ぎた頃にはポラリスとネオトウカイザーさんが1チェーン未満まで迫っていたのだった。

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