「よーし、じゃーサインアップするぞ」
机の真ん中に置かれたブライトさんのタブレット端末。そこに映し出されているのは、大手SNSの登録画面である。
「IDは……普通に@Kiramekihirobaでいーな? あいてるし」
「いいと思う」
こんな感じでトントン拍子で手続きは進み、あっという間にアカウントが開設された。
「で、これ最初は何書けばいーんだ?」
「私にお任せいただきたく」
ロイヤさんはそう言ってタブレット端末を操作すると、ブライトさんが止める間もなく初めてのつぶやきが電子の海に放流された。
「一体何書いたんだ? えーっと」
キラメキヒロバ
@Kiramekihiroba
ランナーチーム【キラメキヒロバ】です!
◎ 東京都 小平市
0 フォロー中 1 フォロワー
ロイヤさんなのに意外と文面がらしくない。よくよく読んでみると確かにロイヤさんっぽい言い回しもあるけど、文末に『!』をつけるだけで相当印象が変わるんだな……。
だが、同じように画面を見ていた成岩さんは別のところに気がついた。
「まだ1回しかつぶやいてないのにもうフォローされてるんだが?」
そしてそれを確認しようとフォロワー欄をタップし、画面が切り替わると同時に。
「私です」
ロイヤさんがそう答えた。そして切り替わった画面には彼女のアカウントだけが表示されている。
「既にいいねされてるのは」
「私です」
「拡散されてるのも……?」
「私です。引用付きと引用無しで1回ずつ」
「恐ろしく早い操作だ……」
「まだアカウント作っただけで運用方針とか決めてねーのに……」
ブライトさんは頭を抱えていた。気持ちはわかる。
「つぶやき消します?」
「いや、そこまでする必要はねーと思う。けど次のつぶやきは色々決めた後な」
そう言いながらブライトさんはタブレットの画面を消した。
それから決めたのは、まずつぶやく時のルール。普通のつぶやきは基本的に全員が自由につぶやくことはできるけれど、今のつぶやきのように最後に誰が書いたかをわかるよう括弧書きの中にそれぞれの名前の頭文字をカタカナで入れておくことになった。つまりロイヤさんは(ナ)、ブライトさんは(ス)、ポラリスは(ポ)、成岩さんは(フ)、僕は(マ)だ。念の為(イ)と(ア)を定めておいたけれど、これが使われるのはおそらくだいぶ先になると思う。
そして返信には原則的に元のつぶやきをした者が対応すること、ただし事前に対応を変わってほしいと連絡を入れた場合は変わってもらえること――主にポラリスを念頭において決まったことだ――などがどんどんルールとしてきまってゆく。
それから、フォローバックの基準。これは同じランナー、ランナーのチーム、そして協会と報道筋、あるいはコラボの決まった企業さんなどに限定して、勝手なフォローバックはしないこと。
そして、大前提としてJRN全体のソーシャルメディアガイドラインに従うこと。機密情報を漏らすなとか、誹謗中傷をするなとか、真偽が怪しい情報をみだりに撒き散らすなとか、一般的な内容ばっかりだけれどとても重要なことだ。
そうして小一時間ほど話し合ってから、ようやく次のつぶやきをどうするかという話になった。
無難に行けば、メンバー紹介なのだが。困ったことにポラリス陣営のうち2名ほどはまだ連絡がついていない。時差が9時間もあるから仕方がないのだが……。
「毎日ひとりずつ紹介する形で一週間かければいいんじゃねえか。そうすりゃ数日は時間が稼げる」
「じゃーそーしよーか。最初は……さっきつぶやいちまったロイヤ、お前な」
「拝承」
……ん? 一週間?
「えっと、僕と成岩さんもですか」
「当たり前だろ。俺たちもサポートとはいえチームの一員なんだから」
「でも走る訳じゃないですよね」
「トレイナーの走れるレースもあるが、参加してもいいんだぞ?」
成岩さんはそうおどけて言った。彼なら実際参加しかねないのが怖いけど、今のところ僕にはその予定はない。
そう、言おうとしたところで。その予定がすでに用意されていることを指摘された。
「そもそもポラリスが年末の24耐出るってなるとフューエルの補給できるのが俺かお前だけだ。ほかのみんなは電気車なんだから」
「えっ」
「だからどっちにしろメインとして走る訳じゃなくともレース内で走る事になる。これは決定事項だ」
言われてみれば確かにそうだ。しかも24時間ぜんぶをワンオペでやるわけにもいかないだろうから、僕達2人が両方そこに加わることになる。
「で、順番は……」
「ロイヤ、嬢ちゃん、俺、ベーテク、Advanced Passenger号、成岩、山根の順で考えてるが」
「ならそれだな。そういう訳だから、自己紹介考えとけよお前も」
……あれ、自己紹介って何書けばいいんだ?