『ウルサノーヴルよりウルサロケットへ、莫迦野郎! 撃つんだったらもっと事前に言えや! 危うく突っ込むとこだったぞ』
着地するとともに、成岩さんから怒号が無線で飛んでくる。
……一応確認はしたんだけどなぁ。
「ウルサロケットより、ごめんなさい、今のうちに削っておきたかったんです」
『事故らなかっし黄色も削れてるから許す』
許された。
そのやり取りを終えると、攻撃を終えた名松が隣に着地してきた。
「怒られたっすね」
「話聞いてるならわかると思いますが、これ誤射が一番怖いんですよね。トレイナーに当たったらパリンですし」
「そうじゃなくともあの鬼気迫るかんじからなんとなく分かるっすよ。さ、もう一回……」
『ウルサパレイユより各局へ、そろそろ限界! 無理ぃ!』
「……と、今から跳ぶのは無しっすね」
むしろ今までここまで止められただけでもかなり助かった。北澤さんはいつの間にこの技を使えるようになったんだか。
そしてクィムガンの振動は大きくなり、ついにはバネが復元するように全ての触手が高く飛び上がった。
また攻撃を防いだり避けたりするフェイズか。そう思って動きを切り替えんとしたとき。
『カリーナサイクロより各局へ。できるかわからないですが止めてみます』
「参宮さん!? そんなことできたんすか!?」
名松が驚く間もなく、クィムガンは紫色の光に包まれて、再びその俊敏性を大きく損なわさせられた。完全に止まった訳ではないので警戒は必要だけれど、普通にこちらから主体的には攻撃ができるレベルだ。
……とはいえ、さっきの《桜銀河》で黄色はだいぶ削れた。なので相対的に黄色が台頭してくるまでは青を殴るしかないのだが、成岩さんが動きの鈍ったクィムガンのシールドをオオカリベで刈り取るわ名松もしれっと一撃が重いわで青もそこそこ少なくなっている。となると、仕事としては陽動だのをして削り要因から攻撃を引き付けた上で逃げまくることになるのだが、それすらもご覧の通りクィムガンの動きが鈍いので必要がない。
こうなると長期戦を見据えてスタミナ温存のためにあまり動かないのが正解となるんだけど、それはそれでどうなんだろう? そもそも、僕が温存したところで他のメンバーが切れたら同時に交代である。
……とりあえず黄色がこっち向いたらいつでも撃てるようにはしておくか。
だけど、それが生かされることはたった一度しかなかった。カリーナサイクロの参宮さんの技が解けて、そこに早乙女さんが続けてクィムガンの行動を制限する技を使ったところで、北澤さんのバッテリーユニットがほぼ尽きてしまったのだ。最初にクィムガンの動きを完全に止めた上にその後に残っていた緑のシールドを桜色に光るショートソードで恐ろしい勢いで削っていたのだからそりゃ消費は早い。彼女を責める者は誰もいないだろう。
『ウルサバランスより、ウルサは私を残して撤退を。私は状況把握のため残る。伴って、総指揮を移管したい』
『カリーナパレイユより、吾輩が指揮をとる』
それから僕達は出場し、外で待機していたエクレウス・ユニットの皆さんに大まかな対応方針と注意点を伝えてから、しばしの休憩となったのだった。
「北澤、よくやったな」
「そうかな? そうしなきゃみんな動けそうになかったし、何よりその最中動けなかったのを取り戻そうとして余計に消費しちゃった」
「なら次から気をつけりゃいい。少なくとも、今回は北澤、お前の手柄がデカい」
「私もそう思う」
「でも、時間を稼ぐのは佐倉先輩の」
「褒め言葉は素直に受け取っておけや」
この時、僕達は思いもしなかったんだ。
まさかこのラチ内で対応しなきゃいけない存在が、この後に増えるだなんてことは。
鉄道博物館。
クィムガンの発生により全員が避難することになり、またその被害により停電となり光のない館内で、スタァインザラブは目当てのものを探していた。
「
スタァが取り出したのは、金色の大きな鐘――関釜連絡船、金剛丸の号鐘だった。
金剛丸は、様々な『初めて』の記録の残っている船である。日本で初めて、航海速力が22ノットを超えた船。世界で初めて、客室全てが冷房化された船。世界で初めて、船内電源の全てに交流電源を用いた船。そして――世界で初めて、
昭和26年10月。韓国は釜山港を出て、佐世保港に向けて航行中だった金剛丸は、九州に大きな被害をもたらしていた台風Ruthの迫るその道中で運悪く、はじまりのクィムガンの攻撃を受けた。金剛丸は損傷し、佐世保近くの五島列島は宇久島、乙女ノ鼻付近に擱座。乗り合わせていたアメリカ兵や乗員が避難・上陸して数時間後には、金剛丸は見るも無惨な姿に変わり果てていた。これが公式記録に残る、最も古いクィムガンによる被害である。そしてそのはじまりのクィムガンは、その迫っていた台風の名に因みルースの落し子と呼ばれるようになったのだ。
スタァはその金剛丸の号鐘を抱えて博物館を出ると、忌々しいものを見る目で視界に映る半球状の結界を見つめた。
「ラッチ……まったく、面倒なものを開発してくれちゃって。でも、
次の瞬間、スタァはその場から消えていた。