「それで逃げ帰るように東京を出ちゃったのね。莫迦じゃないの? これから身のふりとか考えさせた方がいいわよ?」
「いや本当に反省してます……」
ポラリスのレースから数日後。僕は隣のレジに立つヤチさんにこってり絞られていた。
というのも、ポラリスがあそこまで善戦するのを全く予想してすらいなかった――アマチュアの中で順位一桁に入ればいいほうだと思っていた――僕達は、インタビューの受け答えとかを全く用意していなかったのである。
結果、受け答えのほとんどをそういった経験があって場数を踏んでいるブライトさんのアドリブに任せて僕たちはほとんど突っ立っているだけという始末。
「ヤッちゃん、そこまでにしとけ。悪ーのはランカーブ引ーたクセに予測できなかった俺だ」
ブライトさんが、バックヤードからぴょこんと顔だけを出してそう援護はしてくれたけれど、実際自分でも自分に非があることをはっきりと否定できない訳で。
「……はぁ。とにかく、貴方達は広報戦略を1回きちんと練った方がいいわよ?」
「広報戦略って言われましても」
「例えば、SNSのアカウントを開設するとか」
「この子みたいにか」
ブライトさんは端末の画面をこちらに向けながらそう言った。
マケタダイスカイ
@WinningLiner
走っています
◎ 軌道上のどこか
128 フォロー中 9,009 フォロワー
「えーっと、マケタダイスカイ、さん?」
「いや、このアカウントの持ち主はカツタダイスカイ号、レースで負ける度にこうしてスクリーンネームを変えて結果報告をするので一部の界隈でカルト的な人気を誇っている」
なんだそりゃ。自分の名前で遊ぶんじゃない。
……ん、
「あの、ヤチさん」
「わたしの姉よ」
「やはりそうでしたか」
ブライトさんこれ絶対知っててやったやつだよね。笑ってるし。
……後でどうなっても知らないよ、僕は。既にヤチさんの目が笑ってない。
「まぁ、カツ姉程戦略的に使いこなせとは言わないけど。でもちょっとくらいはこっちから発信していかないと、好き勝手言われ放題になってちゃう。それがインターネットの恐ろしいところなの」
「でも僕達はJRNに所属してるじゃないですか。実名でSNSってコンプライアンス的にはどうなんですかね」
「機密情報とかよっぽど過激な思想を流したりしなきゃ平気よ。あとは、個人の意思決定を組織の意思決定だと思われないような文面を心がけること。それさえ守れば、実際やってるのはけっこういるしね」
そんなものかぁ。
それからポツポツとお客さんが入りだして来たので「ま、考えときなよ」とだけ交わして僕達は仕事に戻った。
そして午後に入ってシフトが終わったあと。
僕はみんなに連絡してカフェテリアまで来てもらい、広報についての話し合いをすることにした。
「……と、いうわけなんですけど」
「広報、ってどういうこと?」
「まあつまりはポラリス、インターネットを通じてお前とファンとの間を繋げるってことだ」
「えっ!? ポラリスそれやりたい!」
ポラリスは手を高く上げながらぴょこぴょこと跳ねてそう言った。テンションが高いな。
「私は既に個人的なアカウントを開設し、応援していただいている皆さまとの交流に努めておりますが。正直、ポラリス個人のアカウントを開設するのは推奨しかねるかと」
まぁそれは僕だってそう思う。
そもそもあの子何書きだすかわからんし、あと単純にインターネットの闇に触れてほしくない。
「そもそもポラリスの歳じゃSNSの大半は開設不可能だろうが。例えばさっき見せてくれた奴は13歳未満は登録禁止だったと思うぞ」
「年齢制限として個人が駄目なら、いっそ団体化してその団体のものにする、というのがよくある方法ですね」
「多くはねえよ、誰だそんなこと言った奴」
「北澤さん」
わりとよくあるライフハックだし実際に使ったこともあるって彼女は言ってたけど、どうやら一般的にはそうでもないらしい。
その時はほへーって聞いていたけれど、言われて冷静に考えてみると確かに使いどころはよくわからないなこれ。一体何に使ったんだあの人。
「まーでもありかもしれねーな」
「何考えてんだブライト」
「アカウント乱立させても仕方ねーし、一つのアカウントでポラリスだったり俺だったり山根だったりが対応できる方がいーんじゃねーかって」
「そもそもどういう団体なんだよこれ」
「ぴったりの言葉があるじゃねーか。それこそ【
ブライトさんはそう言いながら、円卓の真ん中に手を伸ばした。
「そう、チームだ」
「成程。それはいい提案かと。【帝国】の皆様も、チームのアカウントを有していたと記憶しています」
ブライトさんの手の上に、ロイヤさんが手を置く。
「ま、俺は決めたんだ。ベーテクの夢を手伝うってな。そんなベーテクがポラリスのやりたいことができるように願ってるんだから、俺に断る理由なんてない」
さらに成岩さんの手が重なる。
「僕も協力する。ベーテクさんとの、約束でもあるから」
そこに僕の手を重ねて、僕たちは8つの目で彼女を見つめた。
「……うん! よろしくね、みんな!」
そして、そこに5つ目の手が重ねられた。