「さて、まずはあの子のタイムベルを回収しないとね」
月末も近づいた火曜日のことだった。埼玉県さいたま市大宮区大成町でクィムガンの発生が報告されていたので、僕達はそちらへと出動することになった。
「早乙女氏。おかしいとは思わぬかね」
「あぁ。ここのところ多くても年に一度程度の、報告書をすべて読み切る前に次の報告が共有されてくる例が続いている。何かの前兆でなければいいが……」
専用列車の中で、早乙女さんが話しているのが聞こえる。その相手は、カリーナ・ユニットのリーダーである高山さんだ。
そう、カリーナだ。つまり。
「いやまさかこんなすぐに一緒になるとは思ってもなかったっすよ」
「僕もですよ。今日はよろしく」
名松もここにいる、ということだ。
「こっちこそ宜しく頼むっすよ。委員長も」
「もうアタシは委員長じゃないんだけど?」
「あっ、そうっすね……北澤さん? 聞いてるっすよ、ウルサの新人が2人ともようやってるって」
そう話をしていると、向こうのユニットから気にかけてくれたのか1人、こちらに向かってきた。
「おう一志。知り合いか?」
「前に言ったっすよね? ウルサの新人2人は同期だって」
彼女はその名松の言葉に顎に手をあて、そして少ししてから突然口を開いた。
「……あぁ!」
「絶対忘れてたっすよね紀勢さん」
「んなこたぁねえし。確か綾部と程久保って言ったろ?」
「ほら覚えてないじゃないっすか!」
名松と紀勢さんはそのまま僕達を置いて軽い口論に発展した。このめちゃくちゃうるさい専用列車の中でよくやるなあ。
「なんか楽しそうね」
「そう……かなぁ?」
まぁでも仲はいいんだろうなぁ。あの感じだと。
そして少しすると、言い合いが終わったのか名松は紀勢さんを連れて戻ってきた。
「さっきは済まなかった。カリーナロケットの紀勢佐奈ってんだ、よろしくな」
「アタシは北澤百合、ウルサパレイユです」
「ウルサロケットの山根真也です、今日はよろしくお願いします」
「おう、よろしくな」
なんというか、かなり豪快な方だ。あの人普段ロケットの中で何やってる人なんだろ……。
少し気になったけれど、それを聞こうとする前に列車は減速を始めた。対応の準備をしなければ。
今回もなぜか例によって2箇所での同時発生のため、こっちに回されているユニットはウルサ、カリーナとエクレウスの3ユニットだけ。なのであまり攻めた戦い方はできない。じゃないと十分に回復できぬままに再入場する羽目になるからだ。
それを頭に入れた上で、僕達は列車を降りた。目の前の川越線の線路を塞ぐように張られたラッチには、もはやそこから動かせなかったんだなという諦めが感じとれる。
「さて、気を引き締めて行こうか」
「我々も行きますぞ」
中にはまるでクラゲのような姿のクィムガンが宙に浮かんでいた。そして僕達を見つけたのか、その触手のようなものをびゅんとこちらに伸ばして攻撃してくる。
『トランジットしている余裕すらないか。各位攻撃回避を最優先に、余裕があればシールドを削るように』
「わかってるっすけど、これどうすりゃいいんすか」
目の前で同じように攻撃を避けんとする名松が叫ぶ。避けても避けても次々と襲ってくる攻撃は、僕ももはや回避だけで精一杯だ。
「《アークティック・ホワイト》。『みんな、トランジットは今のうちに』」
佐倉さんが白い軌跡を残しながら剣を振るうと、その陰には僅かな安全地帯ができた。そこに早乙女さんと北澤さんが入ってトランジットを始める。
それを見たのだろう、名松が壁を作ろうとしてくれた。
「なるほどっすね。ここはこっちが引き受けるっす! 《ダブルスキンシールド》!」
「ありがとう」
「良いっすよ、ウルサの真髄、見させてもらうっすから」
空気の渦が触手を弾く後ろで、僕はチッキを取り出し改札機を呼び出した。
「失われし星の輝きよ、果てしなくなつかしい大地に最後の煌きを! ポーラーエクリプス号、このトモオモテに宿れ!」
「……えっ」
何か驚く声が聞こえるけれど、もうトランジットが終わるまで戻れない。
そして改札機が開いてなにかヤバいことでも起きてるんじゃないかと内心ヒヤヒヤしながらも飛び出す。
と
「……君だったんすか」
「何が?」
「いや、終わったら話すっす。今はこいつの対応が先っすよ」
コジョウハマを右手に持つ。触手を払うのだって、このウェポンがあるのとないのとでは安心感が違う。そして左手ではいつも通り《桜銀河》をためておく。
と、その時。無線から声が聞こえた。
『ウルサパレイユより各局へ。いまからクィムガンを止めます! 《安全鉄則 先ず止まれ》!』
「反撃の時間っすね」
赤い光がクィムガンを覆い、僅かなピクピクとした震えを残して動かなくなった。北澤さんが技を使っているんだ。
ならばこれが解けないうちに!
「《クンネナイ》!」
「行くっすよ、《エアロ・ダブルウィング》」
銀色の風が、白色の風が、それぞれ青いラインを伴って飛び上がった。
上から見ると、北澤さんの技の影響だろうか、シールドの色すら動いていないことがわかる。そして、大きく黄色が出ている周りには他の人はいない。これならば!
「黄色を、抜ける! 『ウルサロケットより各局へ、発射します、《桜銀河》!』」
「おっと、避けた方がいいっす、ね!」
急降下して青いシールドを狙う名松とは逆側の、黄色いシールドへと光線が伸びていった。